3月17-18の2日間にわたり、神奈川県横須賀市の日産追浜試験場にあるテストコースGRANDRIVE(グランドライブ)にて、メディア向け「メーカー合同EV取材会」が開催された。
このイベントが開催された背景には、国内ブランドのEV・PHEVのラインナップは拡充しているものの、市場全体の普及率は依然として低いという課題がある。国産モデルの魅力を伝え、普及を加速させるべく、日産自動車が各メーカーに合同取材会を提案。その呼びかけに各社が賛同し、今回の開催が実現したものだ。またメディアにとっても、同一条件で各ブランドの車両を比較できる絶好の機会となった。
また今回、個人的な話で恐縮ではあるが、筆者の次期マイカー選びという視点でも興味津々で参加した。佐藤家は東京都郊外に在住し、中学生と小学生のムスメがいる4人家族。現在、日常の買い物や習い事の送り迎えのアシである軽EV、三菱『i-MiEV』と、家族全員での外出や、年3回の名古屋への帰省、年に数回のゴルフなど、長距離ドライブを担う日産『キックス』の2台体制であるが、どちらもそろそろ買い替えを考えている。
本稿は、試乗した各車の印象や運転した所感をお伝えするものだが、ファミリーカー選びという観点から、コスパも含めた考察も交じえながら進めていくことをご容赦いただきたい。以下、試乗した順番に各車を紹介する。
◆ベストなグレードはどれだ?「スズキ eビターラ」
スズキ eビターラ
スズキ『eビターラ』にはこれまで何度か試乗した経験があるが、街乗りレベルでもフルタイム電動四駆ならではの精緻な姿勢制御をオールウェイズ感じることができる一台であり、ちょっとした加速やカーブでも運転が楽しい。そして、全長4.3m前後のボディサイズにしては室内が広く、特に後席は、EVならではのホイールベースの長さのおかげが驚くほど広々としている。
eビターラは装備も充実している。シートヒーター・ステアリングヒーターはもちろん、レベル2の運転支援や全方位モニター、ワイヤレスCarPlay/AndroidAutoも全車標準装備で、コストパフォーマンスの高さは抜群である。またスズキは最新世代の「セーフティサポート」の出来がよく、長距離試乗をした際も、レーンキープ・アダプティブクルーズコントロールの振る舞いには信頼感があり、美点のひとつだ。
そして特筆すべきは、ドライバーモニタリングシステムも標準装備であること。これは長距離ドライブにおける大いなる安心感に繋がる。帰省ラッシュの渋滞を避けるための早朝や深夜の長距離ドライブ、あるいはゴルフの行き帰りは特に眠気との戦いになりやすいため、ぜひとも欲しい装備である。正直なところ、買い替えにおける最も有力な候補のひとつだ。
スズキ eビターラただし、グレード選びは非常に迷うところである。廉価グレード「X」と、今回試乗した「Z 4WD」の価格差は約100万円。確かに電動4WDの走り味は素晴らしいが、そもそもEVであるという時点でエンジン車よりもずっと走りの質が高く、2WDでもすでに90点の出来なのだ。100点は魅力的だが、90点でも十分と言える。
そして、eビターラの廉価グレード「X」は、航続距離が「Z 4WD」と比べると60kmほど短いこと以外には、ガラスルーフや8スピーカーのプレミアムオーディオの有無、シート表皮がレザー調かファブリックかといった違いがあるくらいで、安全装備に関してはフル装備と非常に良心的である。であれば、むしろXに50万円ほど追加して、航続距離が90kmも長く、バッテリーセルが多い分システム電圧が高いために急速充電も少々速い「Z 2WD」を選ぶのが、実用面でのベストな選択ではないかという気がしている。
◆サクラとの違いが悩ましい「ホンダ N-ONE e:」
ホンダ N-ONE e:セカンドカーであるi-MiEVの買い替え候補として、日産『サクラ』と比較検討している一台がホンダ『N-ONE e:』である。試乗したのは廉価グレードの「G」。
ミニマルでセンスのいいインテリアは個人的にとても好ましく、心地よい空間に仕上がっている。素材感は決して高級ではなく、ともするとチープさを感じる部分もあるのだが、割り切りがまた潔く、その意気や良し、といったところだ。
対するサクラは、逆に上手く高級感を演出しており、それでいてセンスよくまとめられているため、正直なところ非常に選び難い。私自身はN-ONE e:の清廉な雰囲気が気に入っているが、妻はサクラのほうを好むかもしれない。
もう一つの悩みどころは航続距離の違いだ。サクラは180km、N-ONE e:は295kmと、約1.5倍もの差がある。ただし、サクラの暖房は高効率なヒートポンプ式を採用しているのに対し、N-ONE e:は消費電力が大きいセラミックヒーターである。航続距離に悩まされることが多い冬場の実電費で比べれば、カタログ値ほどの差は開かないと思われる。
ホンダ N-ONE e:しかし、航続距離についてはもう一点考慮すべきことがある。「日常利用だから航続距離は少なくてもいい」というのは半分正解で半分は違う。問題は充電頻度なのだ。EVだからといって毎日律儀に充電プラグを挿すわけではなく、実際の運用では、電池が減ってきたら充電する、という使い方になる。つまり、航続距離が長ければそれだけ日々の充電の手間も減るということだ。この点においては明確にN-ONE e:に利があるはずだ。
さらに悩ましいのが装備と価格のバランスである。N-ONE e:のGグレードはスマホ利用を前提としており、車載モニターがない。妻が運転するにあたってバックモニターは必須であるため、ルームミラーに設置する後付けモニターなどを選ぶことになる。上級グレードの「L」を選べば最初からモニターは付くのだが、Gの270万円に対してLは320万円と、50万円も差があるのがどうにも引っかかる(もちろんその他の装備差もあるが)。この価格帯における50万円の差は、残価設定ローンを組んだとしてもそれなりの差になるはずなので、大きな考えどころである。
また、日産サクラとN-ONE e:の価格差は、廉価グレード同士の比較では10万円ほどサクラのほうが安いが、サクラはプロパイロットがオプション扱いになる点は要注意だ。
◆“Googleビルトイン”をじっくり試したい「日産 リーフ」
日産リーフeビターラと並んでファーストカーの有力な買い替え候補が日産『リーフ』である。SUV然としたeビターラと比べると、まず乗り込んだ時点から視線が低く、よりクロスオーバーであることを感じさせる。走り出すと、この新型リーフはかなり静粛性が高いうえに乗り心地もよく整えられており、高級車のような乗車体験が得られた。
また個人的に非常に興味があるのが、Googleビルトインである。ナビはGoogleマップがローカルにプリインストールされており、自分のGoogleアカウントでログインすれば、マップはもちろん、各種ストリーミングサービスやGoogleホームとの連携も可能だ。日頃からスマホやPCでGoogleのアプリを使い倒している自分としては、とても便利に使えるはず。Apple CarPlayやAndroid Autoのワイヤレス接続に対応したeビターラも確かに便利ではあるが、マイカーとしてGoogleビルトインのシームレスな快適さを日常的に体験してみたいという気持ちがある。
ただし後席に乗り込んでみると、広さは明らかにeビターラに軍配が上がる。リーフはフロアが若干高い印象を受けるほか、前席シートの下に足が入らないため、足さばきが少々窮屈に感じられた。大人4人が乗るのであれば、eビターラのほうが明らかに快適だ。長女の背丈は160cmを超えるまでになっており、この居住性の差をどう考えるかが焦点となる。
日産リーフの後席。大人の男性が乗るとあまり余裕がないまたグレード選択も悩ましい。試乗したのは「B7 G」だが、実際の購入候補として考えているのは「B7 X」または「B5 X」である。リーフには最廉価の「B5 S」というグレードも存在するが、こちらはGoogleビルトインが省かれているうえ、ヒートポンプヒーターや全方位モニターも非搭載となるため、長距離ドライブもこなすファミリーカーとしては選択肢から外れる。
リーフとeビターラを直接比べるなら、リーフのB5 XとeビターラのZ 2WDを比較するのが適切だろう。となると、車両本体価格はeビターラのほうが25万円安く、航続距離もeビターラのほうが50km長い。一方で、急速充電性能は(カタログ上は)リーフのほうが速いため、実運用をシミュレーションすると本当に甲乙つけがたい。
◆インテリアの上質さに惹かれる「マツダ CX-60 PHEV」
マツダ CX-60 PHEV プレミアムモダン(資料画像)以下の3台は、時間の都合上運転ができず、後席の同乗のみとなったため、簡単に後席インプレッションをまとめておく。
まずは、マツダ『CX-60 PHEV』だ。ディーゼルモデルのほうはたっぷりと試乗した経験があるが、PHEVは今回が初体験となる。ご存知の通り、ディーゼルモデルは3.3リットルターボの6気筒エンジンを搭載しており、重厚感とともに溢れ出すほどのトルクを発揮し、長距離クルージングはまさに快適至極なのだが、日常利用で街中を転がすのであれば、今回乗ったPHEVのほうが適していると感じた。EV航続距離も71km確保されており、より気軽に駆り出せるだろう。ディーゼルの重厚な高級感も捨てがたいが、PHEVのスムーズな走りも非常に魅力的だ。
マツダ CX-60 PHEV プレミアムモダン(資料画像)また、CX-60 PHEVのインテリアは上質かつセンスが良く、他のどのメーカーにもない素材感と色使いで、確かな個性がある。「上質であり、かつ個性がある」というのは決して簡単なことではない。このインテリアに囲まれるだけで気分が上がるというものだ。ただ後席の空間については、車格の割には広くはない。大人の男性が長距離乗って我慢を強いられるほどではないが、確たる余裕もないといった印象だ。
マイカーの候補になるかと言えば、650万円ほどの価格設定は、モノの価値としては明らかにコスパがいいと感じるものの、絶対額が大きいため、残念ながら我が家の予算からは外れる。
◆3列目シートを備える電動車、という個性「三菱 アウトランダーPHEV」
三菱アウトランダーPHEV続いては三菱『アウトランダーPHEV』。街中の走行はほぼモーターでこなし、高速域ではエンジンを直結して走行するという、ホンダのe:HEVの仕組みと似たハイブリッドシステムを持つが、こちらのほうが登場は早く、またプラグインであるという違いがある。
タンのレザーで囲まれた室内は、高級感があり、素材の質感や設えの良さを感じることができる。後席も車格にふさわしい広さが確保されており居心地がいい。また、アウトランダーは3列目シートを備えていることも大きな特徴だ。広さは必要最小限ではあるが、いざというときに子供の友人などを乗せられるのは心強いポイントである。ただ残念ながら、こちらも予算の問題(529万4300円~)から、候補からは外れる。
三菱アウトランダーPHEVの3列目◆トヨタならではの精度が光る「レクサス RZ550e」
レクサス RZ550e "F SPORT"トヨタ『bZ4X』やスバル『ソルテラ』と車体を共有しながら、レクサスが多岐にわたって手を加えて仕立て上げたEVクロスオーバーである。RZは、ステアバイワイヤや、それとともに実現したヨークステアリングによる操縦性が最大の特徴ではあるが、今回は時間切れで運転することができず、後席のみの印象にとどまる。
個人的には、現在買い替え候補として考えているbZ4Xの後席の居住性が気になっており、それをこのRZ550eでも確認したいという狙いがあった。実際に乗った印象としては、フロアの高さが若干気になったものの、前後方向の余裕は十分で、フラットフロアで足さばきのストレスも無く、上質な素材で設えのいいインテリアは非常に快適だ。これなら長女でも十分快適に過ごしてくれるのではないかと感じた。
レクサス RZ550e "F SPORT" 後席の様子。前後方向は余裕たっぷりもちろん、使われている素材はbZ4Xよりも高級であり、担当者の方の話によれば、静音性能にもレクサスならではの工夫が随所に凝らされているとのことで、明確な違いはあるはずだ。しかし、作り付けの精度の高さはトヨタならではの良さでもあるため、居住空間という点においてはbZ4Xと共通する部分も多いはずだ。
◆日本も個性的な電動車が選べる市場に
各車の航続距離と、補助金を考慮した実質負担額の比較表以上、我が家のファミリーカー買い替え候補という視点で、各車から感じた部分を記してきた。結論として、現実的な候補は、スズキ 「eビターラ Z 2WD」、日産「リーフ B5 X」、あるいは今回試乗していないものの、トヨタ「bZ4X G 2WD」の三つ巴となりそうだ。
bZ4Xの航続距離はこの3台の中では一番長く、eビターラよりもさらに24km長い。価格はリーフより高いとはいえ、わずか5万円の差なのでほぼ同額だ。また我が家の場合は東京都のEV補助金も考慮すると、eビターラに18万円ほど上乗せするだけでbZ4Xに手が届いてしまう計算になる。
そもそもこの2台は車格が違う。全長約4.3メートルのeビターラに対し、bZ4Xは約4.7メートルと一回り大きく、室内や荷室の余裕が違う。この差を考えると、bZ4Xのコスパが俄然光り始めるというものだ。
トヨタ『bZ4X』改良新型インバーターにSiCパワー半導体を採用したbZ4Xは、マイナーチェンジ前から実電費も大きく改善したと言う。登場から月日が経っているため、デビュー間もないeビターラと比べると新鮮味という点では一歩譲るものの、コストパフォーマンスという点では間違いなく魅力的だ。
この試乗会を経て、各車の電動車のバリエーションが広がり、選択肢に迷うほどの個性的なモデルが日本市場にも展開されていることを感じた次第だ。また、あらためてbZ4Xにも試乗してみたいところである。
日本メーカー各社の電動車が日産のテストコースに集合



