スズキは、ネオレトロデザインが特徴の新型ストリートバイク『GSX-8T』と『GSX-8TT』を1月30日に発売した。これに合わせスズキはメディア向け説明会を開催。開発陣が新型「GSX-8T」と「GSX-8TT」の開発やデザインに込めた思いを語った。
【画像】スズキの新型ネオレトロバイク『GSX-8T』と『GSX-8TT』のデザイン
この日、両モデル計840台の年間販売計画に対し、すでに1000台を超える受注があったという人気ぶりが明らかになったが、ファンを惹きつけているのはやはりそのデザインにあるようだ。
◆デザイン主導の「ワクワクプロジェクト」
スズキ GSX-8T
新型「GSX-8T」と「GSX-8TT」は、スズキの過去の名車の個性的で魅力的な要素と現代的なデザインを融合させつつ、最新の技術やエンジン、車体を採用したネオレトロのストリートバイク。「質実剛健」や「機能美」といった言葉で形容されることの多いスズキ車のデザインに、新たな風を吹き込んだ意欲作だ。
スズキの考える「ネオレトロ」は、単に過去の名車を復刻するのではなく、スズキの名車のデザインをDNAとして継承しながらも、現代的な解釈や最新のテクノロジーを融合させ全く新しいモデルを生み出すことにあった。
デザインのコンセプトは「Timeless,Revival」。スズキのストリートファイター『GSX-8S』をベースにしながら、8Tは1960年代の名車「T500」にインスピレーションを受けたデザインに、8TTは1970年代から80年代のロードレーサーをイメージしたデザインを採用し、クラシカルながら時代を問わず受け入れられる=タイムレスなモデルに仕上げた。
2025年7月に突如としてワールドプレミアされ、「鈴鹿8耐」や「ジャパンモビリティショー2025」で日本公開されると、バイクファンからは「今までのスズキとは違う」「いい意味でスズキらしくない」「スズキからおしゃれなバイクが出た」など話題となった。なぜ、今までのスズキとは異なるデザインが今、登場したのか。
その背景にはスズキが新たに掲げた「ワクワクプロジェクト」があった。
スズキ GSX-8T/8TTはデザイン主導の「ワクワクプロジェクト」から生まれたというスズキの二輪デザインを取りまとめる古橋伸介さんは、「ワクワクプロジェクトというのは、デザイナーが自由な発想で、デザイン思考で物作りをしてみようというプロジェクト。そもそもは、経営層から『こんなものあったらいいな』というものを作ってみろと、そういう挑戦状をいただきまして。デザインサイドでかなりわがままを言わせてもらった」と明かす。
通常の開発プロセスとは異なるため、時間制限もなかった。「極端なことを言うと、ちょっとした合間合間に、ちょっと趣味のものを作っちゃおうみたいな、そんなノリだった。だから、デザインしてる時間は通常のものより長かったかもしれない」(古橋さん)
このプロジェクトが始まったのが4~5年前。その成果として世に送り出された第一弾が、今回発表された8Tと8TTだったというわけだ。
◆GSX-8Sや8Rの「さらに次」への挑戦
GSX-8Tの発想の原点となった1960年代の「T500」8T/8TTのデザイン開発プロジェクトとしては、スズキイタリアのデザインセンターからスタートした。通常のプロセスでは日本のデザインチームが主導して進めるが、GSX-8Sや8Rで見せた新時代のスズキ車の「さらに新しいカテゴリー」に挑戦するにあたり、「新たな風を吹き込む必要があった」(古橋さん)ことから、開発プロセスそのものを見直した。
「心をワクワクさせるデザイン」を探るため、イタリアのデザインチームをスズキ本社がある静岡県浜松市のスズキ歴史館に招き、スズキ100年の歴史を振り返った。そこで「デザイナー達が『これだ!』と叫んだのがT500だった」のだという。「T500のタイムレスな雰囲気を現代で再現できれば、初心者からベテランまでみんなワクワクするんじゃないかなと」(古橋さん)考え、モチーフに選んだ。
昨今主流となっているデジタル上でのデザインでは表現できないような、1960年代のバイクが持つ温かみや柔らかさ、感情に訴えかける造形を実現するため、「手作業のクラフトが大切だということで、粘土をいじっては削っては盛ったりという作業を繰り返した」。それによって、肉感的かつ堂々とした造形のタンクや、安定感のあるボディラインを際立たせるフレームカバーが生まれた。モチーフとなったT500とは全く違う造形ながら、ほのかな共通点も感じさせるものとなっている。
スズキ GSX-8Tのデザインスケッチまた、ヘッドライトの形状はレトロ感を醸し出す丸形だが、よく見ると下端が水平になっている。これは「馬蹄型」と呼ばれる形状で、T500をはじめ70年代頃までのスズキ車で採用されていたモチーフだった。また、8TTのヘッドライトカウルは、スズキ初の1000ccクラスのリッターバイク『GS1000S』にインスピレーションを受けた。こうした細かい部分までスズキのDNAが盛り込まれている。
「こだわりの造形ができたと自負している。実車を見て、触っていただければ」と古橋さんは話す。
ディティールで目を惹くのは、8T/8TTのアイコンとなっている円形の「8」エンブレムだ。見ての通りビリヤードのエイトボールをイメージしたもので、勝負を決める特別なボールであることから「ワクワクプロジェクトの勝負どころだということで、勝負球のエイトボールをアイコニックな形にデザインした」と説明した。
◆“おしゃれ”と言われることがなかったスズキのバイク
スズキ GSX-8T/8TT チーフエンジニアの加藤幸雄さん8T/8TTのチーフエンジニアである加藤幸雄さんはデザインの反響について、「ジャパンモビリティショー2025」の会場で説明員として来場者と接し、そこで「おしゃれだと言われた。これまでスズキ車でおしゃれと言われることがなかったので驚いた」という。
加藤さんは、これまでのスズキ車について「(スズキ車の良さは)乗らなければわからないとか、“鈴菌”(ファンの中でも特に熱狂的なファンを指す呼称)とか言われるのは……ちょっと悔しいなと思っていた。やはり今まではすごくエンジニアニング寄りだったのかなという気はしている。そこにデザインの魅力が加われば、もっと行けるかなというのは肌感覚としてはあった」という。
今回、デザインが評価されていることに対しては、「ネオレトロのアプローチは2つある」としながら、「ひとつはリバイバル。もうひとつが過去のDNAを持ってきつつ、新しいスタイルを提案するもの。過去のものをリバイバルしたものは、“おしゃれ”というよりは“カッコイイ”の方向が強いのでは。(8T/8TTは)新しいスタイリングとして提案したので、若い人から見ても受け入れられる、“おしゃれ”だという表現に繋がったんじゃないかと想像している」と分析する。
◆「人々が最も喜ぶデザインがしたい」
“Timeless,Revival”がデザインコンセプトだと語る古橋伸介さん2023年に登場した8Sを皮切りに、スズキ車のデザインは新たなステージに突入した。その源泉がワクワクプロジェクトであり、古橋さんが主導する新たな開発プロセスにあることは間違いない。
とすれば、8Sに始まる新世代シリーズから、これからのスズキの二輪デザインのテーマや哲学が見えてくるのではないか。古橋さんに問うと、
「そういう言葉が作れれば良いなとはいつも思っているが、まだない。ただ我々は市場においてはチャレンジャー。国や地域のマーケットに合わせて、その人たちが最も喜ぶデザインがしたいと考えている。これは二輪だけじゃなく四輪も一緒。我々は高級品を作っているわけではない。だからこそあえて言葉は作らずに、その場その時代にあった、お客様に寄り添ったデザインを(提供する)、というのがある意味でフィロソフィー(哲学)と言えるかもしれない」
と話した。まさにスズキがコーポーレートスローガンとして掲げる「By your side(あなたのそばに)」そのものだと言ってよいだろう。もともと走りの良さや機能性、コストパフォーマンスには一定以上の評価があるスズキ。そこに“ワクワクするデザイン”が加わることでどんな化学反応を起こすのか。これからのスズキのバイクに要注目だ。
スズキ GSX-8T/8TTのアイコンとなっている「エイトボール」



