【ニューヨークモーターショー10】アメリカEV市場の成長シナリオ…グリーンカー・ジャーナル誌編集長ロン・コーガン氏

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グリーンカー・ジャーナル誌編集長ロン・コーガン氏
グリーンカー・ジャーナル誌編集長ロン・コーガン氏 全 10 枚 拡大写真

ニューヨークモーターショーでEVパビリオンを主催したロン・コーガン氏は米国自動車界では著名なジャ−ナリスト。30年以上の業界経験があり、米国の有力自動車誌『モータートレンド』誌の編集に6年間関わった後、1992年に『グリーンカー・ジャーナル』を創刊した。

最初はニュースレターの体裁を取っていたが、2003年以降は独立した雑誌となり現在に至っている。

彼にもBMWのスタインバーグ氏同様、米国でEVの販売量が新車全体の1割に達する時期はいつ頃だとイメージしているか聞いてみた。

「米国では早くても10年。実際には15年から20年はかかるでしょう」

「アメリカマーケットでEVが普及する過程ではスモール・カーが最初となるでしょう。現在のテクノロジーでは100 - 150マイルの走行距離が現実だからです」

「他の必須条件として市販価格が2万ドルほどになることが必須です。例えば今回のショーで公開された日産『リーフ』。米国での市販価格は政府の援助の後に2万3000ドル程度になるでしょう。しかし現在は政府からの支援で無理に販売価格を下げており、これでは一般への普及が進むとは思えません」

コーガン氏は支援に頼らない価格競争力を条件に挙げた。次にアメリカで市場を作り得るボディタイプについて

「EVの走行距離を伸ばそうとすると、沢山のバッテリーを搭載することとなります。その為まずコストが上がり、スペースも重量もかさみ、充電時間も長くなります。都市部の使用に限定すれば、走行可能距離が少なくても容認され、搭載するバッテリーも少なくなりコストも削減。バッテリー搭載スペースを抑えられるので車体を小さく出来る。高速走行も大きな貨物積載能力も不要となる。現時点では小型車分野でEVは普及していくと考えている」という見方だ。

更に、「EV市場が成長するためには時間以外の要素が必要とされるでしょう」と指摘する。

「何より問題となるのはバッテリーのコスト。全てはこの問題の解決如何です。EVのコストの大半はバッテリー。エネルギーを削減するために大きな支払いを消費者に強いるのは矛盾しています」

「量産によるコスト減は難しいと考えています。量産しなければコスト削減が出来ないが、コスト減が出来なければ普及もしないからです。現在の製造コストは非常に高額。従って画期的な技術革新によるブレークスルーが必要となります。かつて排ガス規制にホンダのCVCCシステムは非常に安価な手法で問題を解決しました。同様の新技術が期待されます」と、これもBMWのスタインバーグ氏の『普及はバッテリー次第』という回答と概ね合致しながらも、この業界での長い経験を持つ氏ならではの冷静且つ的確な分析を披露。

一方米国製のEVスポーツカー、テスラやフィスカーなどについては、「スポーツカーはEVに向いている分野。高コストが許される点は大きな強みですが、いずれにせよニッチ市場でしかありません。しかし話題にはなりやすいのでEVの宣伝のためには重要と言えるでしょう」
と、多くを期待してはいないのが印象的であった。

自動車大国米国といえども、いや自動車大国だからこそEVの将来には様々な懸念が存在し、問題解決には困難も多い。しかしEV市場はかつてのガソリン車とは違い、その市場の創銘期から世界各国のメーカーが協力しあって成長させていくこととなる。

両氏が述べたバッテリー問題のように、自動車産業界以外の分野からの市場参入もますます活発化していくだろう。

今後米国市場におけるEV市場の発展は、以下に柔軟に外部からの協力を得られるかにかかっているものと思われる。これまではその初期から参入企業が世界規模となる産業分野はそう多くはなかった。

米国におけるEV市場は、自動車産業のみならず未来に関わる全ての産業界に対する試金石となるのではないだろうか。

田中秀憲
NYCOARA,Inc.代表。
ニューヨーク在住。
日本国内で広告代理店に勤務の後1999年渡米、独立。
リサーチ/マーケティング専門会社NYCOARA,Inc.を設立。
官公庁、民間企業、調査機関などからの依頼で多様な分野の調査/分析を行っている。
内閣の白書の原案作成や行政機関の資料作成のサポートなどの他、大学での講演、TV/ラジオへの出演や一般のビジネス誌などへの寄稿も多い。

《NYCOARA, Inc. 田中秀憲》

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