【放談会2002 Vol. 6】 『ホンダらしさ』の落とし穴

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【放談会2002 Vol. 6】 『ホンダらしさ』の落とし穴
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三浦 日本の自動車メーカーは、トップがトヨタ。この地位は揺るぎないものです。ではナンバー2はどこか。一般的には「日産ではなくホンダだ」という見方が強くなって来たように思います。

安田 マスコミも「トヨタのライバルはホンダ」「トヨタ、ホンダの2強時代」みたいな視点の捉え方をしていますが、僕はそれには異論があある。

牧野 まったく同感です。私の中では日本の2強はトヨタと日産だ。

安田 トヨタとホンダの業績、シェア、車種構成をくらべればホンダの規模はトヨタの3分の1です。世界的に見ても、トヨタはGM、フォードに次ぐ勢力だが、ホンダはこれらのメーカーに正面からぶつかるライバルとは言いがたい。

牧野 ホンダに強さがあるとしたら、それはまずオリジナリティ、独創性だと思います。たとえば初代ステップワゴンは、トヨタや日産のワンボックス系が、自分が掘った穴にはまって身動きがとれなくなっているとき、潔く「箱」で勝負し、それがウケました。初代CR-Vは、乗用車派生のライトクロカンという成り立ちを生かした、肩ひじ張らないキャラクターがウケた。トヨタや日産ではできないものを市場に提案する力はあります。もう一点は企業イメージです。若々しくガッツのある企業、チャレンジングな企業として一般には認知されています。ただ、最近はこうした長所を生かしきっていない。

三浦 会社が大きくなりすぎたのでしょうか?

牧野 たしかに組織がデカくなり車種も驚くほどに増えた。商品を増やして売り上げが増えるという好循環にはありますが、それを維持するのが手一杯に見えます。目の前の仕事が忙しくて将来の方向性を考えているヒマがないように思えるんです。ホンダと言う企業を採点するために6角形のチャートを描くと、「商品」「企業イメージ」の部分は突出しているが、「財務体質」「組織力」「マンパワー」「将来ビジョン」の4つは足りない。私の見方では、とてもいびつな6角形になります。とくに「将来ビジョン」です。ロボットを作るのはいいけれど、本田宗一郎氏が亡くなって久しいのに、集団合議制ホンダとしての新しいビジョンは見えてこない。ホンダの求心力は何かと考えると、それはすべて本田宗一郎氏が築いたものです。21世紀のホンダ像とは何なのか。社内にもわからせるようなビジョンはまだ出来ていないように見えます。

安田 将来、ホンダがどのような企業になって行くのかが、まさにホンダにとっての最大の課題です。そこが見えていないという部分がトヨタとは違うところかな、と感じます。過去にホンダは、ホンダイズムというか、本田宗一郎さんの個性を生かした経営、あるいは事業展開してきた。そこには適正規模があるはずなんです。現在のホンダは大変な大企業です。入社してくる人の大半は「寄らば大樹の陰」で、安定して仕事ができるだろうという意識だと思う。そうなると、近代的なシステムに経営体質を変えて行かないとならない。それが経営課題です。しかし、いっぽうで長くホンダにいる人々にとっては、ホンダは中小企業だという意識がある。

牧野 世代間の意識のギャップは大きいと思います。そのギャップを補うだけの組織力があるとは思えない。良くも悪くもホンダは、組織ではなく“個人”で成り立ってきた会社です。

安田 その組織や経営体質が現在の規模に見合っていないんです。これからも拡大路線で行くでしょうから、本社の機能だけでなく生産、販売、商品構成なども考えなければならない。

牧野 そういう部分をすべて「ホンダウェイ」「ホンダイズム」みたいな言葉で片付けている。じゃあ、いまのホンダらしさ、ホンダウェイとは何なのか。

安田 いや、やっていることはすでに従来のホンダウェイではないですよ。普通の大企業と同じようなやりかたをしようとしている。新しいホンダウェイを示さないと、真の意味での「国内2強」にはならないんじゃないかと思います。従来のホンダイズムを継承するのか、現状くらいの規模でホンダらしさ出してゆくのか、拡大なのか。私はいまくらいの規模でホンダの独自性みたいなものを打ち出しながらやって行くんだろうなあ、という気がするし、ホンダにとってもそのほうがいいような気がする。

牧野 90年代末からの世界的な自動車業界再編のなかで、BMWは「いち抜けた」でローバーを売り払い、規模だけの追求をやめた。私はBMWとホンダは似ているといまでも思っています。「クルマって、こうあるべきなんじゃない?」と、大量生産メーカーとは一線を隔てたところで勝負してきた。しかし、いまのホンダはそれが薄まってしまった。自分で提案した商品も、それにトヨタあたりが対抗馬をぶつけてくると、それを今度は追いかけてしまう。オデッセイやステップワゴンの2代目の、あまりのキープコンセプト路線を見ているとそう思います。逆に、ちょっと外しているトヨタのほうが面白かったりする。トヨタは1車種ぐらいこけても会社には影響がないですから。

三浦 『オデッセイ』、『CR−V』、『ステップワゴン』などのモデルチェンジを見て守りに入ったという印象を持った人は多いと思います。

牧野 計算づくで守りに入るのはいいと思う。そうじゃなくて、短期間でのしあがってしまった恐怖というか、組織として経験したことのない生産台数のプレッシャーというか、だから前回取り上げたように、アメリカで一気に攻勢をかけるのかな、と。

安田 しっかりと狙いを定めて、そこに全社員の意識を集中させる、ベクトルを集約するという点が、トヨタの強いところです。それを組織として実行できる。それに比べるとホンダという企業の行動は地に足が着いていない印象を否めない。将来の方向性を、いま、はっきりさせるべきです。

《レスポンス編集部》

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