花王は11月12日、同社のテクノケミカル研究所が、様々な機能性を備えたパラフィンオイルを植物原料から開発することに成功したと発表した。
この成果は、石化由来が主流であったパラフィンオイルの原料に植物を利用するという新たな選択肢を示すものだ。
パラフィンオイルは炭化水素を主成分とする油で、炭素と水素のみで構成されていることから化学的に極めて安定した性質を持つ。そのため医薬品から工業用途に至るまで幅広く使用されており、用途に応じた様々な種類が開発されている。
こうしたパラフィンオイルの多くは石油精製もしくは石化原料を用いた化学合成により製造されており、植物原料を用いることは化学構造の制御や精製工程の複雑さから困難とされてきた。
花王は、アブラヤシの実から採れる固体油脂をオレフィンに変換し、そこから洗浄用の界面活性剤「バイオIOS」を製造する技術を確立している。今回はその技術を応用し、植物由来のオレフィンをパラフィンオイルの原料として利用できるか検討を行った。
中間原料であるオレフィンを単にパラフィンオイルへ変換するだけでは、引火点が低く流動性も悪いため実用的なパラフィンオイルとしての性能を満たせない。そのため、パラフィンオイルの分子構造を精密に設計することが必要だった。
花王は長年の界面活性剤研究で培った技術を活かして独自の触媒を開発。この触媒により、パラフィンオイルの炭素鎖の長さや形を自在に制御し、引火点や粘度、流動性のコントロールができるようになった。
さらに触媒によって変換プロセスも制御可能になったことで、成分のばらつきが大きい植物原料でも品質の安定化を実現した。
開発したパラフィンオイルは実用化に向けて有利となる多様な機能性を有することを確認した。
高引火点では、工業用オイルの一部は火災リスクが高く非危険物取扱施設では使用が制限されているが、本パラフィンオイルは引火点が250度以上と高く、特別な対策を必要とせず安全に取り扱うことができるため、データセンターの冷却液などにも応用可能である。
優れた粘度特性では、一般的なオイルは低温下で粘度が増して流動性が低下するのに対し、本パラフィンオイルは広い温度範囲にわたって低粘度を維持する。この特長は機械や自動車エンジンの潤滑油や冷却オイルとして用いた場合、ポンプへの負荷を軽減し、燃費やエネルギー効率の低下抑制に寄与する。
高潤滑性では、本パラフィンオイルは潤滑油として用いた場合、金属表面に強固な油膜を形成し高い潤滑性能を発揮する。この性能によって金属部品間の摩擦を減らし、部品の長寿命化やメンテナンス頻度の低減が期待できる。
花王は今回開発した環境負荷低減と機能性を両立した次世代のパラフィンオイルについて、データセンター向けの冷却液や潤滑油、プロセスオイルなどへの応用をめざしていく。また工業用途以外への応用の可能性も探索していく。




