「小さなランクル」ではなかった…70、250、300と乗り比べてわかったトヨタ『ランドクルーザーFJ』の本質

トヨタ ランドクルーザー FJ
トヨタ ランドクルーザー FJ全 44 枚

トヨタが9月末日、愛知県長久手市のさなげアドベンチャーフィールドにおいて、『ランドクルーザー』群の4車種のプレス向け試乗会を行った。

【詳細画像】ランドクルーザーFJと歴代モデル

昨年発表され、今年初夏から発売されている『ランドクルーザーFJ(以下FJ)』を筆頭に、10月から3.5リッターV6ツインターボエンジンに1モーターのハイブリッドを組み合わせた最新の『ランドクルーザー300(以下300)』、すでに発売開始から2年半が経過しながら高い人気を誇る『ランドクルーザー250(以下250)』、さらには3年前の再販>オーダー殺到につき即受注停止したものの、再々販が近頃ウワサされている『ランドクルーザー70(以下70)』の6速AT国内仕様、というラインナップだ。

トヨタ ランドクルーザーシリーズトヨタ ランドクルーザーシリーズ

見た目も大きさも、乗り味も異なる4台のランクル試乗会が催された背景には、まず2026年がランクル生誕75周年であることがひとつ。ふたつ目には、三菱自動車が『パジェロ』を復活させた今、継承と進化を続けてきたランドクルーザーという老舗の看板を、あらためて認識させる狙いもあるだろう。

70は今でも大人気車種だが、軽薄短小といわれた1980年代の空気感の中ではバンカラ過ぎて、RVおよびクロカンの火つけ役でスキー・ブームを担ったパジェロの垢抜けぶりに水をあけられていた。今でこそ70は巡り巡ってエモいクロカンの代表格だが、80系が登場するまでランクルや日産『サファリ』になかったものを備えていたのが、パジェロの魅力であり、他社のトラウマだったのだ。

◆75年間変わらないランクルの原点

歴代トヨタ ランドクルーザー歴代トヨタ ランドクルーザー

4台のランクルの共通項を求めるとすれば、その原点は「壊れないこと・道なき道を進めること・修理しやすいこと」を掲げ、富士山5合目まで走破したウイリスジープに対抗して6合目まで登坂した、1951年のトヨタジープこと「BJ型」に遡る。以来75年間、ランクルは世界中の過酷極まる路面で、道ですらない泥濘や岩場、砂漠や湿地に傾斜地といった状況で、人道支援や遠隔地の救急車など、人命にかかわる仕事を止めないための車として選ばれてきた。

ランクルの守り続ける価値とは“TRUST(信頼)”であり、むしろサイズやパッケージ、パワートレーンやサスペンション、そこから派生する操縦安定性や快適性、安全性能や環境性能は、時代に応じて変えてきたものだと、ランドクルーザー群の開発責任者である内山征也氏は述べる。ランクルらしさはハードウェアにあるのではなく、生活や命といった貴いものを守るからこそ、継承され進化してきたというロジックだ。

だからランクルはその根幹で「作業車」、つまりワークホースであり続けており、「ヘヴィーデューティ/ステーションワゴン/ライトデューティ」という3つの系統の派生モデルを徐々に加えて、今日の「ランドクルーザー群」が成立している。内山氏の言葉を借りれば、“働くを支える”70は、昔も今も現役のヘビーデューティ系。

ランドクルーザー75年の歴史ランドクルーザー75年の歴史

一方で40から積載量重視の仕様として派生した55に端を発し、60、80に連なるステーションワゴンの系譜が、今回ハイブリッド化され“可能性を(さらに)広げる”300だ。さらにオフローダーでありながら乗用車感覚を採り入れ、オンロードとのバランスをとったプラドの系譜には、“暮らしと冒険を繋ぐ”250が相当する。

すると最新のFJをどこに系統づけるか? という問題については、後で詳述するが「~系」が「~界隈」で語られるようになった、そこが令和を象徴するような感覚でもある。

さなげアドベンチャーフィールドまで、市街地および近郊路では、FJを走らせた。ものの10数分ほどの距離ながら、クセが少なく扱い易いことが印象に残った。さなげの試乗コースは前日まで雨続きだったため、岩石路は濡れ、泥濘路はぬかるみ、まさしくランクル日和というほかなかった。

◆アナログだからこそ味わえる絶対的な信頼感の「70」

トヨタ ランドクルーザー 70トヨタ ランドクルーザー 70

最初は下見と習熟を兼ねて開発ドライバーの隣に乗せてもらい、1周づつ同じコースを車種を変えながら、筆者は70>300>FJ>250の順で回る試乗となった。

まずは6速スーパーECTをディーゼル2.8リットルに組み合わせた、70のAT仕様でコースに出た。ステアリング径も大きく、路面の凹凸に対して大きな反力を返してくるので、下りのアプローチ路をゆっくりと、クリープ+αぐらいのペースで進んでいても、ときに手元で4分の1回転以上もステアリングがひとりでに回っている。

親指を中に入れないのがオフロード走行の鉄則であるのはこうした状況で指を弾かれないためだが、微低速でも下り坂で後輪が先に滑って車体が横向きになるのが怖いので、石を踏む下り坂ではトランスファーをL4に入れ、DAC(ダウンヒルアシストコントロール)を発動した。するとアクセル&ブレーキ動作は車任せで、徐行に近い速度で姿勢を保ってくれるので、ドライバーはステアリング操作にだけ集中できる。遅いと感じれば「追いアクセル」を軽く入れることもできる。

それでも、岩石路や土が掘れた泥濘モーグルなど、路面との対話というか接地感覚を確かめながらの操作で、70はアナログ感の強いドライバビリティに終始する。じわりとしたアクセルワークで微妙なトルクを地面にかけやすく、ペダルから駆動系の高い精度と扱い易さ、重心が低いゆえのモーグル内での穏やかでゆっくりとした挙動に、ほとんど癒しさえ覚える。

トヨタ ランドクルーザーシリーズに一気乗り。手前が「70」トヨタ ランドクルーザーシリーズに一気乗り。手前が「70」

場所によっては20度を超えているであろう登坂モーグルでは、さすがにA-TRCことアクティブトラクションコントロールが介入する。だがスリップを検知すると前後の片側1輪だけ、ようはドライバーのフットブレーキ操作ではありえない対角線状の制動が可能なので、車体が登り坂の途中で後ずさりしたり向きを乱すことがない。

逆バンク気味の路面で左折するシーンでは、アクセルの踏み込みが優し過ぎると制御が働かないので、あえて強めに踏んで差動、つまりスリップを意図的に作り出してA-TRCを効かせる必要があったが、スタックからするりと抜け出す時の軽快さは、70ならではの感覚だ。

◆同じ悪路が「レッドカーペット」に、300ハイブリッドの圧倒的な余裕

トヨタ ランドクルーザー300 GR SPORT(ハイブリッド車)トヨタ ランドクルーザー300 GR SPORT(ハイブリッド車)

これが300、しかも「GRスポーツ」のハイブリッドとなると、同じコースを走っているのに印象は一変する。車内での守られ感、居住性の高さ、電動パワステの軽やかなフィールからして、オフローダー離れしている。

下りのアプローチ路から石が嵌め込まれた下りの急坂まで、全長4985mmと全幅1925mmの巨躯ゆえ、扱いにくいかと予想していたら、見切りの良さとセンターディスプレイに前輪の位置ごと映し出されるフロントカメラビューのおかげで、ラインどりがしやすい。各輪が凹凸を拾っても、突き上げや衝撃の角が丸められて路面感覚ごと、当たりもストロークもしなやかだ。

ホイールベースが長い分、岩石路やモーグルでは腹やサイドステップを当てないよう多少は気を使わせるが、北米向けピックアップトラックなどと共通する10速AT直結の1モーターハイブリッドは、トルクの立ち上がりに唐突さが一切なく、これまた乗用車のように従順なドライバビリティと、優しい乗り心地に拍車をかけていると感じた。

トヨタ ランドクルーザー300 GR SPORT(ハイブリッド車)トヨタ ランドクルーザー300 GR SPORT(ハイブリッド車)

圧巻はモーグルから登坂路にかけてで、試乗車はE-KDSS(エレクトロニック・キネティック・ダイナミック・サスペンションシステム)を装備しており、伸び側で最大ストローク700mmを確保。4輪のいずれかが地面を捉え損ねてトラクションが抜けるといった局面がほぼ皆無だった。

前後各輪のどこかが一瞬スリップしても、次の瞬間にもう片側に駆動力が配分され、まるで歩くように急坂を登っていく。オフローダーでオフロードを走っているのに、レッドカーペットの上を進むような感覚だ。それこそ300の輸出において6割の割合を占めるという、中近東市場で求められる乗り味でもある。

◆「あざと可愛いランクル」と侮っていた、FJは想像以上の本格派だった

トヨタ ランドクルーザー FJトヨタ ランドクルーザー FJ

続いて試乗したFJは、この日の眼目でもあるが、一番のグッド・サプライズでもあった。

サイズや発売順からして、300、250、FJというのは、排気量や外寸からいっても大中小、松竹梅に近い序列のように思い込んでいた。いわゆるスクワークル、四角と丸を組み合わせたカクカクしているのに丸っこいデザインも、最大公約数にアピールするトレンディ感に満ちているように思え、新興国市場向けの基幹プラットフォームでラダーフレームたる「IMV」に基づくとはいえ、「ちょっとあざと可愛いランクル」というのが、FJの第一印象だったのだ。

だがいざ走らせると、300や250には当然備わっているマルチテレインセレクトのような、路面状態に応じて駆動やシャシーを電子制御で最適化する機能が、FJには無い。トランスミッションも6スーパーECTと呼ばれる6速ATで、300の10速ATや250の8速ATに比べたらスペック上ではいかにも見劣りして見える。

にもかかわらず、H2/H4/L4のパートタイム4駆式のトランスファー切替や後輪デフロック、DACといった電子制御の駆動コントロール機能は揃っており、その援けはシフトコンソール脇のボタン操作で、いつでもアテにできる。センターディスプレイに映る前方路面のカメラビューは、望遠鏡で覗くように四隅がケられていて前輪の位置を示さないが、これはこれで雰囲気があっていい。

トヨタ ランドクルーザー FJトヨタ ランドクルーザー FJ

ようは路面ごとの最適化モードが無い、ワン・コンフィギュレーションで潔い駆動&シャシー制御なので、ドライバーの操作・操舵が反映されやすく、車の挙動やクセも掴みやすい。あえて油圧式を採用するパワーステアリングの反応の仕方も、明らかに300より70に近く、繊細で途切れず濃密なフィールごと心地いい。5ドアボディにしてホイールベース2580mmの、軽快かつ本格的なオフローダーなのだ。

トヨタ開発陣の諸氏によれば、FJは本格派オフローダーの入門モデルとしてランクルの間口を広げる位置づけという。もっといえば、FJはフィルター無しのナチュラルなオフローダーだからこそ、ドライバーに逐一、状況判断や操作選択を求めてくる、そんな対話性すらある。

◆ランクルFJはオフロード界の「86」なのか

トヨタ ランドクルーザーFJ(左)と250(右)トヨタ ランドクルーザーFJ(左)と250(右)

FJの後に、250を同じくさなげの不整地コースで乗ると、むしろ300に近い感覚、車の方でノンシャランと滞りなく走ってくれる雰囲気が強い。

それでいて250は2列目シートを起こした状態では荷室容量1063リットルと、300の1130リットルにわずかに譲るが、2列目リアシートを畳めば2225リットル vs 2050リットルと、ライトデューティ系として圧倒的な積載能力を誇る。泥濘路でゼロから微細なトラクションをかけて脱出するとか、そういうプロセスを楽しむよりは、さっと脱け出すことに重きがある、そんな実用性と合理性を感じさせる。

だからふり返って見ると、FJはランクル伝統の3系統に分類しづらいところがあった。オフローダーとして本格である点ではヘビーデューティ的だが、3ドアではなく5ドア仕様で片側ヒンジの使いやすいテールゲートと荷室を備える点は、ライトデューティ的でさえある。系譜よりも界隈で特長をあれこれ反映する、令和のランクルなのだ。

実際、公道試乗に連れ出しても、FJはH2、つまり2駆でハイ・ギアードの状態では時折ゴロンとした乗り心地を伝えてくるものの、ペダルの踏み込み初期領域からステアリング中立付近まで質のいいチューニングが施され、乗用車のように躾けがよく扱いやすい。オンロードでの走り味も自然なのだ。

トヨタ ランドクルーザー FJトヨタ ランドクルーザー FJ

喩えていえば、スポーツカーでいうところの『86』や『ユーノスロードスター』のような存在。ラダーフレームのクロカン界でその位置を占める唯一無二の存在が、FJともいえる。FJはドライバーを主役に据えて操らせてくれるがゆえ、不整路面での操作や操舵に心地よい責任感が生じるし、成功体験をも強く感じさせる。逆にいえばオフロードでドライバーを育てるからこそ、乗り手に信を置いている車なのだ。

ランドクルーザーが培ってきた“TRUST”とは、乗り手から車へだけでなく、車から乗り手に対する、双方向のものだ。会場に居合わせたオフロードの匠ドライバーと話しながら、300のようなハイエンドが進む開発の方向性は今後、フロントビュー・カメラによるセンシング映像をAI解析して、オフロードも最適化された自動運転で走破する、そんな方向に進むのかもしれないという。

リセールバリューによる話題が盗難も含め先行して、世間を騒がせている「ランドクルーザー群」だが、個別の車種ごとのキャラクターにじっくり触れると、ふさわしい乗り手に渡ることを願いたくなるのだった。

トヨタ ランドクルーザー FJトヨタ ランドクルーザー FJ

南陽一浩|モータージャーナリスト
1971年生まれ、静岡県出身。大学卒業後、出版社勤務を経て、フリーランスのライターに。2001年より渡仏し、パリを拠点に自動車・時計・服飾等の分野で日仏の男性誌や専門誌へ寄稿。現在は活動の場を日本に移し、一般誌から自動車専門誌、ウェブサイトなどで活躍している。

《南陽一浩》

南陽一浩

南陽一浩|モータージャーナリスト 1971年生まれ、静岡県出身。大学卒業後、出版社勤務を経て、フリーランスのライターに。2001年より渡仏し、パリを拠点に自動車・時計・服飾等の分野で日仏の男性誌や専門誌へ寄稿。現在は活動の場を日本に移し、一般誌から自動車専門誌、ウェブサイトなどで活躍している。

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