ホンダ 次世代ハイブリッドシステム搭載のプレリュードとヴェゼル プロトタイプに試乗! 小型e:HEVの進化は?[後編]

ホンダの次世代小型e:HEVシステムを搭載したプレリュード プロトタイプ
ホンダの次世代小型e:HEVシステムを搭載したプレリュード プロトタイプ全 21 枚

本田技研工業が開催した「ホンダ e:HEV(イーエイチイーブイ)事業・技術 取材会」。栃木プルービンググラウンドで実施されたこのワークショップでは、次世代中型プラットフォームと次世代ハイブリッドの中型e:HEVシステム、小型e:HEVシステム、そして「Honda S+ Shift(ホンダ エスプラスシフト)」が発表された。

小型e:HEVシステムを搭載した試乗車も用意。『ヴェゼル』ベースの試作車(電動AWD仕様)と2025年に発売予定の『プレリュード』プロトタイプ(FF)をドライブする機会を得た。それぞれ、現行ヴェゼル e:HEV AWDと現行『シビック e:HEV』と比較する。

■ホンダ次世代ハイブリッド、事業や技術についての詳細はこちら⇒やはり進行していた! ホンダのハイブリッド戦略の要とは?…新開発プラットフォームと次世代e:HEVシステム[前編]


◆ヴェゼルは滑らかさ豪快さ余裕が加わったようなフィールに

まずは基準車として現行ヴェゼルe:HEV AWD、つづいて新開発の小型e:HEVを積んだプロトタイプのヴェゼルと、いずれも高速周回とワインディング、ふたつの異なるタイプのコースで試乗した。まず前者だが、トルク量もパワーデリバリーも十分で、スポーツモードでは活発に走りさえする。いわゆるCVTのラバーバンドフィールはうまく丸め込まれているものの、CVTらしい滑らかさの中でダイレクトさを求めている結果、どうしてもアクセルオンに対して一瞬の間を挟んで加速する、あるいは容易にキックダウンして元々のパワーユニットが非力であるかのような感覚が伴う。

ところがプロトタイプの方では、パワートレインのすべての要素が新開発とはいえ、まったくの別物に仕上がっていることに驚かされた。まず加速感だが、回転域でいえば中~高回転域がキレイに吹け上がっては、一瞬のトルクカットを挟んで無段変速なので疑似的に切られた3-4-5-6速とはいえ、まるでクロスレシオのトランスミッションのように、小気味よく次のギアに繋がっていく。エキゾースト音と加速感の間に遅れや違和感がないのだ。しかも電動AWDによる後輪側からの力強いアシスト、とくにヘアピンのような低速コーナーの立ち上がりではリア外輪側からの適度なプッシュが感じられ、ステアリングのニュートラル感が持続する。感覚的には、ワンクラス上の排気量に乗り換えたような、滑らかさと豪快さそして余裕が加わったようなフィールに仕上がっているのだ。しかもドライバーを高揚させるようなこの制御は、そうそう高い速度域でなくても楽しめるような設定で、これまでスポーツモードをあまり使ったことがないユーザー層にもドライビングプレジャーを広く促すという。

これは単にシフトスケジュールを高回転型にして段差を演出しているだけではない。実際に高回転域までキレイに理想的な燃焼を維持するエンジン特性と、再加速時にモーター駆動によって自然にトルクをもち上げる制御をも、巧みに組み合わせたからこそ成立している。エンジンとモーターだけでなく、CVTの長所・短所までスポーツ使いしているからこそ、きわめて高度なハイブリッド制御といえる。

その上質でスポーティな走り味の源となるのは、吸入空気量を下げることなく質の高いタンブルを確保した高流動ポートや、シリンダー内の燃焼から発される高周波の放射音を抑えるためところどころに補強リブが加えられたシリンダーブロック、さらには曲げ剛性を8%ほど向上させたクランクシャフトなど、全面刷新された直噴エンジンによるところが大きい。ハイブリッドシステムを次世代へと進化させるのに、燃焼の質と高度なアウトプットにこだわるところが、そもそもホンダらしさともいえる。

ホンダの次世代小型e:HEVシステムを搭載したヴェゼルベースの試作車ホンダの次世代小型e:HEVシステムを搭載したヴェゼルベースの試作車

◆プレリュードのシフトダウンで破顔一笑

ではプロトタイプで左ハンドル仕様とはいえ、それは最新のプレリュードではどう表れていたか? 基準車は現行のシビックe:HEVで、リニアシフトコントロールの応答性は当然、ヴェゼル以上に高められている。強めに加速するとレブカウンターの針が上りつめては、車速に応じて切られたステップシフトをこなす際に一度で下りて来るが、トルクの切れ目は伴わない。しかし吹け上がりの軽さとエキゾーストノートの音質、しっとりしたロードホールディングは上々で、Cセグのファストバックセダンとして落ち着きとスポーツ性を巧みに両立させている。

だが、タイプRのシャシーを基にセッティングされたというプレリュードに乗り換えると、新世代の小型e:HEVシステムと低重心FFの組み合わせは想像以上だった。ヴェゼル以上に乾いたエキゾーストノートかつ、軽いのみならずパンチの効いた俊敏な吹け上がりは、まさしく4気筒マルチリシリンダーという2輪から始まったホンダのヘリテージすら感じさせる。少しくぐもったトーンからプワァーンと弾けるような加速ニュアンス、あるいはヘアピン手前で減速した際の一気に5速から2速まで落ちる際のフォンフォンという緻密なバブリング付きのシフトダウンは、乗り手を巻き込むというか、思わず破顔一笑。ヴェゼルもそうだったが、車外には音をあまり放出しないところもポイントだ。

それにしてもS+シフトの強みは、元が無段変速のCVTであるため、走らせている速度域やペースに関わらず、ドライバーの気分に合わせて最適なギア比とシフトポイントを作り出せる点にある。それを可能にする大前提が、理論空燃比の高効率領域が広いエンジンと大出力の小型モーター、さらにはバッテリーパックなど低背性を強化した低重心設計シャシーであるということだ。

ホンダの次世代小型e:HEVシステムを搭載したプレリュード プロトタイプホンダの次世代小型e:HEVシステムを搭載したプレリュード プロトタイプ

◆ホンダと日産、この先はどうなる?

かくしてホンダの次世代ハイブリッドの進化を確認できた翌日、ホンダと日産が経営統合を協議中という報道がもち上がった。ユーザー目線で目下の関心事は、それぞれのブランドや商品が独自性を保てるかどうかだろうが、開発リソースや基幹モジュールやコンポーネンツ、生産の共用が進むと、逆にそうはいかないのではないか? すなわち心配事の方が多いだろう。新しいe:HEVの味つけの指針、つまりハイブリッド車の付加価値の方向性ひとつとっても、ホンダの開発陣がキーワードとする「上質・爽快」と、旧くはL型やVR系のような冗長性ありきの重厚さ・豪快さをベースとする日産のコア・ヘリテージとは、相容れないように見える。

ただし今後、ハイブリッドに求められる価値がBEVに準ずる低い環境負荷性と、社会的にも産業構造にもひずみの少ない当面のソフトランディング的現実解であることを鑑みれば、いつ本格化するか未だ分からないBEV普及までハイブリッドのリソースをシェアすることに、一定の合理性はある。エンジンとの直結ギアをもたないことがメリットにもデメリットにもなっているe-POWERに、何らかの新しい道筋が開けないとも限らない。日産風の荒々しく野性味の強いエキゾーストノートを放つe:HEVというのも、想像する分には面白そうだ。

だが、これまで説明してきたように、次世代e:HEVは燃焼の質ありきの技術、そして周辺の基幹モジュールと制御なので、ホンダのドライブユニットの要件に日産のエンジンが合わせられるか、はなはだ疑問が残る。購買調達面や生産性、ロジスティック面での相互補完性といった規模のメリットばかりを追うと、いずれも長年かけて築き上げたブランド性を失うことになるが、それでも組むべきところでは組みたいというのが、両社の本音というより今の自動車業界における従来からのプレーヤーの、ベース心理ではないだろうか。


《南陽一浩》

南陽一浩

南陽一浩|モータージャーナリスト 1971年生まれ、静岡県出身。大学卒業後、出版社勤務を経て、フリーランスのライターに。2001年より渡仏し、パリを拠点に自動車・時計・服飾等の分野で日仏の男性誌や専門誌へ寄稿。現在は活動の場を日本に移し、一般誌から自動車専門誌、ウェブサイトなどで活躍している。

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