攻殻機動隊と高性能EV『IONIQ 5 N』のコラボが示した“自動車とは何か”というガチな問い

IONIQ 5 Nと攻殻機動隊のコラボのために制作された原寸大サイズの思考戦車「タチコマ」
IONIQ 5 Nと攻殻機動隊のコラボのために制作された原寸大サイズの思考戦車「タチコマ」全 11 枚

ヒョンデモビリティジャパンは、高性能EV『IONIQ 5 N』の発売を記念した攻殻機動隊とのコラボキャンペーンを開始し、6月3日に東京のSHIBUYA TSUTAYA 1Fで体験イベントを開始した。

世界でも人気のEV「IONIQ 5」を元に650馬力のスーパースポーツEVに進化したIONIQ 5 Nだが、攻殻機動隊とコラボした理由は何か? 「単に日本の人気コンテンツにあやかりたかっただけでは?」と勘ぐった著者だが、プレス向けに語るヒョンデモビリティジャパン社長・趙源祥(チョ・ウォンサン)氏の挨拶を聞いて、「あれ? この人、本当に攻殻機動隊が好きなのでは?」と、急遽単独で取材を申し込んでみた。

◆攻殻機動隊の「深い話」は本当にガチだった

突然の申し込みに広報担当さんは「どのような内容でしょうか? IONIQ 5 Nのクルマについては、ほかに詳しい担当がおりますが。社長だと攻殻機動隊についての深い話になってしまうかもしれず、通訳を付けても良いですか?」と訪ねてくる。

「いやむしろ、攻殻機動隊の話を聞きたいです!」と話を聞けることになった。

コラボムービーではライバル関係にあるIONIQ 5 Nとタチコマコラボムービーではライバル関係にあるIONIQ 5 Nとタチコマ
SHIBYA TSUTAYA 1Fに展示された赤白2台のIONIQ 5 N。SHIBYA TSUTAYA 1Fに展示された赤白2台のIONIQ 5 N。

趙社長:攻殻機動隊は、韓国にも深いファン層がありまして、それだけでなく世界中で有名なIPです。私も昔から知っていましたが、初期のアニメ版から今はNetflix版もありますし(今回コラボしたのはNetflix版の『攻殻機動隊 SAC_2045』)、そのストーリーの深さも広がっています。そういう面では、時間が経つほどに、もっと好きになるというが個人的な意見です。

−−:いま、IONIQ 5 Nと攻殻機動隊がコラボする意味は?

趙社長:弊社が大切にしていることは、未来がどんどん変わっていく中で、本質的なことに集中していくこと。それは攻殻機動隊が継続的に発信しているメッセージと繋がっていると思っています。

攻殻機動隊のSF的な細部の設定やギミックの話じゃなくて、物語の本質の話になるとは。こういう話はアニメ好きとかよりも、SFマンガ評論やSF小説界隈の人たちが好きそうな話題なのだけど。

−−:原作の攻殻機動隊が出版されたのが1989年。あれから30年以上経って、御社も実際にEVや自動運転に取り組んでいる。未来は近づいたと感じていますか?

趙社長:未来は変化し続けていると思います。30年前に描いた未来と、今描く未来は違ってきていますが、根底にある未来に対する不安や希望という面では繋がっている。高度にネットワーク化された未来社会が攻殻機動隊で描かれていますが、表に描かれているものだけではなく、「人間とは何か」「生きるとは何か」という人間の本質に関わるテーマが語られており、それは「クルマとは何か」「運転とは何か」という問題に向き合ったIONIQ 5 Nの開発哲学とまさに一緒だと思います。

タチコマとIONIQ 5 Nに囲まれた趙 源祥(チョ・ウォンサン)社長。タチコマとIONIQ 5 Nに囲まれた趙 源祥(チョ・ウォンサン)社長。

趙社長は通訳を介さず、攻殻機動隊とIONIQ 5 Nのビジョンの共通性について熱く語った。哲学的な命題ではあるが、未来を考えるために重要なテーマではある。展示車の詳しい説明を聞くうちに、攻殻機動隊とIONIQ 5 Nの関係は思ったより深いところで繋がっているように思えていった。

◆「自動車とは何か?」というIONIQ 5 Nと攻殻機動隊が示す問い

IONIQ 5 Nは、大幅なパワーアップやスポーティなドレスアップで、EVでありながら本格スポーツカーとして登場した。それだけでなく、静粛なはずのEVでエンジンサウンドを楽しめる。従来、コックピット内で仮想エンジンサウンドを聞けるクルマは他社にもあったが、IONIQ 5 Nは、外部スピーカーによって周囲にもエンジンサウンドを響かせることができる。

IONIQ 5 Nのコックピット。IONIQ 5 Nのコックピット。

ステアリングでパドルシフトすると変速ショックが感じられるようになっている。さらにコックピットのパネルには、油温の代わりにモーターやバッテリーの温度表示まである。

IONIQ 5 Nのステアリング裏にあるパドルシフト。IONIQ 5 Nのステアリング裏にあるパドルシフト。

これらの電子ギミックを「遊び心がある」と感じるか、「子どもっぽい」と感じるかは人によるだろう。実際に展示車のコックピットに座ってアクセルをレッドゾーンまで踏み込むと、とてもEVとは思えないレーシーなエンジンサウンドが鳴り響く。これは間違いなく楽しい。だいたいクルマ好きの男は子どもっぽいものだ。

EVであるのにガソリン車であるかのような味わいは、攻殻機動隊の生身の人間と見分けが付かない義体化(サイボーグ化)が普及している世界観を連想させる。

原作マンガでは主人公の草薙素子は、高性能サイボーグ化した身体すら捨てて、ネットの世界に旅立っていく。人間の知性がすべてシミュレーション可能なら、人間とコンピュータープログラムの違いは何か? というSF文学における問いを、一般のマンガ読者に向けても提示した、それは当時ひとつの衝撃だった。ChatGPTの登場でその問いは今リアリティを帯びてきた。

IONIQ 5 Nと攻殻機動隊のコラボレーションは、「本質への向き合い」という点でビジョンが一致したからだと、趙社長は言う。攻殻機動隊が「人間とは何か」について大胆な問いかけをしたように、IONIQ 5 Nも「自動車とは何か」を自動車業界やクルマ好きに向けて問いかけている、とも言える。

◆公開されたコラボムービー「二人の素子」と渋谷TSUTAYA展示

6月3日には、IONIQ 5 Nと攻殻機動隊のコラボムービーの本篇「二人の素子」が公開された。これは5月23日に公開されたティザームービーに続くもので、両方を見ることで「自分とは何か?」「未来は変わるのか」という、いかにも攻殻機動隊らしい味付けのプロモーション動画になっている。

「攻殻機動隊 SAC_2045」とIONIQ 5 N のコラボムービー「二人の素子」
こちらはティザームービーの「Ghost in the “N”」2本合わせて1つの話だとも言える。

同時に渋谷スクランブル交差点前のSHIBUYA TSUTAYA 1Fのホールでも、コラボ展示が開始された。前述のように展示車があるほか、攻殻機動隊に登場するロボット戦車「タチコマ」の1/1スケールの精巧なモデルも展示されている。

タチコマの正面全景。タチコマの正面全景。

IONIQ 5 Nのエンジンサウンドは、エンジン車風、航空機風など3種類あり、それをヘッドホンで聞き比べられる展示もある。

IONIQ 5 Nの3種類のエンジンサウンドを試し危機できる機械。IONIQ 5 Nの3種類のエンジンサウンドを試し危機できる機械。

さらに、IONIQ 5 Nのドライビングフィールを体験できるドライブシミュレーターも3台用意されている。ステアリングの形状は本物と違ってはいたが、アクセルとブレーキペダルがあってシートの前後位置も調節できる、けっこうガチな感じのドライブゲームだ。アップダウンのある曲がりくねった山岳コースの運転を楽しめるようになっているが、なかなか手強く面白かった。

SHIBUYA TSUTAYA 1Fに設置されたドライビングシミュレーター。SHIBUYA TSUTAYA 1Fに設置されたドライビングシミュレーター。

SHIBUYA TSUTAYAでのイベント展示は6月22日までだ。

《根岸智幸》

メディアビジネスコンサルタント、ソフトウェアエンジニア、編集者、ライター 根岸智幸

メインフレームのOSエンジニアを皮切りに、アスキーで月刊アスキーなど15誌でリブート、リニューアル、創刊を手がける。クチコミグルメサイトの皮切りとなった「東京グルメ」を開発し、ライブドアに営業譲渡し社員に。独立後、献本付き書評コミュニティ「本が好き!」の企画開発、KADOKAWA/ブックウォーカーで同人誌の電子書籍化プロジェクトなど。マガジンハウス/ananWebなどWebメディアを多数手がけ、現在は自動車とゲーム、XRとメディアビジネスそのものが主領域。 ・インターネットアスキー編集長(1997-1999) ・アスキーPC Explorer編集長(2002-2004) ・東京グルメ/ライブドアグルメ企画開発運営(2000-2008) ・本が好き!企画開発運営(2008-2013) ・BWインディーズ企画運営(2015-2017) ・Webメディア運営&グロース(2017-) 【著書】 ・Twitter使いこなし術(2010) ・facebook使いこなし術(2011) ・ほんの1秒もムダなく片づく情報整理術の教科書(2015) など

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