『GRヤリス』4モデルを乗り比べ!「25式」の大進化とエアロパッケージの効果は「もはや反則レベル」だった

トヨタ GRヤリス 25式「エアロパフォーマンスパッケージ」
トヨタ GRヤリス 25式「エアロパフォーマンスパッケージ」全 51 枚

『GRヤリス』は2020年に登場した1.6リットルターボ+4WDのスポーツカー。トヨタの4WDスポーツというと『セリカGT-FOUR』(ST205)が1993~1999年に発売されていたのが最後。実に20年以上ぶりに登場した4WDスポーツだったのだ。

【画像】25式のGRヤリスと、エアロパフォーマンスパッケージ

その登場はセンセーショナルであったが、登場しただけで終わらなかった。さまざまな競技に投入され、現場からフィードバックされたデータによって改良が進められた。

ボディ剛性が高められた限定車の「GRMN」の登場や、ビッグマイナーチェンジが行われた後期型も登場した。だが、この後期型は「24式」と呼ばれるようになり、さらにここに来て「25式」が登場となった。後期型になって大きく変わったが、2025年式はさらに変わったのだ。

おさらいすると24式と呼ばれる後期型になって、フロントサスペンションのアッパーマウントが、これまでコンパクトカーなどに採用されることが多かった挟み込み式アッパーマウントから、3本止めのアッパーマウントに変更された。これによってアライメント変化を抑えて、ハンドリングを向上。

ボディ自体もスポット溶接打点数を約13%増加。構造用接着剤の塗布部位を約24%拡大することでボディ剛性を高めた。
エンジンは272ps/37.7kgf/mから304ps/40.8kgf/mへと大幅にパワーもトルクもアップ。低中回転からの力強さも増した。前期型では6MTのみの設定だったが、スポーツできるATを開発。GR-DATが設定された。

これほどまでに大きく変わった24式だったが、さらに25式では大きく進化している。

◆すべてが変わった!?「25式」の大進化

まずはGR-DATの進化だ。スポーツ走行時のシフト操作に対する応答性を改良。Dレンジ走行時の2速から1速にシフトダウン可能な車速領域を拡張。マニュアルモードではスポーツモードを選択したときにレッドゾーン付近のダイレクト感をアップ。

シフトアップタイミングも最適化され、上り坂ではシフトアップをやや引っ張るようになり、ウエット路面などでの急制動時には積極的にシフトダウンする制御になった。また、エンジンはレブリミッターに当たっても3秒間はそのギアをキープするようになっている。

足まわりではロアアームやサスペンションメンバーとボディの接合部のボルトを見直した。リブが追加されたボルトやボルト頭部サイズを拡幅したもの、フランジの厚みをアップさせたものを採用。さらにISOFIX取り付けボルトの締結トルクを19.5Nmから22.0Nmに変更するなど、操舵応答性と直進安定性のアップに効果を発揮するという。

さらにショックアブソーバーは微低速で減衰力をアップさせることでグリップ感を改善。中速以上の減衰力は下げることで接地性を改善した。電動パワーステアリングにも変更が加えられ、リニア感が向上したという。

そして、「エアロパフォーマンスパッケージ」が追加されたものポイント。こちらは純正エアロにオプションで取りつけるものでダクト付きアルミボンネットは冷却効率アップに貢献。

フロントリップスポイラーとフェンダーダクトは、高速走行時のフロントの浮き上がりを抑制。可変式リアウイングはブレーキング時のスネーキング抑制に効果的だという。またリアバンパーはパラシュート効果を抑えるダクトが設けられた。さらに燃料タンクにはアンダーカバーが付けられ、より下面のフラット化が図られた。

◆「GRヤリス」4モデルを乗り比べ

今回は千葉県のサーキットである袖ケ浦フォレストレースウェイにおいて、前期型の20式6MT、最新の25式の6MT、25式GR-DAT、25式GR-DAT+エアロパフォーマンスパッケージの4種類に試乗することができた。

クルマはフルノーマル。こういった試乗会ではサーキットとはいえ、速度制限やコースにパイロンを置いて、速度が出せないように制限されることも多いが、今回はそういった制限なく完全な状態のサーキットを全開で走らせる機会を得た。

まず最初に乗ったのは20式6MT。

ボディが変わった24式以降と比べるとややフロントまわりの剛性が低いとは言わないが、比較すると後期型の方がガッシリとした感じを受ける。しかし、それは比較したからの話で、20式だけを乗れば十分。ノーズは気持ち良く向きを変えていってくれて、ブレーキングから積極的にハンドルを切ってノーズの入れていくと綺麗に反応して向きを変えられる。

スーッと向きを変えていき、相対的にリアタイヤがスライドを感じるくらいまで曲がっていく。リアが破綻して流れているのではなく、きちんとフロントが向きを変えていくからこそ、リアが流れるという素晴らしく理想的なハンドリングを得られる。

次に25式6MT。

走り出して最初に感じるのはそのボディ。全体に剛性アップがされているが、特にフロントまわりの剛性感が凄い。ステアリング自体の支持剛性も高いようでガッチリとしている。上下左右に揺すってもびくともしないステアリングを切ると極めてタイムラグは少なくリニアにクルマは向きを変えていく。このあたりは挟み込みアッパーマウントから、3点マウントアッパーマウントになったことでの効果も大きそう。

エンジンは極低回転からトルクフルになっている。20式はそのあたりがややトルクが弱く、どっかんターボ的な特性があったが、それが全域でトルクが増して明らかに扱いやすくなっている。

コース内では全開加速からブレーキング、そこからステアリングを切っていくとスーッと向きを変えていく。4WD車ではなんとなく抵抗感を感じながら曲がっていくクルマもあるが、25式の場合は20式に比べてもさらにシャープに旋回していく。その鋭さは20式よりも明らかで、イージーにリアタイヤをスライドさせられるほど向きが変わっていく。意図的に強烈に向きを変えていけば、カウンターステアが90度以上も必要なほど。それだけ曲がっていってくれるのが凄い。4WDのモードはノーマル・トラック・グラベルのいずれも向きを変えるときの挙動は変わらない。

4WD車やFF車で向きを変えにくいので、リアタイヤをトーアウトにするとか、意図的にリアタイヤのグリップを下げて向きを変えていくようなレベルではない。強烈にフロントが曲がっていくからこそ、相対的にリアタイヤが流れてしまう場面を作れる、という素晴らしい挙動を示してくれる。20式と比べてもさらに洗練されている。

乗り手がリアタイヤを滑らそうと思えば滑るし、滑らないようにすれば滑らない。そこで滑ってしまうというシチュエーションはない。

ちなみに連続4周を全開で走るとエンジンオイル油温は132度まで上昇したが、クーリング走行すると1周で121度まで温度は低下。これだけ1周で温度が下がれば、サーキット走行はアタックとクーリングを繰り返せば十分に楽しむことができる。

◆ダイレクト感は文句なしの「GR-DAT」

3台目に乗ったのは25式GR-DAT。

いわゆる6速オートマである。そのダイレクト感は文句なし。途切れない加速が続き、シフトダウンも素早く反応。なんの不満もない。シフトダウン時も2速から1速など、かなりの高回転でもシフトダウン可能だし、その反応は学習して変わっていくという。

とはいえ、1コーナーなどこちらで4速から3速にシフトダウンしないと立ち上がりでややもっさりとする場面もあるが、パドルシフトで対応すればさほど問題はない。

予約シフトと言われる、たとえば5速走行時にシフトダウンのパドルを3回押すと、速度が落ちるのに合わせて2速まで落ちるような機能はない。そういった機能を持ったクルマもあり、できれば予約シフトが可能になるとありがたいが、そこは今後の進化にまた期待したいところ。

DAT化することでフロントまわりが20kgほど重くなっているという。その重さによって6MTと比較するとノーズダイブも大きめでそのあとのストロークも大きく感じる。サスペンションは6MTとDATと共通とのこと。

やや大きめの動き感じるせいか、ターンインで6MTのようにテールスライドには至らない。どちらかといえばアンダーステアに感じるが、とはいえ曲がらない~!というアンダーステアではなく、6MTと比較するとそこまでシャープではないというだけで十分によく曲がる挙動は示してくれる。

◆エアロパフォーマンスパッケージの効果は「反則レベル」

そして最後は25式GR-DATにエアロパフォーマンスパッケージを装着した個体。

当初、可変式リアウイングなどをセットして発売する予定だったが、車両開発に参加したレーシングドライバーの大嶋和也選手がフロントのダウンフォースが足りないと指摘。急遽フロントリップスポイラーを開発し、発売時期を伸ばしてまで追加したという。

そしてその効果は……もう反則レベル!!

まずコースインしてゆっくりと走っているレベルでわかる。ステアリング操舵に対してシャープにクルマが反応。オン・ザ・レールとはこのことで、思ったラインで曲がっていく。非装着車だってめちゃくちゃよく曲がるクルマだが、それでも操舵に対して狙ったラインはタイヤ1本分くらいアウト側にズレていたのだな!と実感する。

2コーナーは全開で走るとそのまま曲がれるか、ちょっとアクセルを戻すか迷うところ。とくにタイヤが熱ダレしてくると全開のまま曲がるのは厳しい。しかし、エアロパフォーマンスパッケージ装着車だとタイヤがフレッシュなうちはイージーに全開。熱ダレしてきても全開のまま曲がれる。それだけ向きが変わってくれる。

ブレーキングではボディ全体が落ち着くまでの時間が短い。非装着車ではブレーキングからストロークして挙動が落ち着くまで一瞬待ちの時間があるが、エアロパフォーマンスパッケージではその時間が極めて短い。フルブレーキングから素早くボディの動きが抑えられるのでスムーズにターンインしていけるのだ。

GRヤリス プロジェクトジェネラルマネージャーの山田寛之さんに聞くと、「フェンダーダクトによるフェンダー内の空気を抜くことによる効果に加えて、リップスポイラーによる効果がハンドリングへの影響が大きいです。リアウイングによって変わったバランスを大嶋選手のアドバイスでリップスポイラーを追加することでバランスさせました」とのこと。

このエアロパフォーマンスパッケージの価格は、「RZ “High performance”」の6MTが547万5000円、「RC」の6MTなら405万5500円(GR-DATはそれぞれ+35万円)。つまり、ベース車プラス約50万円でこの性能が手に入る。

この価格差であれば明らかに装着がオススメ。あとで自分でリップスポイラーやGTウイングを追加してもすぐにその価格を超えてしまうし、そのエアロによって前後の空力バランスが整うとは限らない。

今回、GRヤリス前期型と進化を遂げた25式に試乗することができたが、その進化の度合いは凄まじいと感じた。明らかにシャープになっているボディと、低回転からトルクが増えたエンジンは素晴らしい。だが、前期型もそれを補う各種チューニングパーツがある。いずれにしてもGRヤリスは今、もっとも楽しめるクルマになっている。

加茂新|チューニングカーライター チューニング雑誌を編集長含め丸15年製作して独立。その間、乗り継いたチューニングカーは、AE86(現在所有)/180SX/S15/SCP10/86前期/86後期/GR86(現在所有)/ZC33S(現在所有)。自分のカラダやフィーリング、使う用途に合わせてチューニングすることで、もっと乗りやすく楽しくなるカーライフの世界を紹介。

《加茂新》

加茂新

加茂新|チューニングカーライター チューニング雑誌を編集長含め丸15年製作して独立。その間、乗り継いたチューニングカーは、AE86(現在所有)/180SX/S15/SCP10/86前期/86後期/GR86(現在所有)/ZC33S(現在所有)。自分のカラダやフィーリング、使う用途に合わせてチューニングすることで、もっと乗りやすく楽しくなるカーライフの世界を紹介。

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