アドベンチャーバイクの代名詞、BMWのGSシリーズにまた新たな仲間が登場した。その名も『F 450 GS』。排気量420ccで最高出力48psは欧州だと日本で言うところの普通二輪免許にあたるA2ライセンスをメインターゲットに据えたモデルだ。
BMWとしては既にこのクラスに向けたモデルとして『G310GS』があるが、インドや東南アジア圏など新興国でのシェア拡大を狙ったモデルであり、足回りやエンジンフィールもそれなりだった。このF 450 GSでは、クランクの爆発タイミングが360度、180度、270度でもない“135度”という今までなかった独特の位相爆発のほか、自動遠心クラッチによる“ERC=イージーライドクラッチ”といった新要素も盛り込んできた完全新設計。足まわりはじめ各部に使用されているパーツのクオリティも高く、スタイルは『R1300GS』に通じるシルエットでまとめられ、走りの上でも見た目でもBMW GSシリーズとして相応な質感が与えられた。
私としては、このマシンには大きな期待を寄せていた。と言うのも、そもそも最近のビッグアドベンチャーは大きくなりすぎたと思っていたから。ちょっとした林道でも常に緊張感を持って突入していかざるを得ず、ひとつひとつのセクションが過度なチャレンジになってしまっていないだろうか。「巨大な乗り物を俺は乗りこなしたぜ」という満足感を得られる楽しみは否定しないものの、もっと日本人にあうサイズ+フラッグシップ並みの装備で林道を楽しめたらいいんじゃないかと思っていたが、F 450 GSは正にこの部分で、現実的なサイズ、BMW GSらしいクオリティが得られるマシンになっていのだ。
◆扱いやすさとチープ感の無さが同居する絶妙なサイズ感
BMW F 450 GS
今回BMWが各国メディアを試乗に呼んだのは地中海に浮かぶシチリア島。ここで市街地のオンロードからオフロードまで一通り走らせるという日程だ。
試乗車には主に2通りのバージョンが用意され、1台はおそらく日本でスタンダード扱いになる「EXCLUSIVE」と呼ばれるグレードにスポーツサスがプラスされた赤い車両。もう1台は「GS TROPHY」となるグレードにフラットシートやワイヤードスポークホイール、ブロックパターンタイヤといったオプションを装着した青×白の車両で、「イージーライドクラッチ」はこのGS TROPHYに標準装備されることとなる模様。オフロードセクションは、こちらの車両で試乗した。
それではライディングポジションから見ていこう。ホイールベースはG310Sの1420mmより45mm長い1465mmとなるが、R1300GSに比べるとはるかにコンパクト。扱いやすさとチープ感の無さが同居する絶妙なサイズ感。車体はそれなりの存在感を保ちつつも腿があたる部分はスリムに絞られてホールドしやすく、ハンドル幅も拳1個分外側という感じで広すぎないから、Uターンで腕が伸びきる感じも少ないのだ。
BMW F 450 GS
フラットシート仕様のBMW F 450 GS TROPHYシート高は845mmで身長167cmの私だと両足つま先がギリギリと言ったところ。ただ車重がG310GSからわずか3kg増の178kgに抑えられているため引き起こしは軽い。BMWとしては平均身長174cmのライダーを想定し設計したと言う。
ちなみにGS TROPHY車に装着されていたフラットシートの方だとシート高は20mm高くなり865mmとなるが、意外にもシート前方の絞り形状とクッション材質のおかげで足着きは標準シートと遜色ない。またスタンディングポジションでハンドルバーがちょっと低すぎると感じるが、20mmアップするハンドルポストもあり、これでスタンディングをはじめとした前後の動きやすさも相まって、私が思うオフロードでのベストポジションができあがる。
◆“135度爆発”のフィーリングが楽しい
BMW F 450 GS実際に走り出してみると楽しさは予想以上だった。まずエンジン、これまでの並列2気筒というと、その爆発タイミングは多様だ。鼓動感多めでバーチカルツインに代表される360度に始まり、高回転まで止めどなくスムーズに回る180度、そして近頃ほとんどのメーカーがVツインと同じ鼓動感を演出する270度を採用してきたが、このF 450 GSは特徴的な135度からの爆発を採用。その鼓動感は270度のそれに近い。
ただどこか180度爆発の、ギュンギュン回るようなエンジンとその鼓動感を取り混ぜたような感じがあり、走っているうちに音色が移り変わっていくようなフィーリングがある。トルクだけを重視するよりも、トルクと綺麗な高回転を混ぜ合わせた感を狙っているのかのようだ。やはりただのエントリーモデルではない。3000~5000rpmあたりの高速道路を使わない街乗り領域では270度と同様に鼓動感と共にツーリングを楽しむ感覚だ。
BMW F 450 GSちなみに120km/h以上でもパワー的には余裕で走れるのだが、6速で7000rpm以上となってくると、さすがに微振動は出始める。このあたりは48psA2ライセンス枠の宿命だろうか。
車体もエンジンに負けずしっかりしていた。街乗り・高速に次いでワインディングも、海外公道試乗特権でかなりいいペースで走ることとなったのだが、KYB製のスポーツサスの乗り心地が非常にいい。前後ともストローク感がかなりあるにも関わらず、特にリヤを受け持つダンパーがしっかりしたギャップを受け止め上質な乗り心地を提供してくれる。この排気量に対して1ランクか2ランク上の乗り心地で、トップグレードのGSから見劣りしない走りを感じさせる。そこに加え178kgとかなり抑えた車重なので、ビッグアドベンチャーと比べると気軽で軽快な走りが際立っていた。
◆「イージーライドクラッチ」がオフロードで性能を発揮
BMW F 450 GS TROPHYそしてオフロード性能。ここからF 450 GS TROPHY仕様+ワイヤードスポークホイール&ハードブロックパターンのメッツラー製カルー4をオプション装備した車両だ。雨が降った直後の超マディな泥んこセクションでもしっかりと路面を掴み、予想以上の性能を見せてくれた。
オフロードをガッチリ走るとなると前後ホイールはフロント21&リヤ18インチが欲しくなるのだが、TROPHY仕様でもフロント19インチ&リヤ17インチだ。そしてTROPHY仕様に標準装備されていたイージーライドクラッチのデキが予想以上によかった。2700rpmあたりで遠心クラッチを通じ駆動力が繋がるのだが、ゆっくり開けていけばゆっくり繋がり、ガバっと開ければ一気に繋がる。
オフロード走行ではフロントタイヤをリフトアップさせたり、リヤタイヤを故意に滑らせたくなるときがあるが、そんな芸当もこなしてくれる。大きめのギャップを超えたいとき、ちょっとだけフロントリフトさせたいときも、コツを覚える必要はあるもののエンジン回転を調整しながら上手く開けてやればこなしてくれる。
BMW F 450 GS TROPHYもちろん一番の利点は普段の街中ではストップ&ゴーの際にクラッチレバーをいちいち握る必要無しというイージーさだ。遠心クラッチということで舐めていたが、そのコントロール性はモーターアクチュエーターでもっと高度な制御を行っている他車の自動クラッチシステムとも遜色なく使えるものであった。420ccという排気量や48ps設定も遠心クラッチとのマッチングの良さに大きく役立っているのだろう。これがもっと大きい排気量になってしまうと、この相性は生まれてこないかもしれない。
なお、先に言ったようにイージーライドクラッチは2700rpm以上だと常時クラッチが繋がった状態となるため、走行中のギヤチェンジは双方向クイックシフターであるギアシフトアシスタントProでシフトチェンジするので、他の自動クラッチと同様の感覚で走れるから心配はいらない。さらにクラッチレバーが残っているから、鍛え抜いた自分の手動テクニックでエンジン回転を上げつつ半クラ操作することも可能。高いレベルの走りにも応えてくれるところが凄い。ただクラッチレバーが付いているため、日本のAT免許制度では乗れない。
◆「GS」の奥深さとファン層を大きく広げる一台
BMW F 450 GS最後に各種装備の充実ぶりも挙げておきたい。R1300GSのようなX形状に光るLEDヘッドライトに始まり、「ROAD」・「RAIN」・「ENDURO」そして本気走りの「ENDURO PRO」と揃った充実のライディングモードPro。ナビ表示にも対応したスマホ接続機能もある6.5インチの大画面フルカラーメーター、熱すぎるくらい強力なグリップヒーター。ABS Proとなるブレーキはフロントに贅沢なブレンボキャリパーを採用。このようにミドルサイズながらビッグアドベンチャーに迫るワンランク上の装備でライダーを楽しませてくれる。
BMWがライバルとして挙げていたのはKTMの『390アドベンチャーR』、中国CF MOTOの『450MT』、ホンダの『NX400』等で、いずれも日本では100万円をギリギリ切ってくる価格帯のモデルたち。F 450 GSの日本価格が未発表だが、EXCLUSIVEがこのあたりで勝負してくるという噂を信じるなら、まだGSの世界感を知らないファン層を増やしくれるだろう。
さらにアドベンチャー完成形として想定される「GS TROPHY」+ラリーシート&ワイヤードホイール仕様が出てくると、これまでのGSユーザーでさえ虜にしてしまう。日本での販売は秋頃になってしまうかとおもうが、BMW GSシリーズの奥深さとファン層を間違いなく大きく広げる一台となっていた。
丸山浩|プロレーサー、テストライダー・ドライバー
1988年から2輪専門誌のテスターとして活動する傍ら、国際A級ライダーとして全日本ロード、鈴鹿8耐などに参戦。97年より4輪レースシーンにもチャレンジ。スーパー耐久シリーズで優勝を収めるなど、現在でも2輪4輪レースに参戦し続けている。また同時にサーキット走行会やレースイベントをプロデュース。地上波で放送された「MOTOR STATION TV」の放送製作を皮切りに、ビデオ、DVD、BS放送、そして現在はYouTubeでコンテンツを制作、放映している。また自ら興したレースメンテナンス会社、株式会社WITH MEの現会長として、自社製品、販売車両のテストライド、ドライブを日々行っている。身長は168cm。




