ドゥカティはこれからの時代に対応するため、そしてカスタマーのニーズに応えるため、NEWエンジンである「V2」(890cc)を2024年10月に発表。そのV2エンジンを搭載した初のモデルである『パニガーレV2S』がついに日本に上陸した。
すでにドゥカティ正規販売店でのデビューフェアで多くのライダーが試乗し、SNSなどでも「軽い」「馴染みやすい」「これぞ新しいドゥカティ」と大きな反響が届き始めている。
今回はそのV2エンジンと新型『パニガーレV2S』の技術発表会がドゥカティジャパンで開催されたため、参加してきた。
◆ドゥカティ本気のV2エンジンが登場、本国でもその仕上がりに感動

筆者(小川勤)は、2024年10月にイタリアのボローニャ本社を訪問し、本国のV2エンジン発表会に参加。2025年4月にはスペインで開催されたパニガーレV2Sの試乗会にも参加し、その素晴らしさを一足先に体感。帰国後の反響はとても大きく、ディーラーはもちろん、ファンの皆さんからパニガーレV2Sについて聞かれることが非常に多かった。それだけV2&パニガーレV2Sは、今のニーズに寄り添っているし、注目度が高いということだろう。
その注目のポイントになっているのは、大胆な軽量化だ。前モデルのパニガーレV2Sと比較すると、エンジン単体で9kg、車両全体で17kgの重量を削減。その数値のインパクトはとても大きい。

また、V2エンジンはストリートファイターV2およびムルティストラーダV2シリーズにも搭載されている。ストリートファイターV2Sは17kg、ムルティストラーダV2Sは18kgも前モデルから軽量化されている。
今回は、改めてその軽さを生み出すために進化したディテールの数々を紹介しよう。
◆スペックダウンにデスモ不採用、しかし速さは変わらず?!

MotoGPライダーのマルク・マルケスのSNSにNEWパニガーレV2Sの走行動画や写真が上がったのは2025年の1月。
890cc V2はそのスペックだけを見ると「ん?」と感じるところがいくつかある。まず前モデルのパニガーレV2Sのスーパークワドロよりも、排気量を65cc、パワーを35psも失っている。また、ドゥカティのスポーツバイクの伝統ともいえる、バルブ開閉機構のデスモドローミックを採用していない。
しかし、マルクは2025年初にスペインのサーキットで新旧パニガーレV2Sを乗り比べ、新型で1分12秒2(前モデルは1分12秒1)を記録。NEWパニガーレV2Sは、スペックダウンを感じさせないパフォーマンスを見せたのだ。
マルクは試乗後、開口一番「軽い、とても軽い」とコメント。軽さがブレーキングにも貢献し、エンジンが低速域から使いやすいこともアピールした。史上最軽量のパニガーレは、マルクのコメントにより、多くのライダーの疑問や不安を払拭した。

また、ドゥカティ本社のテストで、マルク以外にも様々なライダーが新旧パニガーレをサーキットで乗り比べたところ、キャリアの浅いライダーほど、NEWパニガーレV2Sの方が良いタイムを刻んだとのこと。これはパワーやトルクといったスペックだけでなく、軽さをキーワードに新しいバイクを誕生させたドゥカティの方向性が正しかったことを証明している。
◆小さな積み重ねがエンジン単体で9kgの軽量化を実現

ドゥカティのスーパーミッドシリーズは1994年の『748』からスタートしている。このエンジンは『916』のダウンサイジングであり、これ以降のミドルツインはすべて大排気量からのダウンサイジングとなる。もちろん前モデルのパニガーレV2Sのスーパークワドロも例に漏れず、『1199パニガーレ』『1299パニガーレ』からの排気量ダウンだった。

そのため、エンジンが大きかった。例えばシリンダー周りの部品は共通のため、パニガーレV2はスリーブの肉厚が大きかったという。しかし、全バラになったV2は、各部に軽量化の工夫が見られる。一番の変更点は前述した通りデスモドローミックの廃止である。これが部品点数の軽減を実現し、ヘッド周りのコンパクト化を実現。また、バルブに関してはドゥカティ初の中空バルブ(慣性を5%低減)を採用。シリンダーとクランケースは一体となり、ミッションやクラッチハウジングのギヤも小さくなった。

スーパークワドロは、ミドルクラス用のエンジンだが、200psに対応できる作りだった。しかし、V2は120psに対応すればいいため、各パーツがコンパクト化されたのである。エンジン単体で9kgの軽量化の秘密は、こうした一つひとつの積み重ねによるものである。

◆車体も大幅にシンプル化で、17kgの軽量化を進める

V2を搭載するために車体も設計を一新。先にデビューしたパニガーレV4のコンセプトを踏襲し、フレームとスイングアームは横方向の剛性を落とす方向で進化。フロントフレームには大きな穴が開き、スイングアームは片持ちから両持ちになった。

またV2エンジンはVバンクを後方に20度傾けることで、車体設計の自由度を向上。エンジンをより前方に搭載することが可能となり、前輪の接地感を確保。また、これはスイングアーム長を確保できるメリットにも繋がり、トラクションを向上させた。小ささと軽さをアピールする一方でホイールベースは伸び、最新電子制御を搭載。現代のシャシーづくりを採用している。

またリヤサスがリンクを持たないカンチレバー式になったことにも注目したい。シンプル化=軽量化を実現している。

そして7月2日に袖ケ浦サーキットでメディア向けの試乗会が開催された。改めて、パニガーレV2SとV2エンジンの実力をお伝えする。
