「このくらいが、ちょうどいい!」
スズキ『GSX-8R』で走り出して、そんな言葉が頭に浮かんだ。もちろん800ccのビッグバイクだから、パワーは十分にある。なのに、持て余すばかりではない。
低回転からトルクがしっかり出ているから、街中ではアクセルを大きく開けなくてもスッと前へ出る。それでいて、ワインディングでペースを上げれば、エンジンはどこからでも力強く応えてくれる。
右手の操作に対する反応もリニアで、欲しいぶんだけ、欲しいところで力を引き出せる。スポーツ性能と扱いやすさ、そのどちらにも不満を感じさせない。
700~800cc前後のミドルクラスが活況を呈しているのも、GSX-8Rに乗れば納得がいく。
◆いま注目のミドルクラス
スズキ GSX-8R
いま、バイク選びでは扱いやすさと走りのバランスがますます重視されている。400ccでは少し物足りない。でも、リッタークラスほどのパワーや車格までは必要ない。大きすぎず、重すぎず、それでいて高速道路やワインディングでは十分以上に楽しめる。
そんなライダーのニーズを捉えるように、中間排気量と呼ばれるこのクラスのモデルが各メーカーから続々と登場している。その一角を担うのが、スズキの775cc並列2気筒エンジンと、それを搭載するスチール製ダイヤモンドフレームを骨格としたプラットフォームだ。
2022年秋、ネイキッドスポーツの『GSX-8S』とアドベンチャーモデルの『Vストローム800DE』として登場。翌23年には『Vストローム800』が加わり、24年にはフルカウルスポーツの『GSX-8R』も加わった。さらに26年には『GSX-8T』と『GSX-8TT』もラインナップに追加され、バリエーションを増やしている。
◆前傾しすぎないライポジ
スズキ GSX-8RフルカウルをまとったGSX-8Rだが、そのキャラクターはスーパースポーツとは少し違う。セパレートハンドルを採用しているものの、グリップ位置はネイキッドのGSX-8Sより少し低い程度。前傾姿勢は決してきつくなく、上半身に余計な負担をかけずに走ることができる。
ステップも適度に後方へ設置されているが、膝の曲がりは緩やかで窮屈になるほどではない。
ワインディングではスポーツライディングを楽しめ、それでいてツーリングでは長い距離を無理なく走れる。身体を自然に収められる、程よくフィットしたポジションに仕上げられている。
◆軽快さと安定感を両立する車体
スズキ GSX-8Rの足つき
スズキ GSX-8Rの足つき身長175cm、体重65kgの筆者がまたがると、足はしっかりと地面に届く。写真のとおり、シューズのソールを路面に着けることができ、足つき性に不安は感じない。
車体装備重量(燃料・潤滑油・冷却水・バッテリー液を含む)は205kg。大型バイクとして考えれば軽く、押し引きや駐車場での取り回しも苦にならない。こうした日常での扱いやすさも、ミドルクラスが支持される理由のひとつなのだろう。
車体には高剛性のスチール製ダイヤモンドフレームを採用し、前後17インチホイールにアルミ製スイングアームを組み合わせる。
スズキ GSX-8RネイキッドのGSX-8Sに対して、GSX-8Rではハンドリングにもスポーツ性を求めた設定となっている。ハンドル切れ角は8Sの35度から32度へと変更され、最小回転半径は2.9mから3.2mへ広がった。
前後サスペンションは8SのKYB製から、8RではSHOWA SFF-BPへと変更されている。倒立式フロントフォークは、右側にダンパーとスプリング、左側にスプリングを配置。それぞれが異なる役割を担う構造だ。
路面の凹凸に対する追従性が高く、ハンドリングにクセがない。車体を寝かせたときも動きが素直で、ライダーが意図したラインをトレースしやすい。
◆270度クランクが生む力強い加速感
スズキ GSX-8Rボア・ストロークを84.0×70.0mmとして、775ccの排気量を獲得するパラレルツインエンジンは、2軸バランサーによって振動を効果的に抑えながら、かすかなパルス感を残してスムーズに回っていく。
コーナーの立ち上がりでスロットルを開けていくと、その接地感が頼もしい。270度位相クランクによるトラクション性能が、ここで効いている。
2気筒の燃焼タイミングは270度と450度の不等間隔。リヤタイヤが路面をしっかり捉えながら加速していく感覚があり、自然と“もうひと開け”したくなるのだ。
スズキ GSX-8R極低速域の扱いやすさも際立つ。低回転から十分なトルクを発揮するうえ、ローRPMアシストシステムが発進時にエンジン回転をわずかに高めてくれるから、クラッチミートに神経を使うことなくスッと走り出せる。
そして回転を上げていけば、パワーがしっかりと盛り上がっていく。扱いやすさを備えながら、走りはしっかりと熱い。この絶妙なバランスこそ、スズキ800シリーズが持つ魅力だ。
◆GSX-Rの血統を感じさせる
スズキ GSX-8Rデザインにも、スズキのスポーツバイクらしさがしっかりと表現されている。フロントマスクには、GSX-Rシリーズを思わせる縦型2灯LEDヘッドライトを採用。スズキのスポーツモデルに共通するアイデンティティを感じさせながら、GSX-8Rならではのスタイリッシュな表情をつくり出した。
フロントカウルからリヤへと流れるボディラインはスリムで滑らか。それでいて、車体前方にボリュームを持たせたマスフォワードのフォルムによって、しっかりとアグレッシブさも演出している。
エンジンやシートレールなどの機能部品を大胆に見せることで、無駄を削ぎ落としたメカニカルな機能美も強調。ボディに配された「GSX-8R」のロゴも存在感があり、ひと目でスポーツモデルだとわかるスタイルに仕上がっている。
◆ミドルクラススポーツの魅力を凝縮した一台
スズキ GSX-8R電子制御スロットルを採用し、スズキ・ドライブモード・セレクター(SDMS)には3種類のモードを用意する。
Aモード(アクティブ)ではスロットルレスポンスがリニアになり、右手の操作に対してダイレクトに反応。ワインディングで積極的に走りたいときには、このキビキビとした応答性が気持ちいい。
Bモード(ベーシック)は、アクセルを大きく開けていきやすい素直な特性。そしてCモード(コンフォート)は、よりマイルドなレスポンスとなり、雨天など路面が滑りやすい状況でも扱いやすい。肩の力を抜いて、穏やかに走りたいときにも適した設定だ。
スズキ GSX-8Rシフトアップ/ダウンの両方に対応する双方向クイックシフトシステムも備える。クラッチレバーを握る回数が減るのはありがたく、シフトタッチも良好。ワインディングではクラッチ操作を介さず、テンポよくギヤをつないでいける。
どこかひとつを尖らせるのではなく、街乗りからツーリング、ワインディングまで1台でこなすオールラウンダー。GSX-8Rは、ミドルクラススポーツの魅力を凝縮した一台と言える。
スズキ GSX-8R■5つ星評価
パワーソース:★★★★
ハンドリング:★★★★
扱いやすさ:★★★★★
快適性:★★★★
オススメ度:★★★★
青木タカオ|モーターサイクルジャーナリスト
バイク専門誌編集部員を経て、二輪ジャーナリストに転身。自らのモトクロスレース活動や、多くの専門誌への試乗インプレッション寄稿で得た経験をもとにした独自の視点とともに、ビギナーの目線に絶えず立ち返ってわかりやすく解説。休日にバイクを楽しむ等身大のライダーそのものの感覚が幅広く支持され、現在多数のバイク専門誌、一般総合誌、WEBメディアで執筆中。バイク関連著書もある。




