◆クラッチ操作がなければ面白くない!?
クラッチレバーとシフトペダルが備わっていないヤマハの新型『MT-09 Y-AMT』に乗った。クラッチレバーの操作解放され、ますますスポーツライディングの奥深さを味わうことができ、よりアグレッシブにコーナーを攻めれるではないか!
パワフルなトリプルエンジンを軽い車体に積む新型『MT-09』をベースにしているから、0→400mのダッシュは10.9秒。その加速力を存分に楽しんだが、なんとってもコーナリングがエキサイティングだ。さすがはヤマハ、曲がることに秀でている。

ヤマハには「人機官能」という独自の開発思想があり、人機一体感の中に生まれる悦びや興奮、快感を感じる情動を製品開発において重要視している。まさにその「人機一体」ってやつを、よりたっぷり感じられるのだ!!
おいおい、ちょっと待て。冒頭からなにを寝ぼけたことを言っているんだ、バイクはクラッチを駆使して走るからこそ、面白いのではないか。クラッチ操作が不要で、よりスポーティ? ならば、すべて快適で機能性のあるスクーターでいいじゃないか!?
などと思っている人も、バイクの免許を持っている人なら少なくないだろう。冒頭から突っ走りすぎた。順を追ってお伝えしよう。
◆「あったら助かる」ATモード

メディア向け試乗会が開かれたのは袖ヶ浦フォレストレースウェイ。本コースでワインディングなどを想定したスポーツライディング、そして、ストップ&ゴーの繰り返しやスラローム、八の字など市街地、渋滞時などでの走りがどうなのかがわかるであろうパイロンを立てたコンパクトなテクニカルコースも用意されている。
Y-AMT(ヤマハ・オートメイテッド・マニュアル・トランスミッション)はクラッチレバーとシフトペダルの操作が要らない自動変速機構。既存のマニュアルトランスミッションの構造を大きく変えることなく、クラッチの断続(切ったり繋いだり)やギヤチェンジを電動アクチュエーターでおこなう。
クラッチレバーとシフトペダルは最初からついていない。「ATモード」を選べば、その名の通り自動制御でシフトチェンジ、クラッチミート、すべてやってくれる。

筆者のようにサーキット走行会などで、たっぷり走りを堪能した帰り道、あるいはツーリングの帰路、渋滞、あるいはビギナーがマニュアル操作に慣れるまでなど、要するにライダーがそうしたいときだけ「ATモード」を使えばいい。
ハンドル右に切り替えスイッチがあり、いつでもすぐに「MTモード」に設定を切り替えることができる。
「MTモード」ではハンドル左のスイッチボックス前方にあるシーソーレバー式のボタンで、ライダーの意図通りにギヤの変速が可能。つまり、クルマで言うところのセミオートマだ。

左手の人差し指側の+を押せば(引く)シフトアップ、ライダー側となる親指の-を押せばシフトダウンできるが、慣れてくると人差し指だけでも引いたり弾いて、グリップをしっかり握ったまま、ギヤチェンジが指一本でできる。
これまでもボタンでミッションをアップ&ダウンできるものは存在したが、シーソー式としているのは秀逸としか言いようがない。
◆操作性に違和感を出さないために
プロジェクトリーダーの津谷晃司さん(PF車両開発統括部SV開発部)に、いろいろと教えてもらう。
構造的には従来のマニュアルトランスミッション車と大きく変わらず、人間の左手と左足で操作するところを追加装備したアクチュエーター(電動サーボモーター)がおこなう。
クラッチ操作とシフトチェンジ、どちらのアクチュエーターもECUと通信で連携するMCU(電動モーターのアクチュエーター制御ユニット)によってコントロールされる。

専用に新開発したシフトロッドにはスプリングが内蔵され、ライダーが無意識のままやっている蓄力(プリロード)をバネで忠実に再現し、モーターで押す力を瞬時に発揮させ、操作におけるタイムラグが発生しないようにした。
また、変速ギヤ側面のドッグ(凹凸)を増やし、素早く噛み合うようにもしている。こうした取り組みで、スームズなシフトチェンジを実現。操作時にもたついて鬱陶しいなんてことがないよう、ダイレクト感を損なわないよう細部も配慮がされている。
◆意識を集中し、もっとアグレッシブに

クラッチ操作をなくしたからこそ、よりアグレッシブなスポーツライディングを楽しめると述べたが、サーキットでこそそれをより強く感じるのだ。
ライダーはコーナーアプローチでスロットルを戻すと、ブレーキを掛けつつシフトダウン、さらにシッティングポイントやステップなどでイン側へ荷重をかけていく。スロットル操作を含め、すべて絶妙にコントロールしなければならず、車体が寝ていきフルバンクして起きていくまで細心の注意が求められる。
やらなければならないタスクはとても多く、だからこそバイクでのスポーツライディングは難しく、それでいて面白いのだが、クラッチ操作や左足でのシフトペダル操作がなくなることで、よりマシンコントロールに集中でき、精度が上がるのだ。

フットポジションを安定させることででき、より没入できることでタイヤから伝わるインフォメーションもより読み取れる。
体重移動やステップへの入力、アクセル操作、ラインの構築などに、もっと意識を配ることができ、脳を含み全身を使ってスポーツしている度合いはこちらの方が高いぐらいであるから驚きを隠せない。
◆日常の走行でもY-AMTに軍配

ピットインし、津谷さんに感想を伝えると「まさにその通りです」と深く頷く。では低速走行ではどうなのか?
なるほど、ヤマハがなぜサーキットで試乗会を開いたのかやっと理解できた。というのも、クラッチとギヤチェンジの操作が不要ということは、快適にラクをして走れるということではないのか。
サーキットではなく、市街地でのストップ&ゴーであったり、あるいはロングライドをジャーナリストたちに味わってもらったほうがいいのは? と、開催場所を最初に聞いた時は思った。

そもそも、こうしたヤマハの電子制御シフトは、世界初のモーターサイクル用自動化MTシステム「YCC-S」を搭載した2006年の『FJR1300AS』からスタートしている。大排気量ツアラーに採用するべきではないのか!?
頭の中がクエスチョンでイッパイだったが、すべて納得した。「クラッチ操作をなくしたからこそ、よりアグレッシブなスポーツライディングを楽しめる」ことが、本コースでの「MTモード」でわかった。
駐車場に作られた特設会場で、まずは発進&停止を繰り返すと違和感がないから驚く。あまりにもごく普通に、上手にクラッチミートし、エンジン回転数もちょうどいい。

発進しようとしたら、なにか突然の障害があって、またアクセルを戻さなくちゃならない状況とか、ストップ寸前に少しだけ駆動力追加など、自身の中でいろいろと妄想しつつ意地悪な操作を繰り返しても、パーフェクトな操作で応えてくれる。スラロームもジムカーナばりに頑張ってみたが、不満はない。
「次第に疲れてきて、自分でクラッチ操作するより上手いのではないかと思えてくるから悔しいくらいですよ」
冗談のつもりで、津谷さんに言ってみたが、表情を見るかぎりどうやらまんざらでもないようだ。二輪免許歴30年以上、キッズ時代からモトクロスも少しやってきた筆者だが、ここはもう仕方がない。負けを認めてもいいかもしれない。

青木タカオ|モーターサイクルジャーナリスト
バイク専門誌編集部員を経て、二輪ジャーナリストに転身。自らのモトクロスレース活動や、多くの専門誌への試乗インプレッション寄稿で得た経験をもとにした独自の視点とともに、ビギナーの目線に絶えず立ち返ってわかりやすく解説。休日にバイクを楽しむ等身大のライダーそのものの感覚が幅広く支持され、現在多数のバイク専門誌、一般総合誌、WEBメディアで執筆中。バイク関連著書もある。