日本の軽自動車市場を支える巨大な生産拠点が、九州の大分県中津市にある。ダイハツ九州の大分(中津)工場だ。
『ハイゼットトラック』『ハイゼットカーゴ』『アトレー』『ミライース』『タフト』『ムーヴ』『ムーヴキャンバス』など、ダイハツを代表する軽自動車がここから送り出されている。トヨタやスバル向けのOEM車も含めれば、そのラインアップはさらに幅広い。
2025年度のダイハツ国内生産は4拠点合計で約90万台。このうちダイハツ九州が約半数を担い、軽自動車に限ればその比率は約8割に達する。名実ともにダイハツ最大の生産拠点である。
だが、中津工場の重要性は生産台数だけでは語れない。
そこには、軽自動車という限られた価格帯の商品で品質を確保しながら事業を成立させるため、ダイハツが長年磨き上げてきた独自のモノづくりがある。そして中津で生まれた生産思想は国内だけでなく海外の工場にも展開されている。
ダイハツにとって中津とは、単なる「軽自動車を大量につくる工場」ではない。いわば、ダイハツのモノづくりそのものを生み、磨く場所なのである。
◆ダイハツ最大の生産拠点は、なぜ九州にあるのか

ダイハツ九州の歴史をたどると、その源流は1960年に設立されたダイハツ前橋製作所までさかのぼる。1977年にはダイハツ車体へ商号を変更。2004年に前橋工場を閉鎖し、大分県中津市へ生産拠点を移した。
移転の狙いとしてダイハツは、「生産能力を拡張、次世代工場への対応」と「ダイハツグループの西日本の中核拠点を目指す」の2点を挙げている。2004年に大分(中津)第1工場、2007年には第2工場が稼働。2008年には福岡県久留米市でエンジンなどを生産する久留米工場も稼働を開始した。
現在の中津工場は土地面積130万平方m。第1工場が11万平方m、第2工場が5万3000平方mで、それぞれ年間23万台の生産能力を持つ。
物流面でも特徴的だ。工場から中津港までは約2kmの専用道路で結ばれ、完成車を船舶で輸送するモーダルシフトを実施。中津港から国内各地へ完成車を送り出す体制が整えられている。
そして中津工場を理解するうえで重要なのが、同じ敷地にある第1、第2工場の性格が大きく異なることである。
◆「何でもつくる」第1工場、「効率よくつくる」第2工場

ダイハツは企業理念として「お客様に寄り添い、暮らしを豊かにする」を掲げ、そのモノづくりでは「良品廉価の追求」と「お客様ニーズにお応え」という考え方を重視している。
興味深いことに、中津の二つの工場は、その二つをそれぞれ象徴するような存在になっている。
第1工場のキーワードは「お客様のニーズにお応え」だ。
軽トラック、軽バンといった軽商用車と軽乗用車を同一ラインで生産する多品種混流ラインを構築。さらに特装車やBEVなどにも対応し、顧客の細かなニーズに応える「少量多品種生産」を担う。
対する第2工場のキーワードは「良品廉価の追求」。こちらは軽乗用車に特化し、多品種を大量に生産する。そしてダイハツのモノづくりの基盤である「SSC」のマザー工場としての役割を持つ。
つまり一方では、多様な需要にきめ細かく対応する。一方では徹底的に効率を高め、求めやすい価格の商品を大量に供給する。この二つを同じ中津という拠点に持っているところに、ダイハツらしい軽自動車づくりが見えてくる。
また、第1工場の象徴ともいえるのが「特装車」だ。
ダイハツ九州は軽特装車を長年手掛けており、1970年代からさまざまな用途に応じて軽ダンプカーや冷凍車、車いす移動車など、主に働くクルマを送り出してきた。現在では特装車をすべて社内で設計し、専用工区も内製化。開発からボデー、組立までを一気通貫で行うことで、納車までのリードタイム短縮にもつなげている。
大量生産だけを追求するのではなく、「必要とする人に必要なクルマをつくる」。軽自動車が生活や仕事に密接した道具であるからこそ、この柔軟性が重要になる。
◆「自動化すればいい」ではなかった、SSC誕生の背景

一方、第2工場を理解する鍵となるのが「SSC」である。
SSCとは「Simple・Slim・Compact」の頭文字。文字通り、シンプルで、スリムで、コンパクトな生産設備・工程を目指す考え方だ。その出発点が興味深い。
2004年に稼働した第1工場は、高度に自動化された汎用ラインとして設計され、上空搬送設備やAGV(無人搬送車)を多用していた。しかし、複雑で大規模な設備は故障した際の影響も大きい。
そこでダイハツ九州が考えたのが、むしろ設備をシンプルにすることだった。複雑で重厚な設備を簡素化し、必要に応じて人の手も積極的に活用する。不要なスペースをなくし、工程を短縮し、設備そのものを簡素にすることで故障を減らす。

2006年から第1工場でSSC化の事前トライを行い、その成果を2007年稼働の第2工場へ全面的に盛り込んだ。これは「自動化率が高い工場ほど優れている」という単純な発想とは異なる。
重要なのは最新設備をどれだけ導入したかではなく、軽自動車という商品を安定して、効率よく、適切なコストで生産できるか。その目的から逆算して、機械に任せるべきところと人が担うべきところを考える。
小さい施設で、小さいクルマをつくるための創意工夫。SSCとは、いわば軽自動車に最適化された生産思想だといっていい。



