マツダのラージクラスSUV『CX-80』マイルドハイブリッド、および非ハイブリッドの計900kmロードテスト。前編『【マツダ CX-80 900km試乗】このエンジンの存在感の前では他の美点も霞む』では、直列6気筒ディーゼル+8速ATのパワートレインについて述べた。後編ではシャシー性能から述べていきたい。
◆マツダ好きなら納得の人馬一体感
CX-80はマツダが「ラージ商品群」と称する後輪駆動プラットフォーム。基本的にはミッドサイズの『CX-60』のホイールベース部を250mmストレッチしたような構成で、ホイールベースを除くと前ダブルウィッシュボーン、後マルチリンクというサスペンション形式、前1640/後1645mmのワイドトレッドなど多くの数値が踏襲されている。
一度の行程が1000km超という長距離テストのように多様な道を走れたわけではないが、高速道路2、短い山岳路を含む郊外路4、市街地4、全線ドライという2回のドライブに限った印象では、敏捷性については3120mmというウルトラロングホイールベース、ハイブリッド版の車検証車両重量が2120kgなどの諸元のわりには高く、マツダが標榜する“人馬一体感”は体現されているように思われた。半面EセグメントSUVらしい重厚なテイストは希薄で、ハイクラスモデルからの顧客の誘引力という観点ではそこが弱点と言えた。
ホイールベースをCX-60比で250mm延長しているが、間延び感はない
まずは操縦性だが、徹底した応答性志向。前輪のロードホールディングは大変良好で、ステアリングを切り増すのにきっちり比例してロール角が増えていくというチューニングはハイレベルだった。後サスペンションは乗り心地を改善するためCX-60に比べて柔らかめにセッティングしたそうだが、ステアリング操作→前サスペンションのロール→リアサスペンションに横Gがかかるという一連の流れはとてもスムーズで、コーナリングやレーンチェンジ時も反応の遅れは少なかった。
CX-80のAWD(4輪駆動)システムは後輪駆動を基本とし、適宜前輪に駆動力を配分するというアクティブトルクスプリット式、シャシーチューニングとそれの合わせ技で、パワードライブは結構気持ちいい。旋回挙動の途中でスロットルを踏み増すと弱いアンダーステアを保ったまま重量級の車体がロールを伴いながらドーンとコーナー出口に向かうというフィールは、マツダのテイストを好むユーザーなら好感を持つだろう。
◆EセグメントSUVに期待する走りとは
235/50R20のタイヤサイズは全グレード共通。写真はマイルドハイブリッドのトーヨー「プロクセススポーツ」半面、EセグメントSUVらしいどっしりとした重厚感があるかというと、そこは希薄。微小な入力への応答性を重要視しすぎたのか、高速巡航ではちょっとチョロチョロする傾向があった。ワダチやアンジュレーション(路面のうねり)への耐性もこのクラスとしては低めで、直進時に片輪に大きめの入力があると左右に大きく揺れ、それが鼻先の向きを変えるヨーの発生につながっていた。路面の荒れや水たまりなどの障害をこともなげに踏み越えて悠然とクルーズするというキャラクターはない。
それらの特質は乗り心地、静粛性にも影響を与えていた。舗装面の綺麗な路線ではさすがEセグメントSUVと言うべき滑らかなクルーズフィールで静粛性も高いのだが、路面が荒れてくるとそこからの落差が大きめ。路盤の継ぎ目やアンジュレーションを通過する時にバンピング(車体の上下方向の揺れ)が発生しやすく、EセグメントSUVに期待するようなフラット感はなかった。
また後サスペンションを柔らかくした効能は限定的で、ジョイント部や舗装の補修箇所など角の立った入力ではガチンという突き上げが強めに出た。ザラ目の強い舗装面では車体の微妙な共振を伴ったゴロゴロ感やタイヤの発するパターンノイズの遮断、抑制もあまり上手いとは言えなかった。
マツダ CX-80 XD-HYBRID ドライブエディション ナッパレザーパッケージ別に絶対性能が悪いというわけではない。これよりもっと雑な味付けのクルマは販売好調なモデルも含めてたくさんある。が、CX-80には他銘柄、それもプレミアムセグメントSUVのユーザーをマツダに吸引するという使命がある。それを考えると、それらとの落差を明瞭に感じさせてしまうのは好ましくない。
ベースコストがまったく異なるのだから同じような性能を持たせるというのはハナから無理があるが、ラージクラスSUVはこうでなくちゃというユーザーの期待から乖離すると、取り込めるものも取り込めなくなってしまう。シャシー自体は十分頑強に作られているようなので、さらなる改良に期待したい。
◆上質なインテリアにマツダの執念
上級グレードのような華美な装飾はないが造形レベルが高く、差し色の配色も洒落たものだった全長5m級に3列シートを配するというパッケージングのCX-80。シートレイアウトは2-2-2の6人乗りと2-3-2の7人乗りの2種類が用意されており、ロードテスト車はマイルドハイブリッド、非ハイブリッドとも6人乗りだった。
1列目から順に述べると、まず前席の居住感は十分に高いものがあった。運転席と助手席を幅広のコンソールで完全にセパレートするといういかにも大型SUVっぽい演出がなされているため、横方向の余裕はそれほど大きなものではないが、横Gがかかったときにシートバックだけでなくドライバーを囲む様々な部位が身体のサポート役を果たすというのはいかにもマツダらしい空間設計で悪くない。
ダッシュボードのデザインもマツダらしい、色気のあるものだった。素材自体はそれほど高級というわけではないのだが、エッジを明瞭に引きながらも角を意識させないダッシュボードのカービング、樹脂加飾パーツの複雑な3D造形、レザーステアリングのタッチ、スイッチ類の形状や操作感など、細部に至るまで緻密に作り込まれ、それが上質感を醸しているという印象だった。
プレミアムモダン内装はMHEVとPHEVで選択可能。色合い、感触とも非常に気持ちの良いインテリアだテスト車両はマイルドハイブリッド版が「ドライブエディション ナッパレザーパッケージ」、非ハイブリッド版がマイナーチェンジ後の「ドライブエディション」に相当する「Lパッケージ」と、いずれも内装グレードとしては下位だったが、それでも十分な満足度を得られるであろうデザイン、質感だった。とくに前者はシートやダッシュボードのステッチが差し色となっており、ちょっとした洒落感も帯びていた。安価なグレードを選んだ顧客の気分を盛り下がらせないようにという執念は大したものである。
6人乗りモデルの2列目は左右独立型のキャプテンシート。空間的な余裕は足元、頭上ともたっぷりで、居住性そのものには不満はないだろう。ただ、キャプテンシートの場合、シートの横幅や肘掛の厚みはトヨタ自動車『アルファード』はじめ3ナンバーミニバンに比べると貧相。キャビンが上方に向けて絞り込まれるSUVの場合、側壁が切り立ったミニバンに比べてシートを車体中央部に寄せて配置する必要がある。3列目シートへのウォークスルーを考えるとこうなるのは致し方ないところではある。
◆3列目シートと荷室スペースは
3列目シート。マツダは寸法的にはCX-8より広いというが、居住感は大幅に落ち、常用には向いていない3列目シートは狭く、2列目シートを前に寄せたとしても大人が長時間乗るのは非現実的に思えた。マツダは足元空間は前型の『CX-8』より広くなったと主張しているが、実用性は大人がナチュラルに座れる最小限のスペースがあったCX-8のほうが上だ。CX-80の3列目シートのネックはヒップポイントから床までの距離が近すぎて体育座りのような姿勢を強制されることと、2列目シート下につま先がほとんど入らないこと。これではせっかくの膝元空間の拡大も活きない。
3列目シートが常用に耐えないとなると、CX-80の6人乗りは実質4人乗りとなってしまうのが難点となる。
4人までしか乗らないというユーザーはそれで十分だが、5名乗車もあり得るという場合は7人乗りを選び、普段は3列目シートを畳んで広大な荷室を持つ5人乗りとして使用するのが最も合理的な選択といえる。ただ、7人乗りは見目麗しい内装の「プレミアムスポーツ」「プレミアムモダン」では選択できない。このあたり、商品企画が若干ちぐはぐという感を受けた。
荷室は3列シートを畳めば広大で、長期ヴァカンスの荷物や大がかりなバーベキューセット、登山用具や釣り用具など、何でも山積みできそうだった。一方、3列目シートを使う場合はかなり狭い。VDA方式による容量は258リットルとそこまで絶望的な数値ではないが、横幅はあるものの高さと奥行きが限られているため、使い勝手はあまり良さそうではなかった。やはりステーションワゴン的な使い方が似合っていると言えよう。
ラゲッジルーム。3列目シートを使用する場合は手荷物置き場くらい◆ADAS、インフォテイメントシステム
マツダのラージ商品群のADAS(先進運転支援システム)は従来型から大幅な拡充が図られている。
速度標識連動型クルーズコントロール、ドライバーが万が一疾患などによって気を失ったさい自動的に路肩に停止して緊急通報を行うというシステムなども実用化されている。これらはマツダのオンラインナビ用のSDカードを挿入することでアクティベートされるとのことなので、ロードテスト車にも実装されていたということになる。ただし隣の車線への移動を半自動で行うアクティブレーンチェンジなどセミ自動運転的な機能はなく、あくまで運転支援の領域にとどまる。
実際に使ってみたところ、性能・機能的にはごく標準的なADASという印象。先行車追従ルーズコントロールとレーンキープを統合制御するクルージング&トラフィックサポート(CTS)は最近のクルマによくある強固に車線をキープするという感じではなく、あくまで車線逸脱のリスク回避をアシストするという作動だった。筆者は普段は長距離であってもクルーズコントロールすら使わず走るクチなので、これだけの機能があれば十分と考えるが、もっと高度な制御を求めることの多いプレミアムセグメントのユーザーにとっては不満が残るかもしれない。
インフォテイメントシステムはモニターのサイズなどはマイナーチェンジ前後で変わらないが、マイナーチェンジを機に米AmazonのボイスコマンドAlexaが実装された。マツダに限らず自動車メーカーが自分で開発した音声認識やそれを用いたコマンド入力は、到底使い物にならないというものが大半だ。それとは異次元というくらい認識精度が高く、AIによる文脈判定もやってくれるAlexaがネイティブで使えるようになったのは、先進技術好きでなくとも人口の大多数を占めるスマホユーザーにとっては朗報だろう。
◆まとめ
マツダ CX-80 XD-HYBRID ドライブエディション ナッパレザーパッケージエンジンフィール、燃費、内外装のデザインや質感といった美点とEセグメントSUVとしてはもう一息の動的質感やパッケージングのまずさといった欠点が共存するCX-80だが、6発ディーゼルエンジン車に競合モデルの半額で乗れるというバリューは鉄板。BMW『X5 40d』ほど爆速でなくともEセグメントの大排気量車の豊かなエネルギー感を味わいたいというユーザーにとっては格好の選択肢であることは間違いない。600万円前後のクルマを購入する経済力があるエンジン好きの人にはぜひ一度試乗してみていただきたいところだ。
さて、CX-80のどのグレードを選ぶかだが、搭載エンジンで一番おススメなのは非ハイブリッドの「XD」。パワーはマイルドハイブリッドより低いが、エンジンフィールはシリーズ全体の中で最も素晴らしいからだ。市街地走行が多く、そこでの燃費低下を嫌うのであればマイルドハイブリッド。PHEVはCX-60の経験からオンロードで40~50km程度の航続を期待できるがマイルドハイブリッド+80万円と高価なのがネック。チョイノリが多くEVフィールを味わいたいというユーザー限定だろう。
直列6気筒車のオーナメントはマイルドハイブリッド、非ハイブリッド共通次にライフスタイルへの適合性だが、3列シートをフルに常用するというユーザーにはおススメできない。本文でも言及したように4人までしか乗らないという人であればナイスな加飾を持つ6人乗りオンリーの上級グレード「プレミアムスポーツ」「プレミアムモダン」をチョイスしてもいいと思う。
5人乗ることがあるというユーザーは7人乗りの3列目シートを折り畳み、2列シートのラージステーションワゴンに見立てて使うのが一番使いやすそう。その場合、グレードは自動的に「ドライブエディション」「ドライブエディション ナッパレザーパッケージ」に限定されてしまうが、これでも十分に上級感を得られるし、ナッパレザーパッケージでも上位グレードとの価格差は50万円と結構大きいので、そのぶんを他の好きなカスタマイズに流用できると思えば結構ありだろう。
オプションはお好みだが、オンラインナビや緊急停止装置をアクティベートするSDカード(8万8000円)はとりあえずつけたい。メーカーオプションではパノラマサンルーフが12万1000円と開口面積の広さのわりにかなりのお買い得価格。これがあるとプレミアムEセグメントSUVらしさが倍増するのでおススメ。XDの場合は12スピーカーのBOSEサウンドシステムとのセットオプションになるが、それでも20万3500円という美味しい価格設定だ。
オプションのグラストップはスライディング開閉機構付き。オプション価格が安価なのでこれはつけたい



