ブリヂストンと滋賀県東近江市は7月7日、空気充填が不要な次世代タイヤ『AirFree』を、同市の自動運転グリーンスローモビリティ「奥永源寺けい流カー」に導入すると発表した。
運行開始は7月8日。自治体が運営する定常運行サービスでAirFreeが採用されるのは全国初となる。
◆パンクしない次世代タイヤ AirFree が全国初の社会実装へ
出発を前に行われたテープカットの模様
AirFreeはブリヂストンが長年にわたって開発を進めてきた次世代タイヤだ。タイヤ内部に空気を充填する代わりに、スポーク状の支持構造で荷重を支える独自構造を採用。パンクによって走行不能になる心配がないため、空気圧管理や日常点検の負担を軽減できるのが大きな特徴である。
現時点では、グリーンスローモビリティや産業車両など比較的低速で運行し、運行を止めないことが重視されるモビリティでメリットを発揮しやすい技術として実用化が進められている。
これまでAirFreeはモビリティショーや技術展示会で次世代タイヤとして紹介される一方、全国各地で実証実験も重ねられてきた。なかでもブリヂストン創業の地である福岡県久留米市と東京都杉並区では、グリーンスローモビリティを用いた実証運行を実施。今回、東近江市に採用されたAirFreeは、久留米市および杉並区で実証実験に使用されたものと同仕様で、各地で蓄積した実証データをもとに、いよいよ通常運行による社会実装へと発展した。
なお富山市でもAirFreeを用いた実証実験が行われているが、こちらは車両の種類が異なるため、装着されているAirFreeの仕様も久留米市・杉並区・東近江市で使用されているものとは異なる。
◆高齢化が進む奥永源寺地区の地域交通を支える
市道を走る「奥永源寺けい流カー」。道路上の黒い線が自動運転を制御するために敷設された電磁誘導線導入先となる奥永源寺地区は、高齢化率が60%を超える中山間地域で、地域住民の移動手段の確保が大きな課題となっている。東近江市では国土交通省などの支援を受けながら、自動運転グリーンスローモビリティ「奥永源寺けい流カー」の運行を進めてきた。
「奥永源寺けい流カー」の自動運転は、道路に敷設された電磁誘導線を車両側のセンサーで検知し、その誘導に従って走行する方式を採用している。カメラやLiDARなどを用いて周囲の状況を認識しながら走行する自律走行型とは異なるが、あらかじめ設定したルートを高い精度で走行できるため、地域交通のような定路線運行との相性が良いシステムだ。
自動運転というとAIやセンサー、カメラなどの先進技術に注目が集まりがちだ。しかし実際の運行現場では、毎日止まることなく走り続けられるかがサービス品質を左右する。タイヤは決して目立つ部品ではないが、その信頼性は地域交通を支える重要な要素である。
AirFreeはパンクによる運休リスクを低減できるだけでなく、空気圧点検や補充といった日常の保守作業も不要になる。運行管理者の負担軽減はもちろん、整備スタッフの確保が難しい地方では、こうした保守性の高さが大きなメリットとなる。自動運転技術と次世代タイヤは異なる分野の技術ではあるが、運行を止めないという共通の目的に向けて互いを補完する関係にあると言える。
◆静粛性や安心感にも高評価
ブリヂストンの空気不要タイヤ「AirFree」全国初の社会実装へ、東近江市の自動運転車両に採用発表会では、実際にAirFreeを装着した車両を体験した関係者からも、その効果を実感する声が聞かれた。
普段、道の駅「奥永源寺渓流の里」で「奥永源寺けい流カー」の案内役を務める吉澤佳世子さんは、「とても静かで、風を感じられるのがよかったです。これならお客さんにも楽しんでいただけるはずです。自動運転に加えて、空気のいらないタイヤとなったことで、さらに話題性が上がりますね」と笑顔で話した。
一方、運転を担当した仲谷正敏さんは、「空気入りタイヤのときよりも警告灯が点灯する回数が大幅に減っています。警告灯が点灯している状態では自動運転にならないので、AirFreeのほうがずっと安心できます。乗っていても振動や騒音が少なく、安心感がさらに高まります」と日常の運行を担う立場ならではの評価を語った。
利用者が感じる静粛性や乗り心地だけでなく、運行を担うスタッフからも保守性や運用面で高い評価が得られたことは、AirFreeの社会実装に向けた大きな成果と言えるだろう。
主催者挨拶を行う東近江市長 小椋正清氏東近江市の小椋正清市長は、「地域住民や来訪者の安全・安心な移動を支えるとともに、中山間地域における持続可能な地域公共交通の実現につながることを期待している」とコメントした。
ブリヂストン 常務役員 BSJPタイヤ販売事業管掌兼ブリヂストンタイヤソリューション主催者挨拶を行うジャパン株式会社 代表取締役社長 蓮沼 利幸氏またブリヂストン常務役員 BSJPタイヤ販売事業管掌の蓮沼利幸氏は、「東近江市との連携協定締結以降、各自治体で実証を重ねてきたAirFreeが、全国初の社会実装という大きな一歩を踏み出した。地域交通の維持・発展に貢献できることを大変うれしく思う」と述べている。
◆自動運転と AirFree が示す地域交通の可能性
国道部分は特別に許可された歩道を走行する筆者はこれまでAirFreeを装着した車両に何度も試乗してきたが、そのたびに好印象を受けている。今回初めて自動運転グリーンスローモビリティとの組み合わせを体験したが、その印象は変わらなかった。乗り心地や静粛性は自然で、空気の入っていないタイヤであることを意識させない完成度に仕上がっている。
現在「奥永源寺けい流カー」の利用目的は観光が中心となっている。しかし、電磁誘導線方式による自動運転とAirFreeを組み合わせたこのシステムは、人口減少や高齢化が進む地域において、駅や道の駅と集落を結ぶラストワンマイルを支える移動手段として十分な可能性を秘めている。
ブリヂストンの空気不要タイヤ「AirFree」全国初の社会実装へ、東近江市の自動運転車両に採用派手さはないものの、地域交通を支える技術に求められるのは、毎日当たり前に走り続けられることである。AirFreeと自動運転を組み合わせた今回の取り組みは、実証実験を重ねてきた技術が、いよいよ社会実装という新たなステージへ進んだことを示す象徴的な事例と言えるだろう。
「奥永源寺けい流カー」の前で握手を交わす小椋正清市長(右)とブリヂストンの蓮沼 利幸氏(左)東近江市での運行が今後どのような実績を積み重ねるのか。そしてその成果が、同様の課題を抱える全国の地域交通へどのように広がっていくのか。AirFreeはパンクしないタイヤという枠を超え、地域交通を支えるインフラ技術として新たな価値を示し始めている。




