僕は最近シトロエンのデザインに注目している。3年前に発表された『C6』は最高にかっこいい! フランス車デザインの頂点である。エレガントという言葉を説明するのにC6は一番ふさわしい。それに全ラインナップで、統一されたビジュアルアイデンティティを上手く構築している。
シトロエンにはエアサスペンションなど独自の技術をクルマの形で表現する歴史がある。一時、どこのメーカーかわからないデザインレベルに落ちたが、今は昔の良さが全面的に戻っている。
僕は新型『C5』に期待した。先代はクラスのライバルと比較すると確かに存在感が薄かった。フランス以外の国で先代を買ったのは、数が限らたシトロエンマニアだろう。新型の目的一つはC5をメジャープレーヤーにすること。要するにアウディ、BMWなどの同クラスのクルマと競争できるようになること。
結論を先に言うと立派に成功した。改善したのはデザインだけじゃないけれど、デザインのために買うクルマになった。とにかく、どんなライバルと並んでも存在感の面ではぜんぜん負けてない。
エクステリアデザインを見ると、まずC6と同じように、フロントオーバーハングが長くリアオーバーハングが短いことが独自のスタイルのベースになっている。このことだけで、一目で「シトロエンだ」と思わせる。
今回、一番新しく感じるのは強いアクセントラインである。BMW の“炎のサーフェイス”(flaming surfaces)を思わせる。ボンネットの2本のキャラクターラインとヒップラインがボリューム感を強調している。顔もかなり複雑になった。ヘッドランプの幾何学的な形がグリル中央のシトロエンマークと良く合っている。リアビューの目玉はリアウインドーだ。ガラスが奇麗にカーブされて芸術的だ。
インテリアは、なによりも質感がすごく高くなった。品質の面でもライバルに負けてない。量産ものなのに職人が手を加えたクラトマンシップを強く感じる。
新型C5はドイツ車的になったと多くの人に言われる。僕もそう思う。営業的に、これはいいことだ。ドイツ車購入を考えている人は新しいC5も見ているようだ。しかし悪く言うと、C6にあるオリジナリティは少し減った。特にインテリア、センターコンソール、ダッシュボードなどが普通っぽくなった。それでも全体的に評価すると、完全に従来よりワンランク上の、メジャープレーヤーになったことは間違いない。
ボブ・スリーヴァ│モータージャーナリスト
米国マサチューセッツ生まれ、1983年に来日。日本と海外の企業にデザインと世界のマーケット分析を提供、多数の内外メディアに執筆。現在、日本最大級の工業デザイン会社『コボデザイン』のアドバンス・デザイン・ディレクター。1994年から日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。著書に『レクサスが一番になった理由』、『ブランドデザインが会社を救う!』(いずれも小学館)。