なぜ日本のモノづくりに「SDx」が必要なのか? JASA 権藤正樹氏が語る、“ソフトウェア基軸”への転換とその本質

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組込みシステム技術協会(JASA)SDxプラットフォーム委員会 委員長の権藤正樹氏
組込みシステム技術協会(JASA)SDxプラットフォーム委員会 委員長の権藤正樹氏全 7 枚

「ソフトウェア主体の開発」が叫ばれる一方、この改革のため、日本の製造業に残された時間は決して長くない。「猶予はあと5、6年」。この強い危機感から生まれた構想が、JASA(組込みシステム技術協会)が掲げる「SDxプラットフォーム」だ。

日本最大級の組込み・エッジテクノロジー総合展示会「EdgeTech+2026」を主催するJASAの理事で、SDxプラットフォーム委員会(以下:委員会)委員長 をつとめる権藤正樹氏は、「2年以内にその変革基盤を構築する」と、組込み業界のみならず自動車業界まで巻き込んで精力的に活動している。権藤氏が語る、日本のモノづくりが直面する危機、そしてSDxプラットフォームが目指す産業変革とは。

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◆ソフトウェアシフトに本当に必要な取り組みはなにか?

自動車業界に限らず多くの製造業は、これまでの日本のモノづくりがグローバル市場で通用しなくなっている現状に危機感を持っている。製品やハードウェアは出荷して終わりではなく、ライフサイクル全体で新しい価値を提供していかなければならないからだ。そのためには「モノ売りからコト売りへ」「ソフトウェアが新しい価値を生み出す」といったスローガンが盛んに唱えられる。

業界構造のなかではティア2、ティア3として位置づけられていたECUやエレクトロニクスコンポーネント(エレキ)部門、しかもそのうちソフトウェアが車両の付加価値を決めると言われても現場はピンとこない。「そうはいってもソフトウェア主体とは具体的にはどういうことか? なにをすればいいのか?」というのもモノづくり側の本音だろう。

だが、この変革を、SDVなんてまだ先の話、業界一部の話、自分たちには関係ないと思うのは危険だ。いままでと同じやり方、ビジネスモデルは通用しなくなる。資本主義経済において、これはいわば道理であり、変革を否定しても実利はない。

もちろん、変革期の対応や戦略に、明確な答え、正解と呼べるようなものは存在しない。業界や企業ごとにそれを見つけていくしかないのだが、バラバラに動いていては効果が局所的で業界としてスケールしない。なんらかの拠り所が必要だ。その指標のひとつとして提案されたのが「SDxプラットフォーム」(SDx:Software Defined x)であり、その活動のイニシアティブをとるのがJASAの「SDxプラットフォーム委員会」だ。

SDxプラットフォームは、単なる組込みシステム業界のコンソーシアムやフレームワークという捉え方はできない。業界やこれまでの産業構造を超えた取り組み、産業界全体にかかわる新しい動きと言える。

◆「SDxプラットフォーム委員会」設立の背景と経緯

組込みシステム技術協会(JASA)SDxプラットフォーム委員会 委員長の権藤正樹氏組込みシステム技術協会(JASA)SDxプラットフォーム委員会 委員長の権藤正樹氏

もともとJASAでは、技術革新による市場変化や先が読めない国際情勢から、協会および組込みシステム業界の変革の必要性が認識されていた。そこで「JASA改革プロジェクト」を立ち上げ、2025年11月には権藤氏らが中心となって「ソフトウェア駆動型社会への変革と日本の競争戦略(通称:JASAレポート)」をまとめ、業界の注目を集めた。

レポートでは、製造業の新しい潮流の中でも、海外プラットフォーム依存への危機意識が分析されており、日本独自の水平統合型プラットフォームの構築が急務だと指摘している。これを受けて作られたのがSDxプラットフォーム委員会であり、委員長はJASAの理事でありレポートの主要著者のひとりである権藤氏が務めることとなった。

委員会で特に注力するのは、ソフトウェアベンダー主導の取り組みだ。これまで、ソフトウェア側がモノづくりの意思決定にかかわる場面が少なかったからだ。

「自動車がいい例ですが、馬力や燃費など製品そのものの機能や特徴は、もはや市場の競争軸ではありません。新技術とサービスを含めたアプリケーションの付加価値を継続的に提供する必要があります。そのために、サービスオリエンテッドなソフトウェアの力が不可欠です。高品質・高性能なハードウェアは、むしろスタートラインであり、市場では、そこにどのような価値を付加できるか、どんなサービスを提供できるかが、問われています。

自動車業界にもSDV(Software Defined Vehicle)やソフトウェアシフトに対する標準化の取り組み、コンソーシアムの活動はありますが、メーカーや製造業が主体だと、どうしてもハードウェア寄りになりがちです。これは業界構造がそうなっている(組込みシステム・エレキ業界はメーカーの下請け)からです。理屈ではわかっていてもソフトウェア基軸での判断がどうしても鈍ります。かといって、いままでのやり方で国際競争力が維持できるとは限りません。この状況を変えたいと思い、レポートを書き、委員会を立ち上げました」(権藤氏)

議論や構想に時間を費やした後で実装に移るのでは遅い。リスクマネーを投じ、実装と検証を並行して走らせながら、2年以内という短期間で産業が使える基盤へ育てる――それが権藤氏の描くロードマップだ。

◆なぜメーカーを巻き込むことができたのか

とはいえ、組込みシステム業界発の取り組みに、自動車業界、特にメーカーは積極的に参加するのだろうか。

この点について権藤氏は次のように語る。

「委員会は、各社から派遣された担当者が会議をして報告書を作って終わりにはしません。メンバー企業は、危機意識を持ち趣旨に賛同するだけでなく、予算・成果物についても責任を持ちます。委員会の活動にあたって、とくに組織づくり、仲間集めに関しては、次の2つの点を意識していました。

ひとつは、必ず技術のわかる役員レベル、部長レベルとつながって、組織的な取り組みとすることです。トップダウンでも技術ベースの話となれば、部長レベル、その下の現場レベルまで巻き込むことができます」(権藤氏)

委員会には、OEMやティア1も名を連ねている。業界構造の上流に位置する企業(とその上層部)は、組込み業界と立場は違えど危機意識は共有しているからだ。ソフトウェアが価値を決める時代において、このサービス(ソフトウェア)を実現するためには、どんな車両設計にすればいいのか、といったいままでと逆のアプローチが重要になる。SDxプラットフォームに参画するOEMやサプライヤーはこの認識を理解している。

データを継続的にデジタルで行われるものづくりに環流させ、モノの価値を爆速で向上させていくのがSDx技術の力データを継続的にデジタルで行われるものづくりに環流させ、モノの価値を爆速で向上させていくのがSDx技術の力

この取り組みは、組織的にはトップダウンがキーとなるが、実際に活動が実を結ぶには現場力も欠かせない。ここでのキープレーヤーは自動車業界、組込みソフトウェア業界のエンジニアたちだ。

「現場のエンジニアも自信を持ってほしい。OEMもティア1もソフトウェアエンジニアを対等なパートナーとして取り組みに参加してきています。これは昔では考えられなかったこと。私は活動を広げるため組織のトップとのつながりに注力しましたが、現場に対するアプローチをおろそかにするつもりはありません。技術基盤づくりでは現場のエンジニアが納得する成果物にもこだわっています。そしてもうひとつが、成果物でもPoCでも実証を伴う取り組みであることです。エンジニアには、パワーポイントの資料より、実際に“何かが動いていること”を見せること。現場にとってこれ以上の説得材料はありません」(権藤氏)

SDxプラットフォームが目指すものは、トップダウン的な標準規格というより、業界を超えた実装や提案がオープンに話し合えるエコシステムの構築にある。特定企業の技術や仕様のすり合わせや総和による標準は、ともすると妥協の産物となり使えないか、概念レイヤーを文書化しただけのものになってしまう。

◆業界を超えた共通の危機感

組込みシステム技術協会(JASA)SDxプラットフォーム委員会 委員長の権藤正樹氏組込みシステム技術協会(JASA)SDxプラットフォーム委員会 委員長の権藤正樹氏

民間企業人としての権藤氏は、じつはeSOL(イーソル)の代表取締役社長 CEO 兼 CTOである。イーソルの設立は1975年。以来、独自OS技術を強みに、車載機器はもちろん、産業機器、医療機器、デジタル家電、航空宇宙と多くの組込みシステムのソフトウェア開発で実績を重ねてきた。

権藤氏のイーソル入社は1996年。入社後は、自社製のリアルタイム組込みOS開発にも携わり、独学でプロダクトマネジメントも学び、AUTOSAR Adaptive Platformの仕様策定やIEEE 2804(SHIM)の標準化にも尽力するなどの経歴を持つ。つまり、技術とマネジメントの双方を知るリーダーである。

これらの経験は、確実にJASAおよびSDxプラットフォーム委員会の活動に生かされている。理屈よりも実装・実証を重視するのも、エンジニアとしての実績に、各種コンソーシアムや標準化団体での活動経験があってこそのこだわりだろう。そしてそれは委員会への自動車業界からのコミットメントという結果に表れている。

JASAは、国内の組込みシステムベンダー、ソフトウェアベンダーによって構成されている。言ってしまえば中小企業中心の業界団体だ。だが、メンバーの一企業が始めた取り組みが、政府や自動車業界を突き動かす原動力となりつつある。

◆猶予期間は5、6年しかない

たとえば、海外ベンダーがビジネスプラットフォームや革新技術を押さえることで、そうでない企業や国はそれらへの依存度が高くなる。IPの流出、人材の流出、拠点の海外移転は深刻だ。各国の関税・保護貿易化は、輸出工業国にとっては逆風であり、産業の空洞化は国の体力を落とす。

「国内製造業の競争力回復は急務です。さまざまな施策に取り組んでいますが、開発期間の短縮というテーマがあります。SDV時代においてはメカ、エレキ・コンピュータ(ソフトウェア)の同時開発、並行開発が叫ばれています。しかし、現状のCAE、MBD、ECUソフト開発の連携ができていません。AIやシミュレーションを使った統合開発環境はありますが、ランタイムレベルではつながっていません。ソフトウェア主体のアーキテクチャ設計もまだ浸透していません。これらがつながらない限り、ハードが決まらなければソフト開発ができない、といった問題が解消されないのです。

他国の状況、戦略スピードを見ると、おそらく猶予は10年もありません。あと5、6年とみています。逆算すると次の2、3年で、技術開発基盤を整備する必要があります。委員会でも2年を目安に成果を出すつもりです。そのためのリスクマネーを投じる覚悟で臨んでいます。2年以内に基盤構築するというスピード感が達成できれば、やれると思っています」

そう権藤氏は語る。

◆特定業界の枠にとらわれないSDxプラットフォーム

日本発のSDx技術を基盤化する具体シナリオ日本発のSDx技術を基盤化する具体シナリオ

SDxプラットフォームは、「x」が示すようにSDV(ソフトウェア・デファインド・ビークル)に限定されるものではない。AIがフィジカルAIとなりロボットや工作機械、自動車や家電製品にも搭載される時代だ。あらゆる工業製品は、AIアプリケーションとしての側面を持つ。したがって、SDVの技術も、重機、船舶、鉄道、ドローンや他のモビリティは当然として、ロボティクス、医療、農業など、あらゆる産業にも適用可能でなければならない。

委員会が目指すプラットフォームも例外ではない。まずは自動車業界からスタートするが、同じ取り組みは他の製品や産業にも広げていくことを目指している。

だが、現状では目指すプラットフォームの実体・実像が見えにくい。車両だけに限ってみても、車載OS、ビークルOS、コンポーネントAPIに関する標準化や共通化の取り組みは存在する。開発環境やツールについてもデファクトスタンダードや業界標準的な製品が出回っている。クラウドやサービスレベルの標準もほぼ固まっている。

SDxプラットフォームが目指すものはどういったものか。これらとどう整合していくのだろうか。

「目指しているのは個々の標準化や規格ではありません。特定のベンダーにとらわれない開発のためのエコシステムです。既存の取り組みや共通化を置き換えるのではなく、それらを活用しやすいようにする基盤づくりを考えています。

たとえば、大規模な一社が持つ経済圏の中で、サービスアプリケーションから車両設計までをひとつのソフトウェアプラットフォームに合わせるということは可能でしょう。それはひとつの理想形かもしれませんし、日本においてはこれがプランA的な解決策なのかもしれません。しかし、そうではないOEM、サプライヤーも存在します。他の選択肢という意味でプランBは必要です。そして、このプランBはプランAが成功しても意味を持ちます。

各社のやり方、仕様、あるいは業界標準や既存規格の枠組みを生かしつつ、どんな実装、どんなコンポーネントができるかを持ち寄り、よいと判断したものを業界が使っていく。そのための指標やしくみを整えることが狙いです」(権藤氏)

SDVについては、さまざまな業界団体での活動があり、モデルベース開発や、MILS/SILS/HILSなどのシミュレーション検証には、各社のソリューションがすでにある。これらを統合したオーケストレーション環境もベンダーソリューションとして提供されている。

SDxプラットフォームは、業界を超えて技術活用を広げる枠組みであって、既存の規格やソリューションを統廃合するようなものではない。これらの実装を促進するエコシステムということだ。

◆「EdgeTech+2026」から生まれる“本物の技術”

組込みシステム技術協会(JASA)SDxプラットフォーム委員会 委員長の権藤正樹氏組込みシステム技術協会(JASA)SDxプラットフォーム委員会 委員長の権藤正樹氏

こうした日本発のSDxプラットフォームにかける熱量と、その最先端に触れることができるのが「EdgeTech+2026」だ。各社の技術発表や展示だけでなく、セミナーも充実する。JASA、そしてSDxプラットフォーム委員会としても、今年の同イベントは大きな意味を持つ。

「私が伝えたいのは、本物の技術をちゃんと生み出したいという思いです。日本は技術立国として成長してきました。世界でもう一度返り咲くには、技術とビジネスを両立させる必要があります。ただ返り咲くといっても昔に戻しても、同じことをやってもうまくいきません。ビジネス的な猶予は5年くらいしかないと思っていますので、実現するには、メカ、エレキ、ソフトと、それぞれの技術にこだわっている人たちが、お互いに手を組みましょう、ということです。

そして、実装、実証のためには全体アーキテクチャの設計が鍵となります。SDV、SDxにおいてはアーキテクチャの設計段階からソフトウェア基軸でなければなりません。Software Definedという新しい軸を踏まえたモノづくりを考えていきましょう、というのがSDxプラットフォーム委員会としてのメッセージです」(権藤氏)

日本最大級の組込み・エッジテクノロジー総合展示会「EdgeTech+2026」は、2026年11月18日(水)~20日(金)まで開催。会場はパシフィコ横浜 展示ホール/アネックスホール。オンライン登録制で、参加は無料(会期3日間有効)。

オートモーティブソフトウエアエキスポの基調講演には、権藤氏(11月19日(木)14時05分~)のほか、経済産業省 製造産業局 自動車課 モビリティDX室 室長の黒籔誠氏、マツダ 統合制御システム開発・R&D革新担当 執行役員の今田道宏氏、パナソニックオートモーティブシステムズ R&D本部 プラットフォーム開発センター プリンシパルエキスパートの山室弥久氏、アイシン 製品開発センター 電子開発本部 ソフトウエア基盤技術部 主査の中根光規氏らが登壇。さらにスポンサーセミナーも多数のプログラムが予定されている。

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参考:EdgeTech+ 2026 オートモーティブソフトウェアエキスポ
11月19日(木) SDxカンファレンス 基調講演・登壇企業・団体一覧(登壇順)

・国立大学法人東海国立大学機構名古屋大学
・経済産業省 製造産業局 自動車課
・マツダ株式会社
・イーソル株式会社
・パナソニックオートモーティブシステムズ株式会社
・株式会社アイシン

《中尾真二》

テクノロジージャーナリスト・ライター  中尾真二

アスキー(現KADOKAWA)、オライリー・ジャパンの技術書籍の企画・編集を経て独立。現在はWebメディアを中心に取材・執筆活動を展開。インターネットは、商用解放される前の学術ネットワークの時代から利用し、ネットワーク、プログラミング、セキュリティについては企業研修講師もこなす。エレクトロニクス、コンピュータのバックグラウンドを活かし、自動車業界についてもテクノロジーを中心に取材活動を行う。

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