VW ゴルフのベースグレードを1週間使い倒す…ミニマルで好ましい生活の友

小排気量ターボの弱点を補完するモーターのアシスト

軽いエンジンのハッチバック=爽快なハンドリング

フルハイブリッドに迫る燃費

ミニマルで合理的、爽快な乗り味の一台

VWゴルフ eTSI Active 車体色:ムーンストーングレー
VWゴルフ eTSI Active 車体色:ムーンストーングレー全 7 枚

8代目となったVW 『ゴルフ』のベースグレード、ゴルフ eTSI Activeを1週間借りることになった。筆者は以前、5代目ゴルフのベースグレード(2008年式TSIトレンドライン・1.4リットルターボDSG)を所有していたこともあり、昨年発売されたこの8代目は、果たして15年ほどの間にどれだけ進化したのか興味シンシン。普段のアシとして使い倒してみればその進化の度合いがよく分かるのではないか、と思いながらキーを受け取った。

8代目ゴルフはさらにエンジンのダウンサイジングが進み、借り出したこのベースグレード(eTSI Active)はなんと1リットル3気筒。さすがに力不足なのではないかと訝りながら乗り出したのだが、必要十分以上に爽快に加速するし、とても好感の持てるクルマだと感じた。

ファミリーカーとしてミニマムなパッケージとエンジン。インテリアの質感、タッチ&フィールも、贅沢ではないが合理的。筆者も含め、こういうのが好きな人にはたまらないやつ。むしろベースグレードだからいい、という好例だ。

◆エンジンと共に48V MHEVにも注目

それでは、この8代目ゴルフeTSI Activeに関する技術的なトピックスを整理しておこう。

今回試乗したのは、8代目ゴルフのなかでも最もベーシックな1リットル3気筒エンジンを搭載するグレード。装備充実の売れ筋グレードだ。

8代目ゴルフには3種類のエンジンがあり(1リットル3気筒ターボ / 1.5リットル4気筒ターボ / 2リットル4気筒ディーゼルターボ)、それぞれ装備によってグレードに分けられている。トランスミッションはいずれも7速DSG。

ディメンションは全長4295×全幅1790×全高1475mm ホイールベース2620mm。国産車で言うと『カローラスポーツ』とほぼ同じサイズだ。

ゴルフといえば、2000年代に登場した5代目ゴルフ以来、ダウンサイジングターボのパイオニア的な存在だが、今回の8代目では、これまで長く使ってきた1.2リットル4気筒ターボをさらに小型化し、ついにポロに搭載していた1リットル3気筒ターボを搭載した。このエンジンをゴルフに積んでどうなのか、ここがまず気になるポイントだ。

そしてもうひとつ、ガソリン車には全車48Vマイルドハイブリッドシステムを搭載することも注目のポイントだろう。アイドリングストップだけでなく、発進時の極低速域で加速をアシストし、スムーズな発進加速を実現するとともに、減速時には回生も行う。

加えて、アクセルオフ時にエンジンを停止させるコースティングという状態から、アクセルオンでエンジンを再始動する際に、このシステムがモータースタータージェネレーターとしてスムーズな再始動を行う。

…と長々と説明したが、あらためてこう書き出してみると、小さなエンジンに複雑な機構と制御技術を盛り込んだこのパワートレイン、フォルクスワーゲンの執念のようなものを感じる。それだけ凝ったシステムということだ。

それでは、乗ってどうだったのかを紹介しよう。

VWゴルフ eTSI Active 車体色:ムーンストーングレーVWゴルフ eTSI Active 車体色:ムーンストーングレー

◆小排気量ターボの弱点を補完するモーターのアシスト

まず感じたのはこのエンジン、良い意味で存在感が薄い。まず音や振動が少ない。意識してみれば3気筒ならではのざらついたノイズも無くはないが、普段乗っていて気になることはまずないだろう。排気量そのものが小さいので、音や振動の絶対量が少ない。

発進加速は、極低速域のモーターのアシストのおかげでスムーズだ。観察してみたところ15km/hくらいまではアシストが効いてスッと前に出る。その後はモーターのアシストが切れ、エンジンと7速DSGによって加速していくのだが、そのモーターとエンジンがバトンタッチするところにトルクの谷があり、小排気量ターボの苦手な部分が露呈する…のだが、これは、SDGの変速モードで印象がガラッと変わる。

Dモードでは、燃費を意識してかとにかくポンポンとシフトアップしてしまうので、流れに乗った加速シーンでも、このトルクの谷で多少の痛痒感があるが、Sモードだと、モーターのアシストが切れるタイミングでトルクの谷を越えてパワーバンドに入っているため、思い通りに加速していく。高速道路への合流や料金所通過後の加速時でも、十分以上に爽快な加速力があり、じれったさを感じることはないだろう。

小排気量ターボとDSGにあるトルク変動も、モーターのアシストのおかげでうまくカバーされているが、一方でEVや電動車に乗り慣れた身には、アクセルを踏んでから一瞬遅れてトルクが出てくるエンジン車の動きに最初は違和感を覚えた。思ったよりスピードが出過ぎたり、あわててブレーキを踏んだりしたが、ほどなくしてかつての感覚を思い出し、スムーズに転がせるようになった。

◆軽いエンジンのハッチバック=爽快なハンドリング

そして、この爽快な走りにはエンジンの軽さも少なからず貢献している。エンジン車においては、鼻先に大きな岩を載せたような慣性の強いヨーを感じることもあるが、この1リットルと乾式DSGが軽いこともあり、重い岩を振り回しているような感覚がない。

ましてSUVに乗り慣れた身にとっては、ステアリングを切りこんでからワンテンポ遅れて、よっこいしょと曲がるようなもったり感が、ハッチバックのゴルフには無く、爽快感をさらに増している。

◆コーナーでイン寄りのラインを取るADAS

運転支援機能については、アダプティブ・クルーズ・コントロール(ACC)とレーンキープを試すことができた。

まずACCについては、メリハリのある挙動で、車両が周辺の状況をどう認識しているのかが分かりやすい動きをするため、安心感がある。

そしてレーンキープについて。レーンの中央をキープするというより、イン寄りのライン取りをする。ゆえにカーブに差し掛かるところから、曲がろうとするクルマの意思が伝わってくるので、安心して任せられる。カーブではイン寄りを走る方が人間の感覚に近く、違和感がないように思う。また、かなり曲率が高いカーブでもレーンをキープするのには感心した。首都高速のきついカーブでも、途中であきらめることなく動作し続けた。

◆トーションビームでも十分快適

乗り心地については、この1リットルモデルのみリアサスがトーションビームになるので、乗り心地が良くないという話もあったが、上位グレードと比べなければまったく不満はない。

フォルクスワーゲン独特な座面が前上がりのシートも、肉厚な造りではないが面圧が偏らず、適度なランバーサポートで骨盤が後傾しにくく疲れにくい。

装着タイヤはグッドイヤー エフィシェントグリップ パフォーマンス 205/55 16インチ装着タイヤはグッドイヤー エフィシェントグリップ パフォーマンス 205/55 16インチ

◆フルハイブリッドに迫る燃費

そして気になる燃費について。ダウンサイジングターボの原点であるかつての愛車ゴルフ5は、生活のアシとして使うと燃費が伸びないことが悩みで、街乗りの燃費は10km/リットルを超えるかどうか。夏場や冬場には9km/リットルほどに落ち込んだ。

果たしてゴルフ8はどうだったかと言うと、東京の多摩地区で生活のアシとして真冬の1週間使った結果、14.5km/リットルという結果になった。この1週間は高速道路走行が普段より多めになっているが、それを差し引いても、街乗りの間燃費計をチェックしていた感じでは、14km/リットル前後になりそうだ。

この14~15km/リットルという実燃費、どの程度なのかと言うと、現在の愛車である日産『キックス』 e-Powerは15.5km/リットルなので、それより少し落ちるが、車格の違いは多少あるとはいえ、フルハイブリッドに近い燃費が出せるまでに進化したということだろうか。

借り出してからの平均燃費は14.5km/Lとなった借り出してからの平均燃費は14.5km/Lとなった

◆ミニマルで合理的、爽快な乗り味の一台

ということで、ゴルフ8 eTSI Active を1週間、生活のアシとして乗った印象を手短に表すと、ミニマルで合理的、かつ爽快な乗り味を持つクルマ、と言ったところだ。

個人的には、久しぶりにハッチバックに乗って、軽快な動きにあらためてその良さを感じた。パッケージに関しても、現在の愛車であるキックスよりは少々室内が狭いが、4人家族にとって実用に足る室内空間と爽快な乗り味を両立しており、小排気量エンジンもあって使い切る楽しさを感じた次第。

もちろん私のようなファミリー世帯に限らず、質のいいものを必要なだけ持ち、シンプルなライフスタイルに心地よさを感じる人ならば、きっと気に入る一台だと思う。

《佐藤耕一》

日本自動車ジャーナリスト協会会員 佐藤耕一

自動車メディアの副編集長として活動したのち、IT企業にて自動車メーカー・サプライヤー向けのビジネス開発を経験し、のち独立。EV・電動車やCASE領域を中心に活動中。日本自動車ジャーナリスト協会会員

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