xEV時代の“痒いところに手が届く”サプライチェーンとは、名古屋大・山本教授が長瀬産業の最新ソリューションを解説

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名古屋大学未来材料・システム研究所 山本真義教授に最新の「xEVソリューション」について解説いただいた
名古屋大学未来材料・システム研究所 山本真義教授に最新の「xEVソリューション」について解説いただいた全 32 枚

「オートモーティブワールド名古屋」では、「AVATR 12 PHEV」が分解展示されていた。中国製PHEVの分解展示は珍しいため、会場では多くの注目を集めていた。

EVやSDVといった車は、モーター、バッテリー、パワー半導体やそれらを制御するECU、熱交換システムなど、従来の車両にはない部品、コンポーネントが多用されている。サプライヤーや車両開発に携わっている専門家にとってなじみのない部品であっても、間近に見ることでサンプル製品やスペックシートを見る以上の情報を得ることができる。これが「分解展示」の人気の理由だ。

◆電動車の重要コンポーネントとソリューション

「オートモーティブワールド名古屋」に出展した長瀬産業のブース「オートモーティブワールド名古屋」に出展した長瀬産業のブース

今回、長瀬産業の協力の元、名古屋大学未来材料・システム研究所 山本真義教授を招き、中国製EVに使われているインバーターやバッテリーの分解展示からわかること、さらに長瀬産業が展示する最新のxEVソリューションについて解説していただいた。

長年自動車業界で部品や素材の供給を行っている長瀬産業。今回のオートモーティブワールド名古屋でも数多くの電動化ソリューション、最先端部品を出展し注目を集めた。

長瀬産業は、1832年の創業(天保3年!)から190年以上にわたり、化学品を核に事業を展開している老舗企業だ。現在では、商社機能、製造機能、研究開発機能を持ち、マテリアル、エレクトロニクス、高分子素材、半導体や自動車・輸送機械まで幅広い分野をカバーしている。世界25か国・地域に200以上に拠点を展開し、各国サプライヤーとの関係を生かした多様かつ強靭な調達力を持つのが強みだ。

「オートモーティブワールド名古屋」に出展した長瀬産業のブース「オートモーティブワールド名古屋」に出展した長瀬産業のブース

商社・製造・R&Dを統合的に組み合わせることで、川上から川下に至るサプライチェーン全体で、課題解決と新たな価値創造を実現できることが同社の特長である。その長瀬産業が注目しているのは、EVを筆頭とする電動車のソリューションだ。2015年には自動車の電動化に注力する営業部を設立、2024年にはソリューションブランド「NAGASE Mobility」を立ち上げ、電動化技術を含む未来のモビリティを支える技術、部品、材料に関連するソリューションの数々をグローバルに発信している。

電動車において重要なコンポーネントは、モーター、インバーター、DC/DCコンバーター、オンボードチャージャー(OBC)、バッテリー、熱マネジメントシステム、そして各種ECUとなる。ECUには、バッテリー管理システム(BMS)、インバーターやモーターの制御ECUなどがある。

これらの部品、コンポーネントについて、さっそく山本教授に解説していただく。

◆PHEVならでの特徴が随所にみられたAVATR12の分解展示

「AVATR12」のボンネット内をくまなくチェックする山本教授「AVATR12」のボンネット内をくまなくチェックする山本教授

AVATR12の分解展示がおこなわれたのは、長瀬産業と協力関係にあり、電動車両のコンサルティングやエンジニアリングサービスを提供するブルースカイテクノロジーのブース。車両本体とバッテリーを分解したエリアの他、インバーターやDC/DCコンバーターなど高圧モジュールのエリア、モーター、減速機などギアボックスといったモジュールごとに分かれ展示がおこなわれた。ギアボックスやモーター部品の一部はカットモデルとして切断した断面もわかるようになっていた。

山本教授(以下同)「まずインバーターのユニットですが、ケースがかなり薄型に作られていることがわかります。今回分解されたのはPHEVモデルで、フロントにエンジンを載せ、リアには独自のeアクスルが搭載される車です。トランクスペースなどを確保するため、モーターやインバーターなどアクスルをコンパクトかつ薄く作る必要があるからです。インバーターやeアクスルをコンパクトにする取り組みは各社が取り組んでいるところですが、4WD電動車のリアアクスルは特に薄く、いわゆる低背下する必要があります」

「その一方でコストを下げる必要もあります。インバーターはパワー半導体を使ってモーターを駆動する三相交流を生成しますが、薄く作りたい場合独自のパッケージが必要になります。中国ではインフィニオンなどの汎用パワー半導体部品を使うソリューションを多く見ます。薄くつくるには、これら半導体の実装方法やパッケージを工夫します。コンデンサーの薄型化も避けられない課題ですが、容量を確保するために高さを低くすると、どうしても面積が広くなりがちです」

「AVATR12」のインバーターの分解展示「AVATR12」のインバーターの分解展示

「インバーターの半導体モジュールで注目したのは、裏面の細かい突起(ピン)です。このピンは放熱のためのものですが、ここに冷却水の通路がくるのですが、楕円型のピンが一列ごとにずれて配置されています。水流と放熱効果を高めるための配置ですが、この複雑な形状を鍛造で作られているとのことです」

バッテリーの分解展示コーナーでは、セルがむき出しになったバッテリーパックに注目する。

「確認したところ、AVATR12に搭載されているバッテリーはLFPで、角型のセルが120個直列につなげています。容量は39kWhとなっています。このバッテリーパックはコストダウンが徹底していますね。LFPを採用しているのもそうですが、角形のセルは定置型蓄電池などにも利用される汎用バッテリーです。また、パックを構成するケースはアルミではなく鉄です。PHEVなのでバッテリー容量を抑えられることから、このような構成を選択したのでしょう。LFPは三元系よりエネルギー密度で劣り、鉄のケースはアルミより重くなりますが、どちらもコストが下げられます。バッテリーパックは、すべてのセルの状態を監視するため、センサー用の配線が必要なのですが、AVATR12ではフィルム形状のフレキシブルケーブルが使われていますね。ケーブル上にヒューズが配置されているのも特徴です」

「AVATR12」のバッテリーモジュール。「コストダウンが徹底している」と山本教授は分析する「AVATR12」のバッテリーモジュール。「コストダウンが徹底している」と山本教授は分析する

◆長瀬産業が提案する最新xEVソリューション

長瀬産業のブースでは、BYDのコンパクトEV『ATTO3』で使用されるインバーターや、部品内蔵基板、型内インテグレーション製造、高効率モーターコアなど、同社が取り扱う電動車向けソリューション部品を中心に、多岐にわたる最新xEVソリューションの展示がおこなわれていた。

「分解コーナーでは、インバーターの小型化やロープロファイル化のトレンドをみてもらいました。これに貢献するのが「インサート成形」という技術です。インバーターを構成するのは、IGBTやSiCのようなパワー半導体素子だけではありません。センサーや制御回路とそれらを実装する基板。モジュールとして一体成形する樹脂素材、ケースなどが必要です。基板は高周波、高電圧・大電流でも特性を維持する高い絶縁性や耐熱性などが求められます。

ここに展示されている成形モジュールは、かなり薄型に作られているのがわかります。水冷のためのパイプも一体化されています。驚いたのは電流センサーも一緒に成形されていたことです。通常センサーは別に取り付けられていることが多いのですが、一緒になっています」

インバーターの小型化に貢献するという「インサート成形」インバーターの小型化に貢献するという「インサート成形」

インバーターは、パワー半導体のスイッチング速度の向上や高効率化が求められている。ここで注目されている技術に部品内蔵基板という技術がある。パワーモジュールの高密度実装技術は、小型化に加え、低インダクタンスという特性にもつながる。インダクタンスとは、コイルに流れる電流が変化したときに電磁誘導によって逆起電力を生み、電流の変化に抵抗する性質のこと。

「インダクタンスが低いということは、高速でトランジスタ(半導体)をON/OFFするときの損失を抑え効率を上げることができます。実物をみてあらためてその小ささ、実装効率の良さを感じることができます。シュヴァイツァー社の部品内蔵基板『Smart p2 Pack』が48Vマイルドハイブリッド向けのパワーモジュールで既に量産されており、さらに同社では800Vソリューションも2026年の市場投入に向けて開発が進んでいるとのことで、さらなるインバーターの小型化が期待でき、非常に楽しみです。

長瀬産業ブースに展示された「部品内蔵基盤」長瀬産業ブースに展示された「部品内蔵基盤」

48Vは、パワートレインとしての応用は限られてきていますが、+48Vと-48Vを使って96V化する技術も研究されています。またSDV(ソフトウェアデファインドビークル)や自動運転車にとってもメリットが多いです。EVパワートレインでもそうですが、電圧を上げると電流を下げることができ、ハーネス類の軽量化につながります。400V、800Vと高圧電源があるなら、12Vにこだわる必要はなく、48Vを電装品の電源電圧とすれば、制御システムのアクチュエーターを効率よく動かすことができます」

バッテリーの安全性を支える新素材とモーターコア加工技術

続いて山本教授が注目したのは、バッテリーとモーターに関するソリューションだ。バッテリー関連の技術では、セルが異常発熱した際に隣接するセルへの熱の伝播を抑制する断熱材や、モジュールそのものの発火を防止するシートの提案を行っていた。モーターは、モーターコアを構成するプレートの加工、接合に関する技術だ。

名古屋大学未来材料・システム研究所 山本真義教授名古屋大学未来材料・システム研究所 山本真義教授

「バッテリー技術は、電極の素材や電解質などの研究開発が注目されますが、車載バッテリーとして利用するには、耐火性能や防湿性能なども求められます。このような新素材をパックの内部やセルやモジュールを保護するために使います。熱暴走してもセルやモジュール単位で発火を防ぐ素材、湿気を吸収してバッテリーの劣化や感電・ショートを防ぐ素材、などがその鍵を握っています。

モーター関連技術には、小型化や高効率化というトレンドもありますが、静粛性や低振動もニーズが高まっているところです。展示は、モーターコアを構成する素材の提案ですね。コイルが巻かれるモーターコアは薄いプレートを何枚も重ね合わせて作りますが、巻き線を通す穴、冷却用のオイルラインの穴などを確保するため、微細な加工技術と、プレートの接合技術が問われる領域です。

プレートの金型には高い精度が必要です。また接合は接着剤を使ったりレーザー溶接といった技術が使われます。インバーター(直流から交流波形を生成する)は変換効率95%、99%というユニットが作れますが、モーターの返還効率はまだまだ改善の余地があるので、このような研究が続けられています」

◆xEVのこれから、“痒いところに手が届く”サプライチェーンとは

BYDのEV「ATTO3」に搭載されているインバーターBYDのEV「ATTO3」に搭載されているインバーター

最後に山本教授に、今回の視察・分析の感想とともに今後のxEVソリューションの動向について聞いた。

「AVATR12では、後席スペース確保のため、インバーターがリアアクスルのロープロファイルになっていました。随所にPHEVならではの設計やこだわりが感じられました。また、近年のxEVは、動力性能や航続距離の追求から、居住空間の拡大や付加価値化にシフトしているように感じます。AWD化によってリア用のインバーターをフロント側に2つ並べて配置する例もあります。

ジャパンモビリティショーでは6輪タイプのミニバンコンセプトが披露されました。このコンセプトカーは後ろの4輪はキャビン空間を最大限にするため、極端な小径タイヤとなっています。もし後輪も駆動輪とするなら、アクスルやディファレンシャルギアのスペース確保、クリアランス確保も難しくなります。そうすると、インホイールモーターにするか、インホイールまでいかなくてもタイヤに近い位置に独立したモーターを配置する必要があります。

これは極端な例ですが、これからは『空間の確保』に対する需要がますます高まっていきます。荷室やキャビン空間を広げるため、低床・フルフラットフロアを実現するには、アクスルやドライブシャフトさえ邪魔になります。モーターもインバーターもデュアルからトリプル、クアッドに進化する可能性を考えています。モーターやインバーターなどを複数搭載することは、自動運転車にとっては、パワートレインの冗長構成になるという考え方もできます。

このようなニーズに応えるためには、さきほど紹介した部品内蔵基板の技術が生きてきます。パワーモジュールを小型化できると、モーターの上や下、横ではなく軸線の前後に円盤状で配置できるインバーターが実現可能になります。これは、ノイズ対策や低インダクタンスにも理にかなった配置です。このような新しい技術やソリューションを取り入れることで、xEVはまだまだ進化の余地があると、改めて認識しました」

xEV関連技術を中心に、さまざまな自動車向けソリューションを展開する長瀬産業xEV関連技術を中心に、さまざまな自動車向けソリューションを展開する長瀬産業

クルマづくりの根底が大きく変わりつつあるSDV・xEV時代。市場からの要求に対し、いかに速度感をもち、最適なソリューションを提供できるかがますます重要になる。

「サプライヤー同士が協力する、あるいは統合することによって部品単体ではなくシステム全体での設計ができるようになる。モーター側からもバッテリー側からも、あるいは半導体からも、メーカーや市場からの要求に対して、全方向でラインナップを揃えることで、システムとして小型化や薄型化に貢献することができます。ピンポイントで痒いところに手が届く、そういう展開をされているのが長瀬産業さんで、すごく期待しています」

長瀬産業の公式ウェブサイトはこちら

《中尾真二》

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