マツダ『CX-60』にはもう何度も試乗している。販売開始は2022年秋。試乗会での評価はかなり酷なものであったと記憶する。
その後に改良モデルが投入されたものの、2024年10月にはリコールも発生。なんとなく多難な船出となってしまったが、新開発のFRプラットフォームと縦置き3.3リットル直6ディーゼル搭載、それにトルコンを使わない8速ATの採用等々、新機構満載のクルマであるから、初期に色々と問題点が出ても仕方のない状況であったことは容易に想像できる。
改良型が2025年になって投入され、いわゆる素のディーゼルに関しては、初期にあった問題点がほぼ解消されていて、これなら自信をもってお勧めできる1台と思ったものである。

今回の試乗はMHEVモデル。3.3リットル直6ターボディーゼルと、48VのISGを組み合わせたモデルである。改良型CX-60については、今年の2月に試乗会が行われ、ガソリンエンジンとの組み合わせとなるPHEVを除いたディーゼル系のAWD、RWDの3モデルに試乗した。今回はその時にも乗ったAWD、MHEVモデルの試乗だ。
やはり試乗会での試乗時間は短いから、いろいろと試すことはできないし、そもそもたいていの場合試乗会はロケーションの良いところで行われるので、大半のユーザーが使うであろう、市街地の走行などはごく限定される。そんなわけだからいつも個人的には時間がたってから1週間ほどじっくりと乗せて頂いている。
今回の試乗ではやはり2月の試乗では気付かされなかったところが見えた。
◆最大の課題だったリアからの突き上げ感は払拭された

まず、デビュー当初から問題として指摘されていたCX-60のウィークポイントは3つ。最大の問題は乗り心地の悪さで、とりわけリアからの突き上げ感が強かった点。2つ目はトランスミッションのギクシャク感。そして3つ目はやはりトランスミッションが発生させる摩訶不思議な「ゴーッ」という不気味な騒音の問題である。
これら3つの点について、試乗会当時はいずれの点も良く直されていて問題ないと思えた。とりわけ、最も顕著に改善が認められたのはリアからの突き上げ感の払拭である。この点はほぼ完ぺきに直されていると思う。これによって快適性は格段に向上した。
ただ、このクルマの誕生当初から、その設計コンセプトとして横方向の揺れに対しては非常に注力されて開発されていたものの、縦方向は人間が馴化するから、さして問題としてとらえていなかったと聞いているが、残念ながら縦方向の揺れに人間は馴化しない、というのが個人的な意見。相変わらずフラットライド感に乏しく、高価格なモデルとしては(試乗車の価格はオプション込み572万5500円)納得のいく乗り心地とは言い難い。

◆トランスミッションのギクシャク感は解消、だが「ゴーッ」の異音は…
次にトランスミッションのギクシャク感である。試乗会での試乗時は、トラフィック内での試乗ができなかったことから、結論は導き出せなかったが、今回はそのトラフィック内をたっぷりと走ってみた結果、この点は合格である。
トルコンレスという珍しいATを採用した背景は 断続・同期・伝達効率といったトランスミッション機能の劇的な向上を追求して、機械式クラッチ機構を採用したということ。確かにダイレクト感は増すのだろうが、機械式クラッチを使う限り、微速でのアクセルオン・オフに対してはトルクの断続が大きくなってギクシャク感が出る。そして事実それが出ていたのだが、今回のモデルはそうした機械式クラッチのチューニングが上手く行ったようで、このギクシャク感まるで感じられなかった。
そして3つ目の「ゴーッ」という異音。試乗会時には感じられなかったのだが、やはり日常的に使ってみるとまだ残っている。音自体は小さくなって、発生もだいぶ頻度が小さくなったものの、まだ時々出て来る。
ということで、ネガ潰しはかなり成果を上げていることは確認できた。

◆電気モーターとICEの相性
一方で別な気になる点も新たに見つけた。それは、これも恐らくはトランスミッションのギアノイズと思われるものだが、モーターを組み合わせたことで高周波のノイズがかなり顕著に出る点。
それもMHEVの場合、停車前のかなり早い段階でエンジンを切ってしまうが、そうなるとこのギアノイズは顕著に耳に届くようになって、まるで虫の羽音のようで気にし出すと非常に気になるものであった。
というわけもあって、今のところは素のディーゼル搭載車が一番のお勧めで、価格的にもだいぶコスパの高い印象を受けてしまう。マツダはまだ電気モーターとICEの相性をうまく見い出せていない印象を受けた。ガソリンPHEVを含め、試乗会記事でも書いたAWDとFWDとの走りに違い等々、その買い時とチョイスは迷うところが大きい。

■5つ星評価
パッケージング:★★★★★
インテリア/居住性:★★★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★★★
おすすめ度:★★★★★
中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員・自動車技術会会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、さらにドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来46年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業やシニア向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める。最近はテレビ東京の「開運なんでも鑑定団」という番組で自動車関係出品の鑑定士としても活躍中。