【スズキ DR-Z4SM 試乗】手強すぎず、優しすぎない、スーパーモタードの新たなカタチ…伊丹孝裕

スズキ DR-Z4SM
スズキ DR-Z4SM全 26 枚

2025年10月にスズキから発売されたニューモデル『DR-Z4SM』に公道で試乗。エンジンも足まわりも車体も大きく進化した、その新しい乗り味をワインディングで堪能した。

【画像】スズキ DR-Z4SM

◆スーパーモタードと、ほどよい“緊張感”

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スーパーモタード系のモデルとは相性がよく、以前はハスクバーナ『701スーパーモト』を街乗りからツーリング、競技までフル活用。この数年の間で印象に残っているモデルを挙げろと言われると、ドゥカティ『ハイパーモタード950SP』や、同じくドゥカティの『ハイパーモタード698モノ』の名前がすぐに浮かぶ。

このカテゴリーのモデルは、なによりシートにまたがった時の乗車感がいい。身長174cmの自分の場合、足つきの多くはつま先立ちながら、硬めのシートにお尻を預け、視界が完全に開けた状態でハンドルに手を伸ばす時の感覚は乗馬的だ。これから特別な時間が始まる。そんな気分にひたれ、動き出す前から強い高揚感が得られる。

その意味で、厳しい足つきも、ことスーパーモタードに関しては、ほどよい緊張感として受け入れることができる。人馬一体の感覚はやすやすと与えられるものではなく、徐々に距離を詰め、馴染んでいくためにも多少の手強さはあっていい。

◆890mmのシート高と154kgの装備重量

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足まわりも他のカテゴリーとは様子が異なる。長いストロークを持つサスペンションと視点の高さによって相対的に姿勢変化が大きく、飛んだり跳ねたりしなくても挙動が3D的だ。スロットルをひねる、ブレーキを握るといった操作に車体がすぐさま、そして大きく反応。そのダイナミックな動きによって、手なずけ感がどんどん高まっていく。

新型DR-Z4SMもまた、こうしたスーパーモタードのイメージを裏切らない。好ましいのは、先に挙げたヨーロッパブランドのそれよりも少しコンパクトで軽量なところだ。890mmのシート高と154kgの装備重量は、手強さを感じさせるほどではなく、だからといって優し過ぎるわけでもない、ほどよいところに収められ、日本の道路環境でも持て余さない。

◆幅広いパワーとトルクバンドによる鋭いダッシュ力

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エンジンの始動から発進に至るプロセスにはなんの気構えも要さず、エンジンモードがA/B/Cの3パターン中のなんであれ、車体はフワッと軽く動き出す。Aの出力特性が最も鋭く、B、Cの順で穏やかさが増すものの、好みのモードが見つかれば、ほとんどの場面において、それ一択で済むはずだ。それぞれ変化はあれど、必要以上に刺激的になり過ぎることも、過度に緩慢過ぎることもなく、全域でよく躾られている。

398ccの水冷4サイクル単気筒は、38ps/8000rpmの最高出力を発揮する。スペックの基準がマルチシリンダーのスポーツバイクになっている人にとっては、「たったそれだけ?」という印象を抱いても不思議ではないが、ツキのよさと幅広いパワーとトルクバンドが「鋭い」と表現して差し支えないダッシュ力を披露。街乗りとワインディングで不足を感じる場面はまったくなかった。

スズキ DR-Z4SMスズキ DR-Z4SM

かつてのモデルと同様、ミッションが6段ではなく、5段が維持されたことに物足りなさを覚える人がいるかもしれない。今回、自動車専用道路を使う機会がなく、高速巡航時の快適性を報告できない点は申し訳ないのだが、従来モデルの印象や、かつて250ccのオフ車で超長距離の高速道路ツーリングをこなしていた経験と照らし合わせると、ネガティブには捉えていない。減速比やタイヤ外径から計算すると、トップギアで100km/h巡航した場合のエンジン回転数は、5900rpmといったところだ。

◆安定方向の味付けが生み出すコントローラブルなハンドリング

ハンドリングは安定方向の味つけが施されている。この手のモデルの場合、軽さとスリムさを活かした切れ味鋭いコーナリングを想像しがちだが、入力に対してスパッと寝るのではなく、前後足まわりからのしっかりとした手応えをともなって、車体はスーッとリーン。旋回するのに必要な最大バンク角までの到達時間を、決して早過ぎないテンポで楽しむことができる。

スズキ DR-Z4SMスズキ DR-Z4SM

もっとも、然るべきステージにおける進入スライドなど、意図的に不安定な状態に持ち込んだ時は、また違った世界があるのかもしれないが、公道におけるこの落ち着いたハンドリングは実にコントローラブルで、旋回力もそれに見合ったもの。コーナリングの軌跡はV字のようなタイトさではなく、U字のようなおおらかさがあり、コーナリングスピード全体を底上げしていくような走りが似合う。

したがって、シート前部に乗りながらイン側の足を出し、身体をアウト側にオフセットするようなライディングフォームではなく、リアタイヤにしっかり荷重を掛ける一般的なリーンウィズやハングオフのフォームの方が、一体感が高まる。

姿かたちはスーパーモタードのセオリーに則ったものながら、良質なスポーツシングルやスポーツネイキッドの要素を併せ持ったハンドリングマシンに仕上がっている。

スズキ DR-Z4SMスズキ DR-Z4SM

■5つ星評価
パワーソース ★★★★
ハンドリング ★★★★
扱いやすさ ★★★★
快適性 ★★★
オススメ度 ★★★★

伊丹孝裕|モーターサイクルジャーナリスト
1971年京都生まれ。1998年にネコ・パブリッシングへ入社。2005年、同社発刊の2輪専門誌『クラブマン』の編集長に就任し、2007年に退社。以後、フリーランスのライターとして、2輪と4輪媒体を中心に執筆を行っている。レーシングライダーとしても活動し、これまでマン島TTやパイクスピーク・インターナショナル・ヒルクライム、鈴鹿8時間耐久ロードレースといった国内外のレースに参戦。サーキット走行会や試乗会ではインストラクターも務めている。

《伊丹孝裕》

モーターサイクルジャーナリスト 伊丹孝裕

モーターサイクルジャーナリスト 1971年京都生まれ。1998年にネコ・パブリッシングへ入社。2005年、同社発刊の2輪専門誌『クラブマン』の編集長に就任し、2007年に退社。以後、フリーランスのライターとして、2輪と4輪媒体を中心に執筆を行っている。レーシングライダーとしても活動し、これまでマン島TTやパイクスピーク・インターナショナル・ヒルクライム、鈴鹿8時間耐久ロードレースといった国内外のレースに参戦。サーキット走行会や試乗会ではインストラクターも務めている。

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