スズキの原付二種スクーター『アドレス125』が新型となって登場した。
曲面と流麗なラインで織りなす洗練されたスタイリングに刷新されつつ、広々とした足元のスペースや平らで長いシートを従来型から踏襲。ハザードスイッチやフューエルリッドを新採用するなど、自慢のポイントがたっぷりとある。都内で開かれた発表会では開発陣が次々に登壇し、詳細を解説した。
「アドレス125」の先々代を愛用する筆者(青木タカオ)の個別取材にチーフエンジニアの田鍬洋介(たぐわようすけ)氏をはじめ、開発者の面々が応じてくれ、アップデートされた部分を深掘りしつつ教えてくれた。
◆従来型の不満点をすべて解消!

性能と価格、トータルバランスに優れる「アドレス125」を推すユーザーは少なくない。筆者もそのうちの一人だ。2018年に新車で購入して以来、ずっと乗り続けている。
“通勤快速”の異名を持つ原付2種スクーターを代表するモデルで、リアルに使ってみて満足度が非常に高い。それゆえに、新型が出るたびに「従来型の方がいい」と否定的な意見も耳にする。これはロングセラーモデルの宿命だろう。
筆者も2022年10月に国内導入された先代は、細かい点が気になった。丸みを帯びたオシャレな外観は羨ましい限りだが、街乗りで多用するフロントポケットが片側(左)にしかない、リヤキャリアを標準装備していない、燃料タンクキャップが剥き出しになっていて給油時にキャップの置き場所に困るなどだ。これらはオーナーならではの、とても些細なことなのかもしれない。
しかし、どうだ! 2025年9月10日に販売開始された新型は、これらすべてを解消してきたではないか!! まるで田鍬氏をはじめとするアドレス125開発チームに、筆者の胸の内を見透かされたかのように、先述した箇所を改良してきたから驚く。
◆上質で快適なスタンダードスクーター

「毎日使うスクーターだからこそ、流行に左右されないシンプルなデザインに」
通勤・通学・買い物など、毎日の生活を快適にするだけでなく、休日にも彩りを添えるのが「アドレス125」。「時を経てもかわらない、上質で快適なスタンダードスクーター」を開発コンセプトにしたと田鍬氏は教えてくれる。
開発チームを束ねたリーダーがスズキに入社したのは2005年で、最初は二輪小型エンジン設計に配属された。以降、日本、中国、欧州、アジアの小型二輪(原付2種~250cc)を担当し、2017年からはインド生産のスクーターの開発に携わってきた。まさにスペシャリストである。
「(新型は)ヨーロピアンスタイルを取り入れ、デザインを洗練したものとしました」と、胸を張る。ポイントは主に3つが挙げられる。

(1)アイコニック
フロントとリアには、U字型のデザインを取り入れ、一目でアドレスとわかる車体デザインにしている。
(2)アップグレード
個性や高級感を取り入れ、よりスタイリッシュで洗練された上質感を演出。前後LEDのレイアウトを見直し、ポジションとテールはU字型に発光するデザインを採用している。小型化されたマフラーはカバーも光らせ、上質感を向上している。
(3)フレンドリー
従来モデルよりも燃料タンクを拡大。容量を5→5.3リットルに増やし、4輪車のようなリッド付き開閉式のガソリン給油口を採用している。
◆高級感漂う立体エンブレムを採用

「上質感のある立体エンブレムを採用しました」と言うのは、デザインを担当した斉藤航平(さいとうこうへい)氏だ。“Address”のエンブレムがボディ左右に誇らしげに配置されている。
LEDヘッドライトには、クラシカルな雰囲気が漂うメッキ仕上げのヘッドライトリムが備わっていて、堂々たる顔つきになった。U字型に発光するポジションランプも備わり、上質感のあるフロントマスクとなっている。
このU字型の発光パターンはリヤのコンビネーションランプにも採用され、流れるようなボディラインに合わせて統一感が持たされているのだ。
◆実用速度域でより力強く!!

「最大トルク発生回転数を500rpm低下させ、トルクカーブの起伏がなだらかに。全域にわたってトルクアップし、スロットル操作の応答性を向上しています」と話すのは、エンジンを担当した山口純平(やまぐちじゅんぺい)氏。最大トルク10Nmは変わらないものの、発生回転数を5500→5000rpmに落としている。
最高出力は8.7ps/6750rpm→8.4ps/6500rpmと、数値的にはダウンだが、街乗りで多用する低中回転域を重視した出力特性を獲得。カムプロフィールやCVTの設定を見直し、エアクリーナーボックスの容量を約10%拡大した。
クランクケースをはじめ、エキゾーストパイプやマフラーも新設計となり、オールニューと言っていい力の入れようだ。
◆妥協を許さぬ新型開発!!

足つき性に優れることも実際にまたがって確かめた。イラストは身長170cmのライダーの場合で、片足を地面に下ろすと、カカトまで足の裏がしっかりと届く。
シート高は770mm。座面がフラットで着座ポイントの調整がしやすい。大きい人は後ろへ、小型な人は前へ。足元が真っ平で、ゆとりある乗車姿勢となるのはアドレス125の大きな魅力だ。
フレームも新作で「ねじり剛性を25%向上しています」と、車体およびテストライダーを担当した佐久間征耶(さくませいや)氏が明かす。

テスト走行は交通の流れの早い日本の幹線道路はもちろん、インドの未舗装路に至るまで徹底して行われた。そんななか「もっとこうしてほしい」など、佐久間氏からの指摘は「かなり厳しかった」と、開発チームのメンバーたちは振り返る。妥協が許されないニューモデルづくりであったのだ。
フロント12インチ、リヤ10インチの足まわりで、前後サスペンションのセッティングを最適化。リヤサスのピポット位置を後方かつ外側に移設したことが、燃料タンクやシート下スペースの容量拡大にも貢献している。
◆新装備が羨ましい!!

旧型のオーナーとして羨ましいのは、ハザードスイッチの新設。「日本だけでなく、海外のユーザーからも要望があった」と、田鍬氏は教えてくれた。
スマートなのは給油口で、開いたリッドの内側にキャップを収納できるようになっているのは秀逸としか言いようがない。メーターは指針式のアナログタイプ。燃料計などは埋め込まれた小型ディスプレイに表示する。
給電ポートとして重宝するUSBコネクターは普及率の高いAタイプ。コンビニフックを備えるなど、利便性が高くなければならないことをしっかり考慮している。

500ccペットボトルが入るフロントポケットを左右に配置しているのも嬉しい。すぐに取り出せる場所なので、利用頻度が高い収納スペースになる。シート下のトランクは容量が24.4リットルに拡大された。ヘルメットホルダーを2個備えるのは変わらず継続している。
トップケースを装着するのにも欠かせないリヤキャリアも標準装備している。タンデム時はグラブバーとしても機能する。
新作ポイントがたっぷりとあるにもかかわらず、価格は従来型から6000円アップの28万0500円に抑えた。生産国インドでは、なんと年間80万台も生産されるからこそ実現できる価格設定と言える。日本では5000台の販売を目指す。
