11月18~20日に開催される「EdgeTech+ 2026」。フィジカルAIの実用化を理解するうえでは、AIモデルの性能だけでなく、開発したAIを実際の機械で動かすための技術にも注目したい。
重要なキーワードが「Sim-to-Real」「デジタルツイン」「オンデバイスAI」「NPU」の4つだ。前半の2つは主に開発・検証、後半の2つは機器への実装に関係する。これらを理解すると、展示会で紹介されるAI開発環境や組込みハードウェアの役割が見えてくる。
●Sim-to-Realとは何か
Sim-to-Real(シム・トゥ・リアル)は、シミュレーション環境で学習・開発したAIや制御技術を、現実の機械に適用することを指す。
例えば、ロボットに歩行動作を学習させる場合、最初から実機を使うと、転倒による破損などのリスクがある。そこで、コンピューター上の仮想環境でロボットを動かし、さまざまな条件で学習させる。そして、学習した動作を実際のロボットに移す。これがSim-to-Realの基本的な考え方だ。
ただし、仮想環境と現実世界は完全には一致しない。床面の摩擦や部品の特性、センサーの誤差などによって、シミュレーションでは成功した動作が実機ではうまくいかない場合がある。この違いを小さくすることが、Sim-to-Realの重要な課題となる。
●デジタルツインとは何か
デジタルツイン(Digital Twin)は、現実の設備や機械、環境などをデジタル空間に再現する技術だ。例えば、工場の設備やロボットの動作を仮想空間に再現し、設備の状態を把握したり、動作を検証したりすることができる。
デジタルツインでは、現実世界の情報をデジタル空間に反映することが重要になる。フィジカルAIの開発では、仮想環境を使ってロボットの動作や周囲の状況を再現し、AIの学習や検証に利用できる。
デジタルツインとSim-to-Realは密接に関係するが、同じ意味ではない。デジタルツインが現実世界をデジタル上に再現する技術であるのに対し、Sim-to-Realは仮想環境で得た技術を現実の機械に適用することを指す。また、Sim-to-Realに利用する仮想環境が、必ずしもデジタルツインである必要はない。
開発・検証の技術(仮想空間でAIを育てる)
●オンデバイスAIとは何か
オンデバイスAI(On-device AI)は、AIの処理を機器そのもので実行する技術だ。例えば、車載コンピューターやロボット内部のプロセッサーでAIの推論を実行する場合が該当する。AIの処理をクラウドへ送らずに実行できるため、通信による遅延を減らし、通信環境への依存を小さくできる。
オンデバイスAIは、エッジAIの一形態と考えられる。エッジAIがデータの発生源に近い場所で処理する方式を広く指すのに対し、オンデバイスAIは機器そのもので処理する点が特徴だ。自動車では、車載コンピューターによる画像認識や、運転者の状態を監視するシステムなどへの応用が考えられる。
●NPUとは何か
NPUは、Neural Processing Unit(ニューラル・プロセッシング・ユニット)の略だ。AIの計算処理を効率的に実行するためのプロセッサーを指す。
コンピューターには、汎用的な処理を担うCPUや、画像処理などに使われるGPUがある。NPUは、ニューラルネットワークの計算に適した構造を持ち、AIの推論処理を効率よく実行するために利用される。特に、消費電力や発熱に制約がある組込み機器では、AI処理の効率化が重要だ。ただし、AIの推論にはCPUやGPUなども利用できるため、オンデバイスAIにNPUが必須というわけではない。
実機への実装技術(機器でAIを動かす)●仮想空間で育てたAIを実機で動かす
4つの技術を組み合わせると、フィジカルAIの開発から実装までの流れが見えてくる。
まず、デジタルツインなどの仮想環境を利用し、AIの学習や検証を進める。次に、Sim-to-Realによって学習したAIや制御技術を現実の機械に適用する。実機では、オンデバイスAIによって機器内部で推論を実行し、必要に応じてNPUなどのプロセッサーを利用して計算を効率化する。
例えばエヌビディアは、ロボットの開発に向けたシミュレーション技術や、世界基盤モデル「Cosmos」などを展開している。これらはフィジカルAIの学習や検証を支える技術だ。
フィジカルAIの実用化には、高性能なAIモデルだけでなく、仮想環境と実機の違いへの対応、計算能力、消費電力、処理の遅延など、多くの課題がある。EdgeTech+ 2026では、AIモデルの開発環境に加え、それを実際の機器に搭載するためのプロセッサーや組込み技術にも注目したい。
具体例:ロボットの開発から実装まで●EdgeTech+ 2026開催概要
EdgeTech+ 2026は、11月18~20日に神奈川県横浜市のパシフィコ横浜で開催される、組込みシステムやエッジテクノロジーに関する展示会だ。主催は組込みシステム技術協会(JASA)。会場では、組込みハードウェア、ソフトウェア、AIなどの技術が紹介される。
EdgeTech+ 2026【キーワード】
Vol. 1 「フィジカルAI」って何? 似ている4つの基本用語
○フィジカルAI
○Embodied AI
○Embedded AI
○エッジAI
4つの用語を理解することで、自動運転車やロボット、産業機械などの展示が、どのような技術によって成り立っているのか見えてくる。
Vol. 2 「VLA」って何? AIが判断し行動する技術
○VLA
○ワールドモデル
○AIエージェント
○マルチモーダルAI
VLAは、ロボットなどが周囲の状況を認識し、人間の指示を理解して行動するためのAIモデルだ。それに関連するワードも。
Vol. 3 「Sim-to-Real」って何? AIを動かす実装技術
○Sim-to-Real
○デジタルツイン
○オンデバイスAI
○NPU
フィジカルAIの実用化を理解するうえでは、AIモデルの性能だけでなく、開発したAIを実際の機械で動かすための技術にも注目したい。
Vol. 4 「E2E AI」って何? 自動運転を支える技術<予告>
○E2E AI
○センサーフュージョン
○TinyML
フィジカルAIの応用分野のひとつが自動運転だ。自動車産業の視点から注目したい3つの技術だ。




