潮目が変わった“カーボンニュートラルへの動き”
「世界はEVに舵を切った」という言葉が既成事実のように叫ばれ、内燃機関禁止のタイムリミット競争が白熱していたのはホンの数年前だが、案の定というか、話はひっくり返った。プロパガンダの震源地は決定権のない諮問機関に過ぎない欧州委員会であり、それが本当に決定権のある加盟各国を背景とする欧州理事会によって覆され、否決された。要するに決まってもいないことを、さも確定済みであるかの様に報道していたというのが明確になったわけだ。
具体的に言えば、2023年3月25日。欧州委員会はドイツ政府と合意し、e-Fuel(イーフューエル)の使用を前提に、「35年以降も内燃機関の販売を容認する」と発表。ここで一気にe-Fuelが注目を浴びたのだ。
それを追うかのように、4月4日には日本自動車工業会(JAMA)が衝撃的なリリースを発表した。内容を抜粋する。
「世界中の自動車メーカーにとって、道路交通の脱炭素化は共通の目標であり、その実現に向けた取り組みが行われています。しかしながら、OICA(国際自動車工業連合会)のフレームワークが強調するように、すべての国にとって2050年までのカーボンニュートラルに向けた実用的で持続可能な道筋を提供するためには、多様、かつ技術にとらわれないアプローチによる柔軟性が必要です」
要するに“マルチパスウェイが必要だ”という主張である。これがJAMAだけの発言であれば、今に始まったことではなく3年近く前からの主張の繰り返しに過ぎないのだが、今回は違う。抜粋中にOICAのフレームワークと記されている通り、リリースは連名で発表されている。そこに名を連ねているのは以下のメンバーである。
欧州自動車工業会(ACEA)
イタリア自動車工業会(ANFIA)
米国自動車工業会(Auto Innovators)
カナダ自動車工業会(CVMA)
カナダ国際自動車製造者協会(GAC)
日本自動車工業会(JAMA)
フランス自動車工業会(PFA)
英国自動車工業会(SMMT)
ドイツ自動車工業会(VDA)
つまりこの声明は、自動車生産国の主要どころとなる自動車工業会の総意ということになる。
こうした世界的な動きの中でe-Fuelを中心としたカーボンニュートラル燃料(CNF)が大きな注目を集めているのだ。今回は4回連載で、そのCNFとは何かについて、解説していきたい。
地上において循環サイクルにあるものは、カーボンニュートラル
いまや、気候変動問題という言葉を耳にしたことがないという人はいないと思う。かつては「温暖化問題」と言われていたのだが、問題は気温上昇だけではなく、寒冷化をはじめ、豪雨や干ばつなど気候全般に及ぶものと再定義されて、気候変動と呼ばれるようになった。
その気候変動を起こす原因として挙げられるのがいわゆる温室効果ガスであり、それに相当する主な気体を挙げると、水蒸気、二酸化炭素、メタン、フロンなどである。フロンはかなり早期に問題視され、国際的に生産規制が進んでおり、ほぼ代替フロンに置き換わった。メタンは農畜産など人類に欠かせない食料生産と不可分な部分もあり、さまざまな研究がされているが、今のところ即効性のある対策は難しい。水蒸気に至っては海に蓋をするわけにもいかず、こればかりは人類のコントロールの外である。よって、現在は特に断りなく温室効果ガスと言えば、CO2削減の議論を指していることが多い。
ということで、大気中のCO2を増やすと、温室効果によって大気温が上昇するので、CO2の排出量を削減すべしということが現在全地球的な課題として注目されているわけだ。
以下、厳密かつ学術的な話は筆者の能力ではそもそも理解しきれないし、頑張ったところで例外も含めて大変な話になってしまうので、あくまでもカーボンニュートラルの原理原則を理解するための、ざっくり乱暴な説明として受け止めてほしい。地球科学とか生物学のまともな科学の話だと思われては困る。そんな大きなテーマはこの原稿1本でどうなるものでもない。
話は戻って、大気中のCO2はなぜ増えるのかという話を始めたい。この話自体も結構長い。CO2削減と聞いて、例えば我々人類が呼吸で吐き出すCO2は問題にならないのかという疑問を持つ人もいるだろう。結論を言えば、それはカーボンニュートラルだからOKなのだ。CO2削減にはゼロカーボン(CO2排出量ゼロ)の話とカーボンニュートラル(CO2中立)の話がある。ゼロカーボンに疑問を抱く人はいないだろうが、カーボンニュートラルは多分説明した方がいい。