エンジンの性能をきちんと発揮するには「よい空気・よい圧縮・よい点火」が基本。その中でも点火は消耗品の影響を受けやすく、スパークプラグで体感を取り戻しやすい。
ガソリンエンジンは空気とガソリンを混ぜた混合気をシリンダー内に送り込み、プラグで点火して燃焼させてパワーを生み出す。直噴エンジンも空気を取り込んで圧縮し、そこへガソリンを噴射してプラグで点火する仕組みは同じだ。プラグが強い火花で点火できれば燃焼は安定し、狙い通りのパワーとレスポンスを引き出しやすい。
◆プラグは「ロングライフ=放置でOK」ではない
プラグは重要な存在だが、年々その重要性が意識されにくくなっている。昔は定期点検でプラグを外し、外側電極と内側電極のクリアランスを測定した。内側電極が減ってクリアランスが広がっていた場合、外側電極を叩いて曲げて適正値に戻すこともあった。
一方で近年のクルマは、説明書に「10万km近くプラグ無交換でOK」と書かれている例もある。ロングライフな白金プラグなどが使われ、交換サイクルが8万km前後のケースも多い。その結果「プラグはノーメンテでOK」と思うユーザーも増えた。
ただし、それは「8万kmになったら交換が必要」という意味でもある。そこまで性能が一切落ちないわけではない。オイル交換と同じで、指定が1万kmや1万5000kmでも早めに替えればフィーリングが良くなり静粛性も上がる。プラグも同様で、早めの交換はレスポンスや吹け上がりに効きやすい。とくにチューニング車はその差が出やすい。
◆ブーストアップ車は点火環境が過酷。プラグの負荷が一気に増える
ターボ車で多い手軽なチューニングがブーストアップだ。ターボチャージャーが生むブースト圧を純正値より高め、より多くの空気を押し込み、それに合わせて燃料噴射量と点火を最適化してパワーとトルクを上げる手法である。
一般的にはECUチューンでブースト圧を上げるが、GRヤリスやGRカローラでは圧力センサーに補正を加えるタイプのブーストアップも多い。ECUに入る前の信号を補正してブースト圧を上げる方式で、数万円から導入できる例もあり、30psアップ級の変化を狙えるケースもある。
ブーストアップすると燃焼室には高圧の空気が入り、燃料を噴射して燃焼させるため取り出せる力は増える。その一方で燃焼室内の条件は厳しくなり、プラグにかかる負担も増大する。
◆体感が戻ることもある。プラグ交換は「効く」メンテナンス
「プラグを替えてもプラシーボ効果では?」と思いがちだが、そうでもない。たとえば筆者のZC33S・スズキ『スイフトスポーツ』はトラストのハイフロータービンに交換した仕様で、出力は約200psという定番の内容だ。ブーストアップ比で20psほど上乗せされているが、ハイフロータービンなので極端な高出力仕様ではない。
それでもたいして気にせず6万kmほど走ったころ、最近どうも遅いと感じた。壊れているわけではないが加速のパンチが弱い。異音はなく燃費も悪化していない。エアクリーナーフィルターを替えても変化は薄い。そこでプラグを新品に交換すると、見違えるように加速が戻った。
気づかないうちにパワー感は落ちていた。純正プラグのままで距離的には「まだ交換不要」と言える範囲でも、チューニングによる負荷増で消耗は進む。結果として6万kmで限界を迎えていたというわけだ。
◆交換目安と熱価の考え方。番手上げは「とりあえず」でやらない
ブーストアップやタービン交換、NA車でもECUチューンを行っているなら、2万~3万kmごとにプラグ交換を入れておくのがオススメだ。
プラグ選びでよく出てくるのが熱価で、放熱性の違いを表す。高回転多用なら8番や9番、街乗り中心なら6番あたりという目安が語られることもある。ただし「とりあえず番手を上げる」はオススメできない。まずは純正番手でOK。レース用車両でもない限り、基本は純正番手を基準に考えたい。プロショップから推奨番手が出ているなら、それに合わせるのが確実だ。素人判断で番手を上げると、冷間時の始動性が悪化するなどデメリットも出る。
プラグ自体もイリジウムや白金など種類は多いが「これ一択」という答えはない。車種や仕様で相性があり、無電極タイプが向くケースもあれば、イリジウムがハマる場合もある。燃焼室内はデリケートだからこそ、最後はプロショップと相談して最適解を選びたい。




