【池原照雄の単眼複眼】容易ではないが「日常」を取り戻すこと

自動車 ビジネス 企業動向
豊田章男社長(販売店)
豊田章男社長(販売店) 全 4 枚 拡大写真
◆生産再開が精神的なバックボーンに

自動車生産の本格復帰は、震災から3週目に入った現在も「メドが立たない」(トヨタ自動車)状況にある。これだけ長期の生産停止は2次大戦の戦時下や終戦時以来である。そうした中でも、在庫部品などを使った車両組み立てが各社で細々と立ち上がりつつある。

28日にはラインを動かし始めたトヨタの堤工場(愛知県豊田市)での従業員の出勤風景がテレビで報じられた。部分的にせよ工場が動くという、これまでは当たり前だった「日常」の復活に、自分でも驚くほど感動した。自動車に限らずすべての産業界が一歩一歩、日常を取り戻すこと、それが経済面だけでなく日本復興への精神的なバックボーンにもなると改めて実感した。

トヨタの生産は、堤工場とトヨタ自動車九州での『プリウス』、レクサス『HS250h』などハイブリッド車3モデルで再開された。いずれも2直での操業だ。ただし、堤工場は2ラインが動いたものの、トヨタ九州ではまだ2ラインのうち1ラインのみとなっている。


◆「問題アイテム」をひとつずつつぶす

生産量は明らかにしておらず、部品の供給状況などを慎重に見ながら、恐らくゆったりとラインが動き始めたのだろう。それでも「本格復興に向けたマイルストーンになる」(広報部)と、従業員の表情にも一条の光が射している。

同社によると部品の在庫状況や調達の持続可能性、そして需要が比較的大きいという要素を総合的に判断してハイブリッド車シリーズからの立ち上げになったという。

自動車各社は個別の取り組みだけでなく、日本自動車工業会として共同戦線を張りながら、サプライヤーの復興支援に乗り出している。各社は調達が途絶えている部品や資材を洗い出し、それぞれに異なる対策を講じていくわけだが、「問題アイテム」をひとつずつつぶす作業が休日返上で進められている。


◆機械や設備の音が響き渡る日常を

トヨタの場合、震災直後から調査が進むに連れて膨れ上がっていた問題アイテムは先週末当たりから早いペースで減少するようになったという。それでも、28日にはまだ数百件のオーダーで要対策の部品が存在しているのが実情だ。

同社の豊田章男社長は27日に宮城県の車両組立子会社であるセントラル自動車宮城工場やトヨタ販売店などを訪問。現地の模様や復興への決意を、29日にホームページに掲載した。

このメッセージで豊田社長は「工場では、機械や設備の音が響き渡る中、メンバー全員が明るく声をかけながらモノづくりに励んでいる。販売店では『いらっしゃいませ』というお客様を迎えるスタッフの元気な挨拶が聞こえる」という「日常」を、1日も早く取り戻したいと訴えている。容易ではない復興に挑む産業界の想いが、ここに凝縮されている。

《池原照雄》

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