【ヤマハ XSR900GP 試乗】こんな“遊び”のある提案を、多くのライダーは待っていた…鈴木大五郎

ヤマハ XSR900GP
ヤマハ XSR900GP全 31 枚

◆デザインの偉大さをあらためて感じた

並列3気筒エンジンを搭載したスポーツネイキッドモデル。『MT-09』をベースとしたネオクラシックモデル『XSR900』。2016年にデビューし、とくに欧州で人気を博してきた。

懐かしさを感じさせる『XSR900GP』のスタイリング

2022年にフルモデルチェンジされたXSRは、80年代のグランプリマシンをストリップにしたかのようなデザインで注目を集める。しかし、個人的にはあるはずのフロントカウルがないように感じられるスタイリングになんだかアンバランスさも感じていたのである。

対してこの『XSR900GP』はどうだろう。ミドルエイジの我々が若かりしころ熱狂したレーシングマシンやそのレプリカモデルを彷彿させるスタイリング。大きさもエンジン形態も全く異なるが、そんなことは関係なく存在感やデザインの偉大さというものをあらためて感じたのである。

細部へのこだわりもなかなかのもの。カウルステーやメーターステーの造形しかり、スクリーン上部のラインやアッパーフェアリングのナックルバイザーなど、グッとくるライダーは少なくないだろう。XSRにとっては、このGPがベースにあって、そこからカスタムしたマシンをSTD(XSR900)としたほうが個人的にはスッキリするのであるが…。

テスト日は生憎の天気ではあったが、待ち合わせ場所に登場したマルボロカラーのマシンはその場がパッと明るくなるような華やかさをもっていた。懐かしいと感じるライダーとともに、新鮮さをおぼえるライダーも少なくないはずだ。

◆軽快にマシンを操れるのが良い意味で想像を裏切る

ライディングポジションはイメージと異なり、さほど前傾度は強くない。着座位置はやや腰を引き、上半身はタンクを抱えるような雰囲気。ハンドルはややタレ角が大きめで、最近のマシンと比較すると絞られているように感じられるが、フィット感良くコンパクトなポジションと言えるだろう。

サスペンションはSTDに対してグレードの高いものが装着されているが、高荷重設定ではなく、動きの良さが印象的だ。スイスイと非常に軽快にマシンを操れるのが良い意味で想像を裏切る。

サーキット走行をかなりの割合で視野に入れたマシンなどと異なり、フロントへの荷重が強すぎずハンドリングの自由度を確保している。もちろん、MT-09やSTDに比べては、取り回しはやや重くも感じられるが、逆にフロント周りのフィードバックはより感じやすい設定とされている。

エンジンはトルクがあり、スロットルを開ければモトクロッサーのような瞬発的パワフルさを味わえる。並列4気筒エンジンに近い音色を奏でるが、それにプラスして燃料タンクの内部から聞こえるような吸気音もその気にさせるのである。そして、それらが低い回転数から発生される。つまり日常的に味わうことが出来るのも嬉しいところだ。

◆電子制御のメリットが感じられるライディングモード

ライディングモードはレイン、ストリート、スポーツの3種類にくわえ、任意で制御の個別設定が出来るカスタムモードが2種。このカスタムモードは乗車時ではなくてもスマホで好みのセッティングが作れるのだという。

まずはウェット路面ということもあってレインをチョイス。スロットルレスポンスは穏やかながらモタモタするようなリニアさの欠如はない。ドライコンディションでも悪くないと思わせるフィーリングである。

ストリートはきっとこのマシンの本来のパフォーマンスに近いのだろう。雨であってももっともマッチングが良いと感じられ、キビキビとしたスポーツ性を味わえる。

スポーツにすると、ややスロットルレスポンスが過敏に感じられる。力量感溢れるそのキャラクターは楽しくもあるが、とくにこのコンディションでは… そういえば、ドライでもこのモードはちょっと過敏だったことを思い出したが、シチュエーションによってはより楽しさを享受することも出来るはずで、簡単に変更可能となる電子制御のメリットをここでも感じたのである。

◆遊びのある提案を多くのライダーは待っていた

6軸IMUを搭載した細かいマシン制御はライディングの幅と安全性に寄与するもの。今回はその恩恵を感じるほどの走りを試すことが出来なかったが、あるとないとでは精神的にも大きな違いが生じるのは確か。これはベースとなったMT-09の作り込みの確かさがあったからこそであろう。

このマシンがどれほどのライダーに刺さるのかは予測不能であるが、このような遊びを感じさせる提案を多くのライダーは待っていたのではないかと思う。そしてそれはカタチだけでなく、乗った際にも感じられるベースの良さがあるからこそ、手放しで歓迎できるマシンに仕上がっていたのだと思われた。

■5つ星評価
パワーソース:★★★★
ハンドリング:★★★★
扱いやすさ:★★★
快適性:★★★
オススメ度:★★★★

鈴木大五郎|モーターサイクルジャーナリスト
AMAスーパーバイクや鈴鹿8耐参戦など、レース畑のバックボーンをもつモーターサイクルジャーナリスト。1998年よりテスター業を開始し、これまで数百台に渡るマシンをテスト。現在はBMWモトラッドの公認インストラクターをはじめ、様々なメーカーやイベントでスクールを行なう。スポーツライディングの基礎の習得を目指すBKライディングスクール、ダートトラックの技術をベースにスキルアップを目指すBKスライディングスクールを主宰。

《鈴木大五郎》

鈴木大五郎

AMAスーパーバイクや鈴鹿8耐参戦など、レース畑のバックボーンをもつモーターサイクルジャーナリスト。1998年よりテスター業を開始し、これまで数百台に渡るマシンをテスト。現在はBMWモトラッドの公認インストラクターをはじめ、様々なメーカーやイベントでスクールを行なう。スポーツライディングの基礎の習得を目指すBKライディングスクール、ダートトラックの技術をベースにスキルアップを目指すBKスライディングスクールを主宰。

+ 続きを読む

【注目の記事】[PR]

ピックアップ

教えて!はじめてEV

アクセスランキング

  1. 「TWIN TURBOのロゴ懐かしい!」Z32ファン感涙、レトロ感あふれる新型『フェアレディZ』が話題に
  2. メルセデスベンツ、全固体電池搭載『EQS』で1205km無充電走行を達成
  3. 「みんなガソリン車が欲しいんだよ…」フィアットの新コンパクト『グランデパンダ』、6速MT登場に日本のファンも反応
  4. アイシンが明かす、トランスミッションの膨大な経験値とノウハウが電動化を主導する理由
  5. 「動画を観る」もっとも良い方法とは? トヨタ車純正ディスプレイオーディオ搭載車の場合は?[車内エンタメ最新事情]
ランキングをもっと見る

ブックマークランキング

  1. 「AIディファインド」の衝撃、日本の自動車産業は新たな波に飲み込まれるのか…アクセンチュア シニア・マネジャー 藤本雄一郎氏[インタビュー]
  2. EV充電インフラ-停滞する世界と“異常値”を示す日本…富士経済 山田賢司氏[インタビュー]
  3. ステランティスの水素事業撤退、シンビオに深刻な影響…フォルヴィアとミシュランが懸念表明
  4. SUBARUの次世代アイサイト、画像認識技術と最新AI技術融合へ…開発にHPEサーバー導入
  5. 「ハンズオフ」は本当に必要なのか? 高速での手離し運転を実現したホンダ『アコード』を試乗して感じた「意識の変化」
ランキングをもっと見る