BYDという中国のブランドが、日本市場で乗用車の販売を開始してから3年半が経つ。今や軽自動車までラインナップに揃える、多彩な車種を販売している。
これまで、現行BYDが販売するすべてのモデルには一通り試乗した。最新では業界の注目を独り占めしている感のある軽自動車、『ラッコ』にも乗った。結論から言って、BYDの何が優れているかがおぼろげながら見えた気がする。
一番感じたことは、電気の制御がうまいことだ。つまり、エネルギーマネージメントである。彼らは元来電池メーカーでスタートした。以来30年ちょっとで、世界有数の自動車メーカーになった。そのスピードは驚嘆に値する。まぁ、時代がEVへ突き進んだことも大きな要因だが、とにかく電池メーカーとして、そして次はそれを操るメーカーとしての躍進が、推進力だといっても過言ではない。
◆BYD車を支える独自のブレードバッテリー
BYD シーライオン6 AWD
BYD各モデルが搭載しているバッテリーは、リン酸鉄を正極に使用したバッテリーである。このブレードバッテリーと呼ばれる独特なものと、それを格納するパックに実は大きな特徴がある。少し長くなるがこの部分について説明したい。
ブレードとはその名の通り、刃物のように長尺な形状からその名がついた。従来のバッテリーシステムでは、まずバッテリーセルをバッテリーモジュールに組み上げ、その後、そのバッテリーモジュールをバッテリーシステムに組み込み、階層的に管理する。バッテリーモジュールは、バッテリーセルを支持・固定・保護する役割を担う。そしてバッテリーシステムは、バッテリーモジュールを支持・固定・保護する役割を果たす。これが従来一般的なバッテリーシステムなのだが、ブレードバッテリーの場合は、間にあるモジュール接続工程を省いて、セルをバッテリーシステムに直接組み込むことで、重量とコストを大きく減らしているのだ。
しかもバッテリーセルは、構造用接着剤を用いて2枚のアルミ板の間に固定されており、セル自体が構造部材として機能することで、システム全体の強度を高める構造を持っている。結果として、バッテリーパックの上下ケースと、バッテリーセルを強固に結合させることで、体積エネルギー密度50%も向上させている(BYD調べ)。だから、リン酸鉄でも三元系と遜色ない性能を確保していると言うわけである。
◆トヨタ車にも採用される信頼性
ブレードバッテリーブレードバッテリーは当然水冷式。バッテリーセルの上部に配置されているのだが、同時にセル間には熱伝導層が設けられていて、この構成による熱交換面積は、従来の角型バッテリーセルに比べて格段に広く、それゆえ熱管理が行き届き、熱暴走をおこしにくい構造とされているのである。
バッテリー自体の構造にも特徴がある。従来の角型セルの寸法は、長さ148mm、厚さ79mm、高さ97mmだ。見た目はレンガのような形状をしている。これに対しブレードセルの寸法は、長さ960mm、厚さ13.5mm、高さ90mmで、内部構造は積層型である(シーライオン6の場合)。以上のような理由から、リン酸鉄の欠点である、密度の低さを補い、構造的にも強化されたバッテリーシステムが完成したということである。また信頼性の高さという点では、トヨタがBYDと共同開発をしたモデル『bZ3X』にもこのバッテリーが採用されていることから見てもわかる。
とまぁ、ある意味いいことずくめなのだが、欠点としてはバッテリーの各セルが、構造用接着剤で一体化されているため、将来的に特定のセルが故障して修理が必要になった場合、バッテリーパック全体を交換するしかなく、コストがかかるということだ。こういう不安を解消するために、BYDジャパンはバッテリーに手厚い保証を施している。
◆AWD仕様はターボエンジンを搭載
BYD シーライオン6 AWD試乗車の『シーライオン6 AWD』はプラグインハイブリッド(PHEV)だ。すでにFWD仕様の試乗は済ませているが、大きく違うのは搭載されている1.5リットルエンジンが、FWDのNAからターボになっていること。及びモーターの出力並びにトルクが大幅にアップされていることで、日常的な走りにおいてもちょっと急ぎたい時など、アクセルを踏み込んだ瞬間から、かなりの加速力を示す。
大きな違いはそこ。残念ながらAWDの威力を試すことは今回できないが、以前感じた“BYDあるある”の、FWDもしくはRWDと、AWDのハンドリングと走りの質の違いは見いだせず、その意味ではAWDを従来より少し手懐けた感がある。とはいえ、日本のマジョリティーを意識したかもしれない(そんなわけないか)、ハンドリングはもう少し洗練度が求められる。
一方で、インテリア、エクステリアの質感は、およそセグメント内のライバルと比較して同等かそれ以上。しかもそれでいて価格的アドバンテージが極めて高い(メーカー希望小売価格:448万8000円)から、日常的に使いたい向き、つまりデイリーユースには何の不満も出ないと思う。サイズは別だが。
BYD シーライオン6 AWD今回は自分の体調もあってなのか、シートが合わずに腰が痛くなった。FWDの時は感じなかったし、別のBYD各車でも感じたことがないので、もっぱら自分のせいだとは思う。
同じシーライオンの名を持つEVの『シーライオン7』と比較すると、こちらの方がデザイン的にはよりSUV的で、ヨーロッパのメーカーを渡り歩いたヴォルフガング・エッガーの好ましいデザインイメージからは、少し外れている(個人的に)。
いずれにしてもブレードバッテリーとその格納方法を勉強して、改めてBYD各モデルを再度試してみたいという気分にさせてくれたモデルである。
■5つ星評価
パッケージング ★★★★★
インテリア居住性 ★★★★★
パワーソース ★★★★★
フットワーク ★★★★
おすすめ度 ★★★★★
中村孝仁(なかむらたかひと)
AJAJ会員・自動車技術会会員・東京都医師会「高齢社会における運転技能および運転環境検討委員会」委員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、さらにドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来48年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業やシニア向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める。最近はテレビ東京の「開運なんでも鑑定団」という番組で自動車関係出品の鑑定士としても活躍中。




