フランスのカンヌのワインディングは、信じられないほど 『XディアベルV4』にマッチしていた。「XディアベルV4」は存在感のある大きなボディ、極太のリヤタイヤ、ロングホイールベースにも関わらず、全てのコーナーを鋭く、そして優雅に駆け抜けたのだ。
足を前に投げ出したクルーザーポジションにも関わらず、運動性の高さはまるでスポーツバイク。それはレース譲りのV4エンジンをクルーザーにも躊躇せずに搭載してしまうドゥカティらしさに溢れた仕上がりだった。そこにエレガントな佇まい組み合わせるのがドゥカティで、これぞイタリアンメーカーの洒脱さである。

『Xディアベル』は、2016年にVツインエンジンを搭載して登場。それまでスポーツバイクのイメージが強かったドゥカティが本格的クルーザーを提案したことで話題になった。クルーザー=アメリカ製バイクというイメージが今よりも色濃い時代。Xディアベルはクルーザーのロー&ロングなスタイルは踏襲するものの、シックでラグジュアリーなイタリアンのセンスを炸裂させた。
XディアベルのXには交錯させるという意味がある。色々な文化や考え方を交錯させ、さらには無限の可能性を秘めているという意味だ。そして当時はまだ誰も知らないもの、わからないものという期待も込められており、それが9年の時を経て「XディアベルV4」へと進化したのだから感慨深い。
◆とてつもない速さを秘めたエレガントな佇まい

XディアベルV4は、車名の通りV4エンジンを搭載する。ドゥカティのV4エンジンは、世界最高峰のロードレースであるMotoGPが由来。そこで培った技術を市販車にフィードバックし、『パニガーレV4』シリーズに搭載している。
XディアベルV4のエンジンは、グランツーリスモと名付けられ、パニガーレV4エンジンをベースにボアを2mm拡大。排気量を1103ccから1158ccにアップし、一般道での扱いやすさを重視している。
フレームはアルミモノコックとなり、エンジンの変更に伴い全てを一新。車体は前モデルの『Xディアベル1260S』より6kgも軽量化されている。また、スポーツ性と快適性をさらに追求し、リヤサスペンションは前モデルより35mmもストロークを延長。シートの厚みや広さを増し、ライダーの動きやすさと居住性と両立させた。

Xディアベルの佇まいはとてもエレガントだ。そこにとてつもない速さを秘めている。どこか欧州のラグジュアリースポーツカーに通じる感性も同居しており、それもドゥカティの秀逸さだ。前後サスペンションやブレーキにスポーツバイクのような豪華装備が与えられ、それが高いコーナリング性能を実現させる。
スマートキーをジャケットにしまい、キーをオンにするとカラフルな液晶が出現。「ウエット」「アーバン」「ツーリング」「スポーツ」の4つのライディングモードから「ツーリング」を選んで走り出した。
◆他のドゥカティとは異なるクルーザースタイル

ポジションは足を前に投げ出すクルーザースタイル。明らかに他のドゥカティとは異なる。身長165cmの筆者(小川勤)だと足が伸びきってしまうのが悩み。小柄な方はオプションのミッドステップに交換するのが良いかもしれない。
スロットルを開けた際にサイレンサーから放たれるV4サウンドはとてもジェントル。クイックシフトを使えば、ギヤチェンジに難しさはなく、発進&停止、極低速時以外にクラッチレバーを操作する必要はない。

走り出して印象的なのは素直さ。車体の大きさや240サイズの極太リヤタイヤを感じることはない。欧州の市街地はとてもタイトだが、そんな中をXディアベルV4はとてもリズミカルに駆け抜けていく。
高速道路では6速/4000rpmで100km/hほどだが、4000rpmでは少しトルクが足りないイメージ。100km/h走行時は5速の方が良いだろう。
◆高い運動性を支えるスポーツバイク並の装備

ワインディングでのフィーリングは冒頭で説明した通りだが、その高い運動性に寄与しているのはスポーツバイクと変わらないフルアシャスタブルサスペンションやブレンボ製のブレーキシステム、そしてピレリ製のスポーツタイヤだ。クルーザーでこの装備を持つバイクはほとんど見当たらず、それが168psを発揮するV4エンジンの加速をしっかりと支える。
途中、「アーバン」&「スポーツ」モードも試したが、「スポーツ」はレスポンスが向上し、クルーザーとは思えない怒涛の加速を披露。「アーバン」は穏やかだ。ちなみに「ツーリング」でも速さや加速に一切の不満はない。昼食後は土砂降りとなり、撮影は中止に…。

「レイン」を試すと出力特性はかなりマイルドで扱いやすく、トラクションコントロール介入を示すランプがメーター内で頻繁に点滅。ウェット路面でもきちんとスロットルを開けて、後輪のトラクションを増やす走りが可能で、電子制御が繊細にライダーをサポートしてくれていることをリアルに体感することができた。
このスポーツ性があれば、他のドゥカティとのツーリングで遅れを取ることもないはず。速さとエレガントさを両立し、斬新さと繊細さ持ち合わせ、エモーショナルに訴えかけるクルーザー、それがXディアベルV4だ。

小川勤|モーターサイクルジャーナリスト
1974年東京生まれ。1996年にエイ出版社に入社。2013年に同社発刊の2輪専門誌『ライダースクラブ』の編集長に就任し、様々なバイク誌の編集長を兼任。2020年に退社。以後、2輪メディア立ち上げに関わり、現在は『webミリオーレ』のディレクターを担当しつつ、フリーランスとして2輪媒体を中心に執筆を行っている。またレースも好きで、鈴鹿4耐、菅生6耐、もて耐などにも多く参戦。現在もサーキット走行会の先導を務める。