クロスオーバーとスポーツツアラーは何が違う? スズキ『GSX-S1000GX』が目指した、GTとVストロームの“いいとこ取り”とは

スズキ GSX-S1000GX
スズキ GSX-S1000GX全 32 枚

先頃、都内にてスズキのニューモデル『GSX-S1000GX』の商品説明会が開催された。その場には開発に携わった主要なメンバーが出席し、このモデルに投入された様々な技術をアピール。新たなカテゴリーに対する意気込みが語られた。

「GSX-S1000GX」は、クロスオーバーと呼ばれるカテゴリーに属する。ベースになったのはネイキッドの「GSX-S1000」で、より安楽なライディングポジションとウインドプロテクションに優れるカウルを追加。高速走行や長距離走行における快適性を高めた仕様だ。

◆「GSX-S1000GTのスポーツ性とVストローム1050の快適性をここにまとめた」

スズキ GSX-S1000GX 開発メンバースズキ GSX-S1000GX 開発メンバー

しかしながら、スズキはすでに、スポーツツアラーの『GSX-S1000GT』をラインアップしている。このモデルも「GSX-S1000」から派生したもので、やはり前傾を強いられないライディングポジションと高いアベレージスピードを可能にするカウルを備える。したがって、多くのユーザーが「クロスオーバーとスポーツツアラーってなにが違うの?」という疑問を抱くことになりそうだ。

それに対し「GSX-S1000GX」のチーフエンジニアを務めた野尻哲治氏は、「クロスオーバーとは、スポーツツアラーとアドベンチャーの要素を兼ね備えた、言わばいいところ取りのカテゴリーです。多様化する嗜好の中、特に欧州での人気が高く、現在3万台ほどの市場を形成。そのニーズに応えるべく、『GSX-S1000GT』のスポーツ性と、『Vストローム1050』の快適性をここにまとめました」と説明する。

それを裏付けるスペックを、たとえば下記に記した前後サスペンションのストローク量に見つけることができる。

GSX-S1000GT・GSX-S1000GX・Vストローム1050

フロント:120mm・150mm・160mm

リア:130mm ・150mm・160mm

スズキ GSX-S1000GXスズキ GSX-S1000GX

この数値は、「GSX-S1000GT」よりもフワッとしたおおらかさを、「Vストローム1050」よりもカチッとした踏ん張りを想像させるもので、ポジションもそれに倣う。「GSX-S1000GX」のハンドル位置は、「GSX-S1000GT」より43mm手前、38mm上方、14mm幅広にセット。上体のリラックス度は、「GSX-S1000GT」以上、「Vストローム1050」未満になっている。

また、カウル面積も同様で、「GSX-S1000GT」ほどフルに覆われていないが、「Vストローム1050」より大型なのが「GSX-S1000GX」のアッパーカウルだ。このように、確かにスポーツツアラーの要素と、アドベンチャーの要素が混在。車名の末尾につく「GX」には、「グランドクロスオーバー」の意味が込められ、そこからも両方のカテゴリーを自由に行き来するコンセプトが伺える。

とはいえ、いいところ取りというのは、どっちつかずの中途半端な存在にもなりかねない。「『GSX-S1000GT』ほど高速巡航を得意とせず、『Vストローム1050』ほど乗り心地がよくないモデル」という理屈も成り立つわけだが、もちろんそんなことは開発陣も織り込み済みである。

◆スズキ2輪で初採用電子制御サスペンション「S.A.E.S」

GSX-S1000GX サスペンション・イメージGSX-S1000GX サスペンション・イメージ

では、なにをしたか? その象徴が、スズキの2輪車として初となる電子制御サスペンション「S.A.E.S」の採用だ。前後に日立アステモ(SHOWA)製のコンポーネントを組み合わせ、路面状況に応じて減衰力やプリロードが自動的に変化、あるいはライダーの好みに合わせて切り換えられるものである。

その制御には、車体の姿勢変化を検知してバネ上の安定化を図る「SFRC(スズキフローティングライドコントロール)」、車速に応じて減衰力を調整する「SVDC(スズキベロシティディペンデントコントロール)」、減速Gの強弱によって不要なピッチングを抑制する「SDDC(スズキディセレレーションダンピングコントロール)」といった項目が盛り込まれている。

SFRC作動イメージSFRC作動イメージ

もっとも、その作り込みにスズキならではのノウハウはあっても、機能としては取り立てて特別なものではない。電子制御サスペンション装着モデルなら、多かれ少なかれ設定されているメニューだからだが、開発過程でサスペンションのエンジニアと電子制御のエンジニアが協業して独自のプログラムを追加。その一例が「SRAS(スズキロードアダプティブスタビライゼーションシステム)」である。

これに関して、サスペンションの設計を担当した宮川敬太郎氏が次のように説明してくれた。

サスペンションの設計を担当した宮川敬太郎氏サスペンションの設計を担当した宮川敬太郎氏

「路面状況に応じて減衰力が変化するSFRCには、スポーツ性重視か、快適性重視かなど、いくつかの諸元があります。これは、主にIMUと前後サスペンションのストロークセンサーに基づく領域ですが、SRASはそこに車輪速センサーとアクセルポジションセンサーからの情報も加えて制御。たとえば、凹凸の多い路面ではその衝撃を拾い、ライダーの意思とは無関係にアクセルが動いてしまうことがあります。

それをSRASが検知すると、エンジンレスポンスを自動的に抑制し、余計な挙動を軽減してくれるというものです。これによって、不正路での快適性と一般的な路面での運動性が両立し、グランドクロスオーバーとしての懐の深さが引き立つことになりました。ただし、不正路でもアクティブに楽しみたい場合は、SRASの介入をオフにできるところがポイントで、ライダーの自由度をきちんと確保。私どもの制御に対する基本的な姿勢を感じて頂けると嬉しいです」

◆GSX-S1000GXの実力は

スズキ GSX-S1000GXスズキ GSX-S1000GX

この他、ブレーキ関係では、いわゆるコーナリングABSに相当する「モーショントラックブレーキシステム」と、下り坂で強く制動しても後輪のリフトを抑えられる「スロープディペンデントコントロールシステム」を新たに投入。

また、クルーズコントロール使用中も、シフターによるギアのアップとダウンを受けつける「スマートクルーズコントロール」を初採用するなど、スズキが持つ最新最良の電子デバイスが集約されている。

その意味で「GSX-S1000」シリーズのフラッグシップに位置するのが、このモデルだ。語るべきフィーチャーは、まだまだ書き切れないほど多岐に渡るのだが、次回は実際の試乗を通して、その魅力に迫ってみたい。

《伊丹孝裕》

モーターサイクルジャーナリスト 伊丹孝裕

モーターサイクルジャーナリスト 1971年京都生まれ。1998年にネコ・パブリッシングへ入社。2005年、同社発刊の2輪専門誌『クラブマン』の編集長に就任し、2007年に退社。以後、フリーランスのライターとして、2輪と4輪媒体を中心に執筆を行っている。レーシングライダーとしても活動し、これまでマン島TTやパイクスピーク・インターナショナル・ヒルクライム、鈴鹿8時間耐久ロードレースといった国内外のレースに参戦。サーキット走行会や試乗会ではインストラクターも務めている。

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