◆米メーカーではHVでトップのフォード
トヨタ自動車が米フォードモーターと小型トラックおよびSUV用の次世代HV(ハイブリッド車)システムを共同開発することで合意した。この提携はトヨタにとって、北米でのHV需要掘り起こしにとどまらず、新たな日米産業協力による米国での同社のイメージ回復など、多くの副次的な効果ももたらす。
両社は2004年から、トヨタがHVのシステム制御に関する特許をフォードにライセンス供与する関係にある。今回の合意は一方が供与する関係から「対等な協力関係」(両社の発表文)へと発展させるものとなる。HVの先駆者利益であるトヨタの知的財産の威力がフォードとの新たな提携を引き寄せることになった。
フォードは自社の特許技術とトヨタのライセンスを基に04年から『エスケープ』を手始めとしてHVを市場投入した。これまでの累計販売は約17万台と米メーカーではトップの実績をあげている。主力セダンの『フュージョン』は昨年、2万台強のHVを販売しており、同モデルには不可欠のバリエーションとなっているのだ。
◆「対等な協力関係」構築の接点
コンポーネンツの調達も含めトヨタからライセンスを受けた日産自動車の『アルティマHV』が、契約が切れた今年5月までの5年間で約3万5000台の販売にとどまったのと比較しても、フォードがHVに注力していることが分かる。技術者レベルでは忸怩たる思いがあるとしても、トヨタからのライセンスを有効に生かしているのがフォードである。
こうした関係をベースに両社は「米国社会ではなくてはならない存在の小型トラックとSUV向けの新HVシステム」(内山田竹志トヨタ副社長)という、「対等な協力関係」を構築するに格好の接点を見出した。とりわけ、トラック用のHV開発をフォードと一緒に手掛けることのトヨタのメリットは大きい。フォードはフルサイズピックアップで北米ナンバーワンの存在であり、「一日の長」があるからだ。
また、一昨年来の品質問題で政府や議会筋からバッシングを受け、いまだブランドイメージは回復途上にある。それだけに、GM(ゼネラルモーターズ)との合弁生産解消で途絶えた日米産業協力が、環境技術というシンボリックな形で復活するのもトヨタには間違いなくプラスになる。
さらに、激しい追い上げを見せる韓国・ヒュンダイ自動車にはできない芸当であり、HVでの技術力や知的財産の蓄積の差を示すことにもつながろう。
◆30年前には交渉決裂の苦い歴史も
ただ1点気がかりなのは、具体的な開発テーマを固めるためのフィージビリティスタディを12年末までという長丁場にしていることだ。慎重に進めたいという両社の意向なのだろうが、交渉には相互の譲歩も含め、ある程度のスピード感が必要となる。
両社の提携交渉では、かつてこんな歴史もある。日米間の自動車摩擦が激化し、日本メーカーの現地生産が求められていた1980年、トヨタはフォードに米国での合弁生産を提案した。
当時の豊田英二社長(現最高顧問)とドナルド・ピーターセン社長のトップ会談で本格的な交渉が始まったものの、生産車種で折り合えず、翌81年に1年余りの交渉は決裂したのだった。その後83年にトヨタはGMとの合弁生産に合意する。
ある空港でばったり会って、今回の交渉に漕ぎつけたという現在の両社トップには、30年前の跌を踏まないよう、ここぞという時のリーダーシップが求められる。