◆つながりが重要になるこれからの自動車ビジネス
----:豊田社長は以前から「走る・曲がる・止まる」に加えて「つながる」ことが重要と話されてきました。GAZOOやG-BOOK、そしてe-CRB、SLIMなどは、この「つながる」の文脈上にある。今後も、その重要性に変化はないのでしょうか。
豊田:これまでの自動車メーカーは、「走る・曲がる・止まる」のハードウェアの部分をしっかりと作っていれば、お客様から評価していただけました。しかし、これからのお客様を考えますと、今までのハードウェアだけの考え方では足りません。新しいお客様はITやインターネットによって、高度なサービスやよりよいユーザー体験を得ることが常識になってきています。そう考えますと、クルマの電子情報化やネットワーク化によって、クルマの新しい価値やサービスの提供を視野に入れていかなければなりません。
また、最近注目されている新たな「つながる」要素として、「スマートグリッド」もあります。今後、クルマのプラグイン・ハイブリッド化やEV化は進んでいきますが、そうするとクルマは電気を消費するだけでなく、電気を保存し、発電するインフラにもなります。これまで我々自動車メーカーが考えてきたクルマの役割と比べ、21世紀のクルマの役割は大きく広がっていくでしょう。
そういった時代の変化やお客様の変化まで鑑みますと、これまでの「走る・曲がる・止まる」だけでなく、さまざまな意味での「つながる」という考え方が、クルマにとって重要になります。
----:お客様とのつながり方といいますか、関係性も変化していきそうですね。
豊田:従来の「メーカー」「販売店」「ユーザー」の関係は、「造る」→「売る」→「買う」という上流から下流への一本道なところがありました。しかし、今後はどっちが「上流」とか「下流」ではなく、相互に連携するトライアングル的な関係になると予想しています(図)。
自動車メーカーにとってクルマは、お客様や社会とつながる接点であり、その接点を通じて関係する領域は広がってきています。この時代の変化で大事なのは、自動車メーカーと販売店が協力して、お客様にクルマを通じて総合的なライフスタイルのサービスを提供し、よりよい体験をしていただくこと。e-CRBやSLIM、G-BOOKなどは、その中枢神経ともいえる役割を担っているのです。
----:豊田社長はクルマ作りの指標として、技術的先進性とともに大切な要素として、ユーザー体験としての「味」という言葉をよく使われます。e-CRBやSLIM、G-BOOKといったITを用いた流通革命やサービス向上の取り組みにも、「味」の要素はあるのでしょうか。
豊田:自動車ビジネスの観点でいえば、「商品の味」だけでなく、どのようなものにも「味作り」の側面があります。私はそれを、「先味」「中味」「後味」の3つに分類して考えていますが、自動車販売という観点で見れば、それはお客様が販売店でトヨタブランドと接する時に感じる「体験」の中にあるのではないでしょうか。
例えば、先味とは、店舗を外から見て「入って見たいな…」と思わせる味、すなわちトヨタ車が売られている「空間そのものの魅力」。中味は、実際に「販売店の中でお客様が感じる体験」そのもの。そして後味は、「もう一回、あの販売スタッフに会ってみたいな…」というように、再度その店舗を訪れたいと思わせるような「スタッフやサービスの魅力」ということになります。これらの「味作り」がうまくいっていれば、お客様は次の買い替え時にも、トヨタの店に来てクルマを注文してくれることになります。
まずクルマという「商品の味」へのこだわり。その上で、e-CRBやSLIMなどビジネス上の味作りも併せて行うことで、最高の体験を提供できる環境を用意していく。さまざまな取り組みが積み重なることで、トヨタの「最高の味=ブランド」が創出されるのです。
第1章 トヨタのIT戦略を育んだ新社長・豊田章男の狙い
第2章 世界最先端の自動車ビジネスを展開する中国広汽トヨタ
第3章 かんばん方式を顧客の手元まで拡張する「SLIM」
第4章 顧客とのつながりを強化し利益をもたらす「e-CRB」
第5章 GAZOOからG-BOOK/G-Linkへ。進化するトヨタIT戦略
第6章 レクサスを中心に導入が進む国内の状況
第7章 TOYOTAビジネス革命の意義