一味違うスバルのADAS・自動運転技術…AMD Versal AI Ede Series Gen2をアイサイトに採用した理由とは

スバル BRZ STIスポーツ
スバル BRZ STIスポーツ全 7 枚

スバルは4月9日にドイツ ニュルンベルクで開催されたEmbedded World 2024でAMDと協業することを発表している。4月19日、この協業に関する記者向けの説明会を開催した。

登壇者はスバル執行役員Chief Digital Car Officer 柴田英司氏とAMD Corporate Vice President of AI Product Management ラミン・ローン氏。スバル アイサイトの新しい取り組み、開発の方向性、AMDのAI関連技術と同社SoCソリューションの特徴などが語られた。


アイサイトの設計思想

スバルは2030年までに死亡交通事故ゼロに向けた取り組みを行っている。「Eyesight(アイサイト)」はそれを実現させるための基幹技術といってよい。スバルは1989年にステレオカメラの開発をスタートさせ、2008年にアイサイトとして市販車に搭載した。ステレオカメラ、複数のカメラとセンサーによるセンサーフュージョン、カメラによる衝突被害軽減ブレーキなど、機能のほぼすべてが世界初という野心的なシステムだ。

スバルとステレオカメラ研究の歴史

『レヴォーグ』に搭載されたアイサイトと、それを活用した追従型クルーズコントロール(ACC)の市場での評価は高く、自動ブレーキや車間・車線・車速維持アシスト(ADAS・レベル2自動運転機能)は現在ほぼすべての乗用車の必須機能となっている。

コスト要件が厳しい自動車において、カメラを2台も搭載する選択はないという意見もあるかもしれないが、LiDARや高精度3Dマップなどを利用しない分、コストダウンは可能である。いまでこそLiDARの価格も下がっているが、車載用光学カメラの比ではない。レベル3自動運転以上では高精度3Dマップを利用することが一般的になっているが、じつはこのマップの利用ライセンスは安くない。

多くのメーカーがそれぞれの方式で衝突被害軽減ブレーキや各種ADAS機能を実現、搭載しているが、アイサイトの特徴はステレオカメラによるビジョンシステムにある。この方式にこだわるのは、安全装備が一部の高級車だけに採用できるようなものでは意味がない、というスバルの安全に対する設計思想によるものだ。

LiDARを使わず信頼性を確保する

一般に、LiDARや高精度3Dマップを利用するのは自動運転等の信頼性を上げるためだと言われている。カメラしか使わないシステムは信頼性が低いのか。これもそんなことはない。カメラ(画像:物体識別)とLiDAR(測距)を組み合わせることで、対象の識別と距離がわかるので高精度な制御は可能になるが、信頼性という視点では、どちらかが故障すればシステムは機能しなくなる。系が複雑になり障害点も増えると考えれば、カメラ単体のシステムより信頼性が高いとはいいきれない。

カメラ単体だろうがカメラ+LiDAR(+高精度3Dマップ)だろうが、信頼性・堅牢性を上げるならデュアルシステム(同じシステムを同時稼働させ多数決等を行う)またはデュープレックスシステム(バックアップシステムを待機させる)にして、同じセンサー系・制御系を冗長構成にする必要がある。

スバルのステレオカメラシステムは、対象の識別と対象までの距離を同時に認識できる。実際、アイサイトのカメラ映像は車両や歩行者、建物、道路の画像認識だけでなくLiDARのような距離ごとの点群データを同時に認識している。実験レベルでは、アイサイトで白線のない道路、雪道、その他一般道でも適切な進路判定を行い、自動運転のような制御が可能になっている。

対象と距離を同時に認識できる

AMDのVersal AIE Gen2とはどんなSoCか

アイサイトおよびスバルの安全技術を進化させるため、今回AMDをパートナーに選んだ。AIや自動運転技術ならばNVIDIAではないのか? という疑問が湧くかもしれない。柴田氏は「ADASやAIに関するSoCについて、複数の会社のソリューションを利用したが、コストパフォーマンス、テクノロジー含めてAMDが最適だったからだ」と説明する。

どういうことかは、今回発表された協業内容の説明が必要になる。

まず、ローン氏によれば、AMDのVersal AI Edge Series Gen2(Versal AIE Gen2)は、車載エッジを想定した信号処理、AIエンジン、プロセッサ、GPU、通信モジュール、機能安全を含むセキュリティモジュールなど、すべてを含んだSoCソリューションだ。つまり、統合ECUと呼ばれるようなシステムとなっている。また、Gen2は前の世代Gen1に比べて消費電力あたりの処理性能(TOPs/Watt)が3倍となっている。SoCを構成する各部は時分割多重処理に対応するので、各部の並列実行、非同期処理が可能だ。高スループットと低レイテンシによってリアルタイム性能(最長応答保証速度1ミリ秒以下)も担保する。

以上は車載組み込みシステムにとって重要なポイントだが、最終的にスバルがAMDを選んだのは、SoCソリューションの柔軟性の高さが理由だったようだ。Versal AIE Gen2の各モジュールのうちアイサイトで利用しない部分を削除でき、必要な機能だけのSoCを構成できる点を柴田氏は評価した。ローン氏は「ヘテロなSoCだ」と述べていたが、統合ECUからドメインコントローラ、さらに従来型のECUさえ構成できる。

アイサイトに特化したSoC構成

《中尾真二》

テクノロジージャーナリスト・ライター  中尾真二

アスキー(現KADOKAWA)、オライリー・ジャパンの技術書籍の企画・編集を経て独立。現在はWebメディアを中心に取材・執筆活動を展開。インターネットは、商用解放される前の学術ネットワークの時代から利用し、ネットワーク、プログラミング、セキュリティについては企業研修講師もこなす。エレクトロニクス、コンピュータのバックグラウンドを活かし、自動車業界についてもテクノロジーを中心に取材活動を行う。

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