●試乗して新型キャンターの魅力を実感
発表会当日にも試乗車が用意されていて、会場周辺で試乗することができた。
発進はスムーズなもので、ゆっくりと走っている時には、エンジン回転数の上下動の緩慢さに合わせてDUONICもゆっくりと変速をしてくれる。しかし、大きくアクセルを踏み込めばDUONICが素早くシフトアップして、途切れることなく加速を続けてくれることを確認できた。エンジンもフラットなトルク特性で、ディーゼルとしては高回転な4000rpm以上までスムーズに回る。
ただ、気になる点もいくつかあった。ATモードで走っている時にシフト操作をすると、自動的にMTモードに移行する。しばらくしてもATモードには戻らず、そのままMTモードで固定されてしまうので、急加速などしたい時にはアクセルを大きく踏み込んでもキックダウンはしてくれない。ECOモードも同様に積極的にシフトアップはしてくれるものの、キックダウンはしてくれないため、もたついてしまう状況に陥ったことがあった。
実際にはシフトレバーを左側に押せばATモードに瞬時に戻るし、ECOモードからの復帰もスイッチ一つで可能なのだから、慣れが解決する問題である。
そんなことより気付かされたのは、自分がいつしか乗用車の評価軸で、このキャンターを運転していることだった。
内輪差にだけ気を付ければ、ハイエースのディーゼルと変わらない感覚で運転できた。これなら筆者でも明日からトラックドライバーとして働けるかも知れない。そう思える運転感覚だった。
トラックでここまでの快適性を備えていることには驚いたが、ドライバーの疲労低減や生き生きと仕事をするために、きっとこの快適性は役立ってくれるハズだ。
新しいキャンターは「環境」、「経済」、「安全+α」の3つが開発の大きな柱だったと言う。従来型に乗らずとも、それらが大きく改善され、目的が達成されていたことは確認できた。
走っていても、排ガスがクリーンなことはドライバーが意識することはない。けれども、持続可能な社会を作るために、クルマが生き残っていくために、新ポスト長期という厳しい排ガス規制をクリアしていることは不可欠な条件だ。
キャンターは、ダイムラー・トラック部門において、世界中で最も売れている車種なのだそうだ。そんな世界中で支持される小型トラックが、全世界に対応する環境性能と安全&快適性を備えた。キャンターの優位性は、当分揺るぎそうにない。
筆者:高根英幸(たかね・ひでゆき)---芝浦工大卒。自動車販売会社、輸入車専門誌の編集者を経てフリーランスに。メカニズムへの探求心とドライビングの楽しさを追求する、独自の視点をもつ自動車ジャーナリスト。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。