【カーマルチメディア・インサイダー】「キーワードは“グリーンモビリティ”」…トヨタ自動車 友山茂樹 常務役員

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トヨタ自動車 常務役員 友山茂樹氏
トヨタ自動車 常務役員 友山茂樹氏 全 24 枚 拡大写真

クルマとITの関わりが、大きく変わろうとしている。

エンジンの燃料噴射装置が電子化されて以降、ITはクルマの神経系統として欠かせないものになった。1990年代後半にはカーナビゲーションが本格的な普及期に入り、2000年代にはテレマティクスも登場。ITはクルマを制御し、ドライバーに様々な情報を与える役割を担ってきた。

そして2010年。PHVやEVでクルマそのものの姿が変わるのと時を同じくして、クルマとITの関わりも大きな変革期に入った。

スマートグリッドなどクルマの利用スタイルの変化。世界的なスマートフォンの普及を端緒とするモバイルインターネット時代の到来にあわせて、クルマのIT活用は新たな段階へと踏み出したのだ。

この新しい世界を拓いているのはトヨタ自動車であり、それを率いているのは同社 常務役員の友山茂樹氏だ。彼はトヨタのテレマティクスサービス「G-BOOK」を立ち上げ、その後、中国に渡ってITによる自動車流通革命ともいえる「SLIM / e-CRB」を構築した。そして今、トヨタのスマートグリッド戦略やスマートフォン連携を率いることで、クルマとITの世界を大きく変えようとしている。

トヨタが目指す未来とはどのようなものなのだろうか。友山常務に聞いていく。

◆根底にあるのは「お客様との接点」という考え方

-----:トヨタのIT戦略を振り返りますと、GazooやG-BOOKにはじまり、中国で作られたSLIM / e-CRB、そして今回は(スマートグリッドの)「スマートセンター」や(スマートフォン連携の)「スマートG-BOOK」など、その範囲がかなり幅広くなっています。

友山:そうですね。我々も最初からしっかりとしたグランドデザインがあったわけではなく、結果として開発したサービスやソリューションが“つながった”という面があります。しかし、その根底にあるものは変わっていません。それは「お客様との接点を広げていかなければならない」という考えであり、現社長の豊田(章男氏)が1996年に業務改善支援室でディーラーの改善活動を始めた時から変わっていないのです。これがすべての原点にあるのです。

-----:そのあたりの経緯は『TOYOTAビジネス革命』でも書かせていただきましたが、e-TOYOTA部が取り組んできたITでの取り組みは、様々な角度からCRM(Customer Relationship Management)を構築してきたものでしたね。

友山:基本的な考え方は変わっていないのです。その時々の技術やサービスをうまく活用しながら、お客様とのコンタクトポイントを拡大し、進化していく。それを具現化してきたわけです。まだインターネットが固定網の時代は「Gazoo」を展開してきましたし、モバイルの通信インフラが発達したことにあわせてテレマティクスの「G-BOOK」を作りました。G-BOOKは2000年代を通じて進化と発展をして、今では日本だけでなく、北米や中国にも広がりました。このように過去から多くのサービスに取り組んでまいりましたが、その根底にあるのは「お客様との接点」をどのように広げて、よりよいものにするか、という考えです。

-----:トヨタとしてのコンセプトはしっかりと存在し、具体的な施策は周辺環境の変化にあわせて柔軟に対応していくわけですね。昨年、注目された広汽トヨタの「e-CRB / SLIM」も、あちらはディーラー/メーカー側の取り組みではありましたが、その根底にあったのは顧客との接点であった、と。

友山:そう考えると、我々の取り組みはシーソーのように「お客様側」と「ディーラー側」を行ったり来たりしていると言えます。e-TOYOTA部の最初の仕事はITによるディーラーの業務改善で、その後にG-BOOKなどコンシューマー向けの施策を行い、再びまたe-CRB / SLIMでディーラー側からのアプローチをしましたから。しかし、どちらも事の本質は同じなのです。

------:そして今回は、スマートグリッドとスマートフォンというITの新たな環境変化に対応するわけですね。

友山:今の周辺環境を捉えますと、PHVやEVでクルマが大きく変化しようとしていることと、スマートフォンが急速に進化し、爆発的に普及していることは見逃せませんからね。それはクルマの今後を見据えても、とても重要な変化と言えます。

------:今秋、発表された「スマートセンター」は、G-BOOKでこれまで培われたテレマティクスの要素がかなり活用されていますね。G-BOOKというプラットフォームがあったからこそ、これだけ早期にPHV/EV時代に必要不可欠なITインフラが構築できたとも言えます。

友山:そういった一面は確かにあるでしょう。しかし、スマートセンターがこれまでのG-BOOKと大きく異なるのは、次世代環境車というものが"社会的なニーズ"でもあるということです。ここがドライバーに向けて利便やサービスを提供する目的だったG-BOOKとコンセプトが違う部分です。

そして、もうひとつ、スマートセンターがこれまで(のG-BOOKなど)と違うのは、グローバルが前提だということです。次世代環境車は世界で展開していくものですから、それとセットになるスマートセンターもグローバルでなければなりません。

◆多様化する車載器の世界

-----:スマートG-BOOKですが、今回これで「スマートフォンの活用・連携」が強く訴求されました。これまで自動車メーカーにとって、クルマの中の情報端末というとカーナビゲーションという考えが一般的であったわけですが、そこから一歩踏み込んだものになっている。友山さんは車載器の今後について、どのようなヴィジョンをお持ちなのでしょうか。

友山:車載器は「物理的にこうでなければならない」という考えは、今後どんどん薄れていくと考えています。今、一般的に車載の情報端末といえば(据え付け型の)カーナビゲーションですが、それが絶対である必要はありません。

---- 友山さんは以前から「DCM (車載通信モジュール)」の内蔵にはこだわっていましたが、確かにカーナビ内蔵にこだわっていたわけではありませんね。以前のインタビューで「カーナビレスのG-BOOKがあってもいい」ともおっしゃっていました。

友山:より正確には「カーナビもひとつのコンテンツ」という考えですね。重要なのはアプリケーションの領域であり、車載器は「どのようなインターフェイスを搭載するか」という部分になってくるでしょう。

---- 従来どおりの据え付け型カーナビのインターフェイスがあってもいいし、スマートフォンを活用したスマートG-BOOKのようなインターフェイスがあってもいい、というわけですね。

友山:インターフェイスというのは2種類あると考えていまして、ひとつは「ヒューマン・マシン・インターフェイス」の部分。そして、もうひとつが「通信インターフェイス」です。それがどういう組み合わせとしてクルマに搭載されるかという部分は、今後は多様化していくのでしょう。

例えば、レクサスのオーナーに「スマートフォンのナビサービスを純正ナビの代わりに使ってください」といっても受け入れていただけないでしょう。やはりレクサスのような(高級な)クルマには、それにふさわしいインターフェイスの在り方がある。一方で、普及価格帯のクルマでは「クルマのカーナビは、スマートフォンのナビサービスで十分だ」という人も増えてくる。カーナビというアプリケーションで考えれば、それをどのような形で求められるかは、やはり多様化していくのだと思います。

-----:確かにその方が、20万円以上の高額な据え付け型カーナビだけしかない時代よりも、G-BOOKのサービスの利用率は高くなりますね。

友山:ただ、安全・安心やクルマの制御に関わる通信インターフェイスはクルマ側が持つべきだとも考えています。ですからDCMの部分は我々トヨタとしてしっかりと取り組みながら、カーナビなどアプリケーションのレイヤーは純正ナビでもいいし、オープンな形での外部連携をしてもいい。

-----:DCMそのものの装着率は増やしていきたい、ということでしょうか。

友山:DCMそのものは増やしたいですね。理想は全車種への装着ですが、現実的には(通信モジュールの部分も)スマートフォンで代用するというアプローチもあるかもしれません。

少し整理しますと、G-BOOKのサービスそのものは“あらゆるクルマから使える”ようにしたい。ただ、G-BOOKのサービスを使う端末や利用方法が、従来どおりのカーナビ型なのか、それともシンプルな車載器とDCMの組み合わせなのか、スマートフォンからの利用になるのか、といった部分は多様化するということです。様々なアプローチを用いて、トータルで見た時のG-BOOK利用率を高めていくことが重要だと考えています。

-----:クルマの情報をセンターで管理する重要性は、PHVやEV時代では増してきます。

友山:その通りです。お客様が自らのクルマのバッテリー残量や充電状況を(リモートで)確認する需要があるだけでなく、クルマのメンテナンスサービスを提供する上でも、バッテリーがどのように使われてきたのか・使われているのかといった履歴情報が確認できることは重要です。ですから、PHV・EVに関しては、必ず(DCMのような)通信インターフェイスがクルマ側に存在する必要があります。外部通信機能を内蔵しないPHV・EVというのは考えられません。

◆トヨタ自らが「プローブのオープン化」をしていく

-----:少しテレマティクスのサービスにも目を向けたいのですが、これまでカーナビ向けのテレマティクスサービスとしては「プローブ渋滞情報」が重視されてきました。昨今ではプローブ情報の共有化議論もなされているわけですが、トヨタとしての考えはいかがでしょうか。

友山:まず、トヨタの状況をお話しますと、現在、全国の道路のうち75%をリアルタイムのプローブ渋滞情報でカバーしています。さらにリアルタイムプローブをいかして、混雑した道路を回避するのではなく、空いている道路を積極的に案内するようにアルゴリズムを変更しています。これにより約15%の走行時間短縮を実現しています。

このトヨタのプローブ情報を共有化すればさらに渋滞が減るのではないか、という議論が当然でてきます。メーカー各社とのプローブ情報の共有化については、リアルタイムプローブにするのか、それとも統計蓄積にするのか。また各社のフォーマットの違いをどうするのかと難しい問題があるわけですけれども、我々としては「自らが率先してオープン戦略をとる」ということを検討しています。

-----:具体的にいうと?

友山:プローブ情報の共有化のスキームをすりあわせるのではなくて、トヨタが考えるプローブ情報のオープン化ポリシーに則って、スマートフォンやパソコンなど汎用機向けにプローブ情報を公開するというものです。そして、その(トヨタの)プローブ情報を他のメーカーやコンテンツプロバイダーに活用してもらう。

-----:イメージとしては、GoogleのAPI公開によるマッシュアップ戦略に近いですね。

友山:そうした(プローブ情報のオープン化という)取り組みをすることで、もっと早く、プローブの恩恵を社会に還元できると思うのです。

-----:なるほど。トヨタのプローブ情報の共有化戦略は、すでにプローブ情報を持つ企業間で相対で共有化を進めるのではなく、トヨタが情報を公開することでプラットフォームを作るというものですね。確かにその方が、アプリやサービスの登場や進化が促せそうですね。しかも、トヨタのプローブ情報がこの分野のデファクトスタンダード(事実の上の標準)になる、という効果も狙えます。

友山:その方がユーザーにとっても、早い段階でベネフィットが生まれるのではないでしょうか。

◆IT・ネット時代に即したアライアンス戦略をとる

-----:今回のスマートG-BOOKで少し驚いたのが、トヨタがスマートフォンにいち早く対応してきたこと。そして、スマートフォン向けナビサービスを提供しているユビークリンクと提携したことです。インターネットの世界では、異なる企業同士が提携して新サービスを作るというのは一般的ですが、自動車業界のパートナーシップというのは「系列」という言葉が表すとおりヒエラルキー型が大半です。しかし今回のスマートG-BOOKでは、トヨタとユビークリンクが相互補完的な提携をしている。

クルマのIT活用、インターネットとの連携がさらに重要になる中で、トヨタの考える(IT分野での)アライアンス戦略とはどのようなものなのでしょうか。

友山:今後の自動車事業を鑑みた場合、グローバルなIT企業と事業の目的やベネフィットを共有し、アライアンスを組んでいくことはとても重要です。これができないことは、(自動車メーカーにとって)大きなリスクになる。これは我々トヨタだけでなく、世界中の自動車メーカーの経営陣が考えていることでしょう。

-----:アメリカでも自動車メーカーとIT企業・ネット企業との距離は縮まっていますね。マイクロソフトやGoogleなどとの連携が加速しています。

友山:クルマの電子化・電動化が進み、それだけITとインターネットが必要不可欠なものになっているのです。従来の自動車ビジネスは製造と販売の部分にしがみついて利益を得てきましたが、クルマが電動化して、モーターとバッテリー、インバーターの世界になると(自動車ビジネスにおける)重要なポイントが変わります。ひとつは素材と部品が重要になり、もう一方でITサービスが必然になるのです。今後の自動車ビジネスにおける付加価値付けにおいて、ITサービスの部分が重要性を増していくのです。

このようなパラダイムシフトが起こりつつある中で、IT・ネットの専門企業とのアライアンスは重要になっていくでしょう。

----:やみくもに自社グループで内製化するではなく、アライアンスを重視する、ということでしょうか。

友山:ITサービスやネットの世界は進化が速いですから、すべて自社グループだけでやっていたら追いつきません。また、IT世界ではある時点での完成度・品質の高さや完璧さではなく、持続的にソフトウェアやサービスが進化し続けていくことが重要になります。

---- 何もかもがトヨタクオリティでは、ITとネットのスピードに追いつけない。

友山:ええ。ですから、進化のスピードに適応していくという点でも、自動車メーカーがしっかりと品質を追い求めていかなければならない部分と、IT・ネット企業のスピード感でやっていった方がいい部分は切り分けた上で、適切かつしっかりとした形でアライアンスを組んでいく方がいいと考えています。

◆ヒト・社会・クルマの親和を目指した取り組みとは

----:今年はいよいよ2010年代が始まった年であったわけですが、自動車ビジネスの視座で考えますと、ひとつのターニングポイントが2012年です。ここでPHVやEVが本格普及期に入り、さらにスマートグリッドのような世界観も動き出すでしょう。

友山さんは2012年以降の自動車ビジネスをどう考えているのか。ポスト2012年ビジョンをお聞かせください。

友山:いくつか重要な要素がありますが、ひとつは「ヒト・社会・クルマの親和」、もうひとつが「モビリティとしての多様性」などが、2012年以降は重要になっていきます。これらをひとつにまとめると、「グリーン・モビリティ」というのがキーワードではないかと考えています。

-----:今後のモビリティの進化は、速いものになるのでしょうか。

友山:なりますね。それはPHV・EVなどへのシフトといった単純な構図ではなく、モビリティそのものの価値観の変化や多様化が急速に進むということです。その中で、ひととクルマ、社会とのつながりも(今よりも)さらに重要になっていくでしょう。

-----:ありがとうございました。

《神尾寿》

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