「毎日乗れるスーパースポーツ」をコンセプトに掲げ、2014年に登場したモデルがヤマハ『YZF-R25』だ。その後、ABSの標準装備(2015年)、外装変更や倒立フォークの採用(2019年)、排ガス規制への対応(2023年)等を経て、徐々に進化。今回、その最新モデルに試乗した。
◆兄貴分譲りのDNA、空気を切り裂く新世代のフォルム

2025年モデルの「YZF-R25」が、今春から発売されている。エンジンやフレームに仕様変更はないマイナーチェンジではあるものの、そのイメージは大きく変化。手を加えられた主なポイントは、下記の通りである。
・NEWデザインの灯火器類とそれにともなう外装変更
・サイドカバーとシート変更による足つき性の向上
・アシスト&スリッパークラッチの装備
・USB Type-Aソケットの装備
・LCDメーターのデザイン変更
・コネクティビティ機能Y-Connectへの対応
・クラッチレバーの位置と形状の変更
・ラジエターカバー変更による冷却性能の向上
これらの中、特にフロントマスクからシートカルに至る外装の刷新によって、新しさが際立つ。従来モデルのアッパーカウルはややぽってりとし、それによって躰が包み込まれる感覚だったのに対し、新型はスリム化され、空気を切り裂くようなシルエットになっている。

その印象を引き上げているのが、M字ダクトのかなり奥底に仕込まれたプロジェクターヘッドライトと、その左右を固めるポジションライトだ。ポジションライトは切れ長の2眼式という凝った意匠で、モノアイ型のヘッドライトとの組み合わせによって、『YZF-R7』や『YZF-R9』(日本未導入)とのリレーションが強化されている。
また、離れて見るとそれと気づかないが、ポジションライト下のカウルは空気を整流するボックス状になっていて、ウイングレットとしても機能。これはテールカウルも同様で、分かりやすく、キャッチーな羽根ではないところに品があって好ましい。

実は今回、車両を手配する時にブルーと新色のマットパールホワイトの2色の中から選ぶことができた。「YZF-Rシリーズだし、レースイメージのモデルだし、ここは普通にヤマハブルーだよな」と、さして深く考えることもなく「じゃ、ブルーで」とお願いしたのだが、カウル各部の役割や形状の細やかさは、マットパールホワイトの方が伝わりやすく、写真映えもしそうだ。見る角度によって色合いが変化するこの新色は、あとで聞けば、若者を中心にかなりの人気だそうで、無難から脱せなかった選択を反省している。
◆街で光る寛容さと、パワーを使い切る醍醐味の両立
従来モデルがそうだったように、乗車感に違和感はなにもない。直接比較しないと、どれほど向上したのかは明言できないのだが、乗降のしやすさや足つき性は変わらず良好で、ハンドル位置は低いといっても、やや開き気味で垂れ角も控え目。したがって、上半身に窮屈さはなく、常に適度なフロント荷重が得られる。

エンジンの最高出力は、35ps/12000rpm、最大トルクは、2.3kgf・m/10000rpmとなる。下から上までスムーズさが保たれ、回して楽しい、あるいは回して本領を発揮するキャラクターではあるが、4000~5000rpmあたりを多用しながらの街中も不足なくこなす。
滑らかな回転フィーリングとギア比との相性がよく、250ccだからといって、こまめなシフトチェンジを強要されない。そのフラットさゆえ、何速でも何回転でもそれなりに走れる寛容さがあり、ほぼ同じパッケージで排気量が大きく、回転上昇も早い『YZF-R3』(320cc)の方が、シーンによってはシフトチェンジによる車速調整が忙しい。それと比較すると、「YZF-R25」はパワーが控え目な分、右手を大きくひねり、回転数を幅広く使えるという楽しみがある。
◆兄貴分のYZF-Rシリーズにひけを取らない「一体感」

そんなエンジンが活きるのが、コーナリングだ。
今回の改良で追加されたアシスト&スリッパークラッチの効果も手伝って、挙動の変化を抑えながらコーナーへ進入できる点がまずひとつ。そのままバンク角を深め、回転数を探るような場面でもスロットルのオンオフに対するリニアが崩れないため、車体姿勢をコントロールしやすい点もそう。
そして、クライマックスは、そこからグッと開けていった時だ。リアサスペンションの動きとリアタイヤのトラクションがことの他わかりやすく、誰が操っても、車両が持つ旋回力をしぼり出せるはずだ。
この進入、旋回、立ち上がりのプロセスで感じられる高い一体感は、兄貴分のYZF-Rシリーズにひけを取るものではなく、スポーツライディングの醍醐味がしっかり注がれている。出力特性のしつけ方と、前後タイヤの接地感がきれいにバランスしている「YZF-R25」は、ワインディングでこそ、その魅力を堪能することができる。

■5つ星評価
パワーソース ★★★★
ハンドリング ★★★★
扱いやすさ ★★★
快適性 ★★★
オススメ度 ★★★★
伊丹孝裕|モーターサイクルジャーナリスト
1971年京都生まれ。1998年にネコ・パブリッシングへ入社。2005年、同社発刊の2輪専門誌『クラブマン』の編集長に就任し、2007年に退社。以後、フリーランスのライターとして、2輪と4輪媒体を中心に執筆を行っている。レーシングライダーとしても活動し、これまでマン島TTやパイクスピーク・インターナショナル・ヒルクライム、鈴鹿8時間耐久ロードレースといった国内外のレースに参戦。サーキット走行会や試乗会ではインストラクターも務めている。