レクサスは「味磨き活動」で“宿題が終わる日”を迎えられるか…徹底改善したボディ剛性【池田直渡の着眼大局】

レクサス GX、LBX、LM、NX(左上から時計回りに)
レクサス GX、LBX、LM、NX(左上から時計回りに)全 6 枚

レクサスとは何か? トヨタのプレミアムブランドであり、アメリカでは1989年に、日本では2005年にスタートした。そして「Lexus Electrified」をビジョンに掲げ、トヨタグループの中では電動化の中核を担うブランドである。

という通り一遍の話はまあどうでもいい。Wikipediaに書いてありそうな概要説明ではなく、もうちょっと哲学的というか、クルマとしてのレクサスとは一体どういうものなのかという根源的な問いである。ブランドスローガンである「EXPERIENCE AMAZING」とか言われても、辞書的な意味はともかく、要するにどういうことなのかはふわっとしたままだ。


“最後に選ばれるクルマ”とは

以前、まだ社長時代の豊田章男氏に尋ねたことがある。「あなたはレクサスをどういうクルマにしたいのですか?」。豊田氏の良いところは、こういう問いに対する答えがわかりやすいことだ。返ってきた答えは「世界中の色々なクルマに乗ってきた人が最後に選ぶクルマにしたい」というものだった。

「世界中の色々なクルマに乗ってきた人」はおそらく、ハードなスポーツカーも経験しているだろうし、ホットハッチも満喫したことがあるだろう。地の果てまででも走れるクロカンや、バカンスに出かける楽しいピープルムーバーや、ミニマリズムを体現するような国民的ベーシックカーの世界も知っているだろう。もちろん出来の良い上質なセダンだって愛好していたと思う。

そういう人が最後にたどり着くクルマと言うからには、多分特定の性能だけが突出した尖ったクルマではないだろう。そういうあらゆるクルマの楽しみを知っている人をも満足させ、クルマに求められるあらゆる要素を可能な限りバランス良く備えた一台ということになる。

乗り心地を犠牲にすることなく高い運動性能を実現し、ドライバーの全ての操作に対する期待通りの反応を確実に示しながら、過敏過ぎない適度な鷹揚さを備え、クルマという機械との対話に深い充足感が持てるクルマだろう。

クルマ好きの共通認識で言えば、それはBMWにとってMとは違う高性能を提供するアルピナみたいなクルマを指すのだと思う。張りの強い硬いアシと引き換えにヨーレスポンスに優れたキリキリとしたハンドリングを与えるのではなく、たおやかにアシを動かし、突き上げをいなしながら、間合いを華麗に取って、高い速度でさらりと走破してしまう。柔よく剛を制す身ごなし。

そういう総合性能は、ある程度は数値指標で示すことも可能だし、数値目標なしで定義することは多分難しいのだが、結局のところそれらが行き着くところは「味」である。そういう意味で豊田会長の説明はなるほどわかりやすいのだが、わかりさえすれば「そういうクルマ」を作れるのかと言えばまた違う。レーダーグラフの面積が大きく、なおかついびつでないクルマを作るのに必要なのは、クルマに対する深く広い見識である。

ポルシェは例外なくポルシェの味がするし、ベンツはちょっとアレな例外もあるが、基本的にベンツの味がする。BMWだってそうだ(近年だいぶ怪しいけれど)。そういうブランド全体を串刺しにするブランドの「味」が今のレクサスにあるかと言えば、だいぶ足りない。

努力をしていないわけではないと思う。例えばグリルデザインや内装の世界観でアイデンティティを示すことにも意味はある。加えて出自を示す日本の伝統工芸、例えば螺鈿(らでん)のような装飾をあしらうのもやりたいことはわかる。そういう「目で見てわかる」ことを軽視する気はないのだが、行き着くところとして、ブランド全体に通底する「乗り味」がそこになければ、他の何があってもクルマの哲学とは感じられない。残念ながらそれでは表層の話に終始してしまうのだ。

立ち上げ以来の重要な宿題

現在販売中のレクサス各モデルの中で、豊田氏が言うような「世界中の色々なクルマに乗ってきた人が最後に選ぶクルマ」と言えるのは『LBX MORIZO RR』だけだろう。やや甘めに採点するならば素の『LBX』もそれに加わるかもしれないがせいぜいそこまで。特にフラッグシップの『LS』の出来が悪いのはレクサスというブランドにとっては致命傷とも言える。これでもデビュー時のことを思えばだいぶ改善はされたのだが、少なくともこれぞブランドのフラッグシップと胸を張れる領域にはまだ遠い。

国内でのレクサスブランド立ち上げから20年が経過した今でも、「レクサスって要するにトヨタのぼったくりモデルでしょ?」という厳しいツッコミに答えきれていない。その疑義を晴らす明確なレクサスの味を用意して見せることこそがレクサス立ち上げ以来の重要な宿題である。

ポルシェ『マカン』のコンポーネンツがアウディ『Q5』であることは周知の事実だし、ましてや購入する人は当然そんなことは百も承知だ。価格差もある。同じ様な仕様なら当然マカンの方が高い。それでも顧客が、マカンをポルシェだと思って、ポルシェの値段を払って、ポルシェオーナーとして満足して乗っているのはなぜなのか?

そこにはポルシェの味が明確にあるからだ。先にこれだけは「最後に選ぶクルマ」に値するレクサスだと書いたLBXだって、知っている人は知っている『ヤリスクロス』のコンポーネンツを使ったレクサスバージョンである。ところが乗ってみるとヤリスクロスのぼったくりバージョンとは全然思わない。それだけの手間暇を掛けた「魔改造」が施されているわけだ。

ボディ剛性を徹底的に改善

本来レクサス全体がそうなっていなければいけないのだができていない。そうした厳しい状況をいかにして乗り越えていくかが問われる中で、レクサスは基本中の基本に回帰し「味磨き活動」を開始した。何をやったのか。今更に聞こえるのだが、それはボディ剛性の徹底した改善だった。もちろん自動車メーカーでクルマを作っている人で、「ボディ剛性なんてどうでも良い」と思っている人はいない。レクサスだってこれまでもボディ剛性の大事さは理解していたはずである。


《池田直渡》

池田直渡

自動車ジャーナリスト / 自動車経済評論家。1965年神奈川県生まれ。1988年ネコ・パブリッシング入社。2006年に退社後ビジネスニュースサイト編集長に就任。2008年に退社。以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う。近年では、自動車メーカー各社の決算分析記事や、カーボンニュートラル対応、電動化戦略など、企業戦略軸と商品軸を重ねて分析する記事が多い。YouTubeチャンネル「全部クルマのハナシ」を運営。コメント欄やSNSなどで見かけた気に入った質問には、noteで回答も行っている。著書に『スピリット・オブ・ザ・ロードスタ ー』(プレジデント社刊)、『EV(電気自動車)推進の罠「脱炭素」政策の嘘』(ワニブックス刊)がある。

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