EV、SDVはテスラ・中国勢の独壇場ともいえる状態だが、その中で異彩を放つ企業がベトナムの「ビンファスト」である。北米・欧州にも早くから進出し、アメリカではバッテリーリースモデルで市場を広げ、ナスダック上場も果たしている。
その特徴は、テスラや中国勢とも異なる事業戦略にある。とくにインドネシアでは始めたモデルは、同社による今後の世界戦略のひとつのスキームになる可能性を秘めている。事情に詳しいアジア戦略コンサルタントの藤井真治氏(APスターコンサルティング 代表)に話を聞いた。
ASEAN・東アジアで起きた転換期
――レスポンスセミナー「ベトナム発、新興EVメーカー「ビンファスト」のインドネシア市場攻略戦略」では、ビンファストの戦略についてお話をされるそうですが、まずは藤井氏のバックグラウンドについて教えていただけますか? トヨタに在籍していたと聞きました。
藤井(以下同):トヨタは2013年まで在籍していました。おもに、中国やアジア方面での営業活動、事業の展開に携わっていました。香港、インドネシアでの駐在経験があります。中国では、レクサスブランドの新規立ち上げ、輸入車のディストリビュターの設立、四川や天津汽車などの合弁事業の立ち上げにかかわりました。2回目のインドネシア駐在は現地トップとして赴任していました。
――なるほど。トヨタによる中国・東南アジア展開の礎を作ってきたわけですね。
日本からの完成車輸出がメインビジネスだった時代から、現地合弁による車両生産が本格化し、TMCI 設立によってレクサスのグローバルスタンダードが展開され始めた頃が中国ビジネスの転換点だったといえるかもしれません。その後現地パートナーが中国第一汽車と広州に整理され、輸入車と2つの国産ブランドの3つの事業が順調に推移していったわけです。現在は電気自動車を軸とした中国車の巻き返しによって日本OEM勢はシェアダウンに転じ、事業の路線見直しが必要とされています。
ビンファストの現地化戦略
――確かに、リージョンごとの戦略や商品企画が重要とされ、連動して現地工場、現地生産の波が次の段階になろうとしている空気を感じます。
国内外の自動車業界が海外戦略を再構築しています。日欧OEMによる中国OEMの提携やNEVの共同開発や調達。SDVに関しては中国系のテックジャイアントやAIユニコーンとの提携の流れもあります。その中で、インドネシアで急速に事業を拡大し存在感を高めているのがビンファストです。非常に興味深い戦略といえるので注目しています。
タイやインドネシアでは中国勢のBEVが急速に市場を拡大しています。背景はいろいろありますが、中国経済の縮小や国内EVの価格競争激化から、自動車業界が内需から外需(輸出)への転換を図っている点が理由のひとつして挙げられています。各国政府も工場誘致などを条件に法人税や関税、内国税減免などの優遇措置をとっていることも、それを後押ししています。
結果としてインドネシアでも中国OEMが大挙して押し寄せ、BEV競争が激化している現状があります。性能や価格だけでは競争力を維持できない状態になっています。
ビンファストはその市場にあえて参入したのですが、単純な自動車OEMビジネスでは勝負していません。
加熱する市場を冷静に分析するビンファスト
――どんなビジネスモデルなんですか?