電動車ブランドになったヒョンデが、あえて高性能モデル「N」を日本に投入する理由とは?

ヒョンデ アイオニック5N
ヒョンデ アイオニック5N全 21 枚

ヒョンデモビリティジャパンは、電動化時代にも変わらないドライビングの楽しさを追求した高性能EVの『アイオニック5N』を6月5日より販売を開始すると発表した。なぜヒョンデは、日本市場に高性能EVを投入するのか。そのねらいを同社プロダクト担当に直撃した。

◆サーキットから日常まで使える「N」

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そもそも車名に付けられた「N」とは何なのか。2015年、R&D拠点がある韓国の南陽(ナムヤン)と、開発テストを行っているドイツのニュルブルクリンクの頭文字をとって「Nブランド」と名付けたのがその由来だ。

ドライビングの楽しさを追求したブランドで、3つのDNAを持っている。ひとつは“Corner Rascal(コーナー走行能力)”だ。これはドライブを楽しむドライバーなら誰でも、ダイナミックかつ安全なコーナリングを楽しめるようにすること。2つ目は、“Everyday Sportscar(日常のスポーツカー)”で、Nモデルは、高性能車愛好家と日常のドライビングを楽しむ人たちを含めた全ての方のためのクルマという意味。出力だけにこだわるのでなく、様々な走行環境に素早く対応できる必要があり、それを実現すること。

最後は“Racetrack Capability(サーキット走行能力)”。Nモデルは、サーキット走行に最適なパフォーマンスを備えているだけでなく、追加で補強や改造をする必要もなくそのままでサーキットを走ることができるという。こうしたDNAをもとに開発が行われており、現在『i30N』や『i20N』(いずれも国内未導入)などの内燃機関モデルとともに、『アイオニック5』にもNモデルが追加されたのだ。

◆走り屋魂を持った人たちが開発

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そもそも、なぜヒョンデはNブランドを立ち上げたのか。ヒョンデモビリティジャパンのシニアプロダクトスペシャリスト佐藤健さんは、「ヒョンデというブランドを明確にしたい、強くしたいという思いが強くありました。(Nブランド立ち上げ)当時、モータースポーツを本格的に始めていましたし、そのモータースポーツで培ったものをきちんとクルマにも反映しようという流れからです」という。2015年頃に元BMW Mのチーフエンジニアだったアルベルト・ビアマンが来たことも大きなきっかけだったようだ。そうして『エラントラ』をはじめいくつかのモデルにNが登場。そして今回BEVモデルにもラインナップされたのだ。

BEVというとどうしてもCO2削減など環境車としてのイメージが強く、「走り」にはつながりにくい。「ヒョンデは長くBEVなどの電動車を販売してきましたが、いまも購入に踏み切れない人、乗りたくない人がいるのも事実です。それまでのエモーショナルな走りを楽しみたいという思いがあり、(BEVなどでは)その楽しみに応えられないという声がありました」。そこで、「EVでもきちんとエモーショナルに楽しめるクルマを作ろうじゃないか」となったわけだ。

アイオニック5Nではエンジンサウンドを模した音が車内外で聞こえるようにしたり、シフトチェンジができるようにもした。「これらは見方によってはギミックにもなるでしょう。それでもいままでクルマを楽しんできた方々は、絶対に五感が刺激されます」と語る。確かにサーキットを走らせてタコメーターのレッドゾーンを過ぎるとオーバーレヴをさせたような振動と音、そしてパワーの低下が感じられるほどの凝りようで、そこまで作り込みをしているのには驚かされた。佐藤さんも、「シフトアップダウンの際もトルク制御して音もずれずにきちんとついてきます」と述べるほどリアルな完成度だった。

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実はNブランドマネージメント室常務(室長)のパク・ジューンさんは、自らアイオニック5Nでドリフト走行をするなど非常にマニアックな人だ。「学生時代から東京オートサロンに来ていたそうで、日本の走りや走り屋、頭文字Dなどが大好きですので、日本のお客様と価値観は相当近いと思います」と佐藤さん。

さらにはドイツのニュルブルクリンクにあるテクニカルセンターにいる一人はRSフォードにいた人物で、RSシリーズの開発を手掛けていた人物だ。「彼も電気自動車の時代でありながら走りを楽しめるクルマを目指して開発しているそうです」と述べるように、そういう人達が率先して作っているブランドなのだから走りは楽しいはずだ。

◆BEVの楽しさはV2Lだけじゃない

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日本市場においてヒョンデはアイオニック5と『コナ』、FCVの『ネッソ』の3モデルをラインナップしているが、まだまだ認知度もイメージも低い状況だ。そこにNを導入するとブランドイメージが混乱しかねない。その点について佐藤さんは、「ヒョンデ自体の認知度はほとんどない」と認めたうえで、「イメージのある人も昔の“ヒュンダイ”のイメージが強いでしょう。しかし、いまのヒョンデはこういうブランドになっているということを一番わかりやすくしたのがこのNだと思うんです。ですから今回はNを日本のお客様に知ってもらってファンを作っていくことに重きを置いています」と語る。

そのための施策のひとつが、5月に袖ヶ浦フォレストレースウエイで実施する一般客を招待した走行会だ。「エクスペリエンス、実際に経験してもらわないといけないと思っていますので、そういう機会をできるだけ作っていく予定です」とコメントした。

また佐藤さんはこうも話す。「多くの人に電気自動車は検討の候補ですかと聞くと、ほとんどの人がそうだと答えますし、いずれは電気自動車に乗ると思っています。なぜならCO2を減らさなければいけないので、我慢してでもEVにいずれは乗らなくてはいけないと。しかし、実際に乗っている人の声を聞くと、EVは楽しい、違うカーライフを楽しめるとみなさんがおっしゃって買ってくれています」。その象徴的なものがヒョンデの各車にも装備されているV2Lだ。「キャンプに電子レンジを持って行って料理するとか、V2Lを使ってクルマの中をリモートオフィスにして働くなど、電気自動車は楽しく使えるから買ったという人が多いのも事実です」とのこと。

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それであれば走る楽しさも電気自動車ならではの個性として出せるのではないか。それがまさにアイオニック5Nだと佐藤さんはいう。「峠を攻めたり、音を出してエモーショナルに走ることができる一方、音を切ってしまえば静かな普通の電気自動車になります。もちろんパッケージングも優れていますので、カーゴルームの広さも失ってはいませんし、リアシートの快適性も同じです。すなわち奥様もOKなんです」と笑う。

例えば近年のスーパースポーツカーはエンジンをかけた瞬間にあえてエンジン音を強調し回転を上げるような動作をするクルマが多い。しかし早朝のゴルフに行くタイミングなどでは近所迷惑になりかねないのも事実だ。しかしアイオニック5Nであれば、「静かに家を出てゴルフ場の近くの峠まで来たら音を出して楽しむことができます。つまり電気自動車は同じクルマでありながらキャラクターを変えられるのです。そこは間違いなく楽しんでもらえるでしょう」とコメント。

さらにハイパフォーマンスカーの場合は2台目、あるいは3台目として購入するケースが多いが、アイオニック5Nは1台目として乗ることもできるほど乗り心地もよく、実用性に富んだクルマに仕上がっているのだ。

今回サーキットや一般道を試乗する機会も得たのだが、エンジンサウンドを模した音を聴きながら、パドルシフトを操っているとBEVを走らせている意識はすぐに消し飛び、素直にドライビングを楽しんでいる自分に気が付いた。同時に電子制御によりサスペンションの固さもいかようにも変えられるので、街中において不快さを感じることもなかった。果たして航続距離がどうなのかは今回の試乗で走ることができなかったが、佐藤さんがいうようにサーキット走行と実用性を両立した電気自動車ということは間違いなさそうだ。

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《内田俊一》

内田俊一

内田俊一(うちだしゅんいち) 日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員 1966年生まれ。自動車関連のマーケティングリサーチ会社に18年間在籍し、先行開発、ユーザー調査に携わる。その後独立し、これまでの経験を活かしデザイン、マーケティング等の視点を中心に執筆。また、クラシックカーの分野も得意としている。保有車は車検切れのルノー25バカラとルノー10。

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