LSDはタイヤが滑ったときに駆動力が抜けないようにしてくれるもの。機械式と呼ばれるLSDはその内部パーツのセッティングによって動きが変わり、乗りやすくも乗りにくくもなる。
カム角、イニシャルトルク、ロック率の3つの要素をどうセッティングするかが扱いやすさのカギになる。
そもそもLSDは左右の回転差を吸収しているデファレンシャルの効果を保ちつつ、駆動を掛けた時などにタイヤが滑り出した際にその左右の回転差を抑え、駆動力を路面に伝えるようにするもの。左右タイヤを直結に近い状態にすることで、トラクション性能をアップさせる。また、コーナーへの進入時にも左右タイヤの回転差を抑えることで安定感をアップさせ、コーナリングの限界を高める狙いもある。そこで重要になるのがセッティング。
◆セッティング要素1:カム角
左右のタイヤに回転差が生まれたとき、クロスシャフトによってプレッシャーリングが押されて、フリクションディスクが押し付けられてLSDが作動し、左右タイヤの回転差を抑えようとする。
このフリクションディスクは車種やLSDメーカーによって異なるが、8枚とか12枚とか入れられていて、それが摩擦することで回転を抑える。その押し付ける力をカム角で調整できる。たとえばクスコではカム角を選ぶことができ、35度と45度、55度などが設定されている。基本的に数字が大きい方が素早くプレッシャーリングを押し付けるので、すぐにLSDが効く。
作動方式で1WAY、1.5WAY、2WAYがあるが、これはこのカム角によって加速時と減速時にどれだけ効いているかを指す。1WAYはアクセルONの加速時のみクロスシャフトがプレッシャーリングを押して、減速時はクロスシャフトがプレッシャーリングを押さない。イニシャルトルク分だけの効果しかなくなるタイプ。2WAYは加速時にも減速時にも同じ角度でカム角が設定されているもののこと。加速時も減速時も同じように効果を発揮する。
そして、近年多いのが1.5WAYというもの。これは加速時が35度のカム角、減速時のカム角が20度のように、加速時に強く効いて減速時にゆるく効くものをそう呼んでいる。
必ずしも加速時のカム角の半分の角度のものを1.5WAYと呼ぶと決まっているわけではなく、そういう概念というだけ。なので、加速時35度/減速時20度も1.5WAY。加速時45度/減速時20度も1.5WAY。加速時45度/減速時45度も2WAYと呼ばれているだけなので、1.5WAYも2WAYの一種なのだ。メーカーやショップによっては加速時45度/減速時10度のようなものを1.1WAYと呼んだりしているだけで明確な業界基準があるわけではない。
◆セッティング要素2:イニシャルトルク
これはクロスシャフトがプレッシャーリングを押す前に、そもそもどれだけディスクを押し付けるように力が掛かっているかを示す言葉。皿バネを使って圧力を掛けたり、コイルバネを使って圧力を掛ける。LSDとしてはこのバネで押し付けられている分は常に効いている。
イニシャルトルクを落とせば、直進時はLSDがほぼ作動せず、曲がるときだけ作動する。だが、効きの幅がほとんどないところから効くところまで広いので、クルマの挙動に変化が起きやすい。とくに1WAY作動式だとアクセルOFFでは効かないので、高速道路のループのような大きなカーブを曲がっているときにアクセルONからOFFにしたとき、イニシャルトルクが低いと急激にクルマが向きを変えたり挙動が変わりやすい。ある程度イニシャルトルクを効かせていたほうがマイルドな挙動になりやすい。
◆セッティング要素3:ロック率
左右のタイヤから伸びたドライブシャフトは最終的にフリクションディスクにつながっている。右タイヤとつながっているディスクと左タイヤがつながっているディスクが摩擦することで回転差を吸収する。
この摩擦面が1箇所ならクラッチで言えばシングルクラッチ。2枚あればツインクラッチ。これがLSDの場合は摩擦面が車種によって4~8か所ほどあるのだ。ディスクの組み合わせによってこの摩擦面の数を調整するのがロック率。摩擦する箇所の数を減らすほど効果が弱まる。それほど強く効かせたくないのであればロック率を下げていくのも手。
こういったさまざまな要素があり、メーカー側でも車種ごとにセッティングしているが、さらにショップでは細かいセットをして組み込むことも多い。どんな場面でどれだけ効かせたいのかによってセッティングすれば、もっと扱いやすく仕上げることができる。