●ウィリアムズの“牙”は重かった
“打倒フェラーリ”のために空力を攻めたという意味ではウィリアムズのマシンも同じである。ただしウィリアムズが抱えているとされる問題は、空力そのものの特性や冷却の問題ではなく、実は過重量なのだと噂されている。
F1マシンは、実戦レースに登場させる前にクラッシュテストをパスしなければならないというレギュレーションがある。いっぽうウィリアムズ「FW26」は今シーズンのマシンの中で異彩を放つ、セイウチの牙のような造型のショートノーズという思想を採り入れた。
これは、F1マシンのダウンフォースのほとんどを発生させているアンダーボディに大量の淀みのない空気を流し込むという文法において、「発明」といっても良いくらいの大胆なアイデアだった。ところがクラッシュテストを通過させるために、短いノーズと特徴的なウイングステーに強度を持たせたので、“余分に”重くなったというのだ。
F1マシンには600kgという最低重量が決められているが、正直に600kgの重量でマシンを設計するデザインチームは一つもない。例えば、ドライバーと車載カメラを含んで550kgでF1マシンが完成したとしよう。すると残りの50kgはバラストと呼ばれる重りに変換できるのだ。
このバラストはF1マシンの運動性能を決める上で非常に重要で、搭載位置を前後に移動することでハンドリングのバランスを適正化したり、できるだけ低い位置に比重の重い金属で搭載することで低重心化を進めることができる。つまりウィリアムズは例のノーズデザインのために、このバラストの自由度が小さいと言われている。
マクラーレンもウィリアムズも2004年のニューマシンを設計する際の目標は同じだった。それは“フェラーリと同じ事をしていてはフェラーリに勝つことはできない”という大前提に立っての“攻め”のデザイン思想だ。しかしF1は難しい。攻めなければ勝てないし、攻めすぎてもやっぱり勝てない。
1/3●新ルールに対応できなかったマクラーレン
2/3●ウィリアムズの“牙”は重かった
3/3●信頼厚い、佐藤琢磨の開発能力