【ホンダ N BOX+ 試乗】アクティブなユーザーに最適…井元康一郎

試乗記 国産車
ホンダ・N BOX+ カスタム
ホンダ・N BOX+ カスタム 全 6 枚 拡大写真

ホンダが7月に発売した軽規格のトール(背高)ミニバン『N BOX+』。先行デビューした『N BOX』と基本的に同ボディだが、車内のフロアの後ろ半分が福祉車両の車いす仕様車のようにスロープ(斜面)化されている。バックドア開口部下端の地上高は330mmと、ノーマルのN BOXより150mmも低い。

その傾斜床、バックドア開口部の低さが生む積載性の良さこそが、N BOX+の最大の特色と言える。トールミニバンを所有したことがあるユーザーなら誰もが実感するであろうことは、大きな荷物を載せるのが案外大変なこと。

たとえば自転車をミニバンの後席を畳んで積み込むケース。車体を開口部の仕切りより高く持ち上げ、フロアに倒れないようにうまく着地させるのは、やってみると至難の業だ。が、開口部下端の地上高が低く、段差もないNボックスプラスの場合、前輪を少し持ち上げ、自分も乗り込みながら転がして搭載することができる。また、磯釣りの獲物を入れた大型のアイスボックス、大型家電のダンボールなど、後席ドアを通らないような貨物も、高々と持ち上げた後、室内に半分投げ出すように載せるようなことなく、スルリと積めるだろう。

さて、便利極まりないN BOX+のドライブフィールはどうか。試乗車として用意されていたのはターボエンジンを搭載した「N BOX+ カスタム ターボパッケージ」。クルマの味付け的には普通のN BOXのターボモデルとほとんど同じで、美点も欠点も相通ずるものがある。

競合するトールワゴンモデルを圧倒しているのは乗り心地と操縦性、剛性感だ。試乗コースは千葉県袖ヶ浦市の東京ドイツ村周辺。地方道ながら道路の整備状況は悪くなく、クルマにとって過酷な環境ではなかったが、それでも路面の舗装の荒れたところや橋の継ぎ目などを踏んだ時に、路面衝撃の吸収力の高さは十分に実感できた。単にショックを和らげるだけでなく、踏んだ後の振動減衰の良好さも特筆すべきレベルで、ブルブルという不快な微振動がほとんど残らない。他のモデルで言えば同じホンダのコンパクトカー『フィット』のマイナーチェンジ版に似たフィーリングだ。

乗り心地と並ぶ美点は操縦性の良さ。全高が1780mmと、全幅より305mmも大きいにもかかわらず、少なくとも一般道を常識的な速度の範囲で走るかぎり、カーブでロールするときもロールから復帰する時も挙動がとても穏やかで姿勢の乱れはごく少ない。

試乗コースには急カーブの連続するワインディングのようなシチュエーションはなかったが、筆者は試乗日の少し前に普通のN BOX カスタムターボパッケージで東京-茨城北部間を1日で400km以上ドライブしていた。奥久慈方面にはタイトなワインディングロードが連続する県道が多数存在するるが、N BOXはそういうワインディングでもぐらつきがほとんどなく、ノーストレスで走ることができ、その際のボディのたわみ、きしみもほぼ皆無だ。フロントシートの体圧分散が良好であることも手伝って、軽自動車としては異例のロングツーリング耐性の高さを持っていると言える。N BOX+も同様の特性を持っていることは想像に難くない。

ちなみにこの乗り心地、操縦性の良さだが、ターボモデル限定のものという噂を耳にした。開発に携わったエンジニアによれば、「ターボはフロントサスペンションにスタビライザーバーを装備しているため、コイルばねのレートを低くできた。スタビライザーバー未装備の自然吸気モデルは、サスペンションのばねでロールをすべて受け止めなければならないため、固くせざるをえない。その違いが感じられるのかも」とのことだった。

一方、あまり印象が良くない部分として挙げられるのは、まっさらの新型エンジンを載せているにもかかわらず大して良くない燃費だ。試乗コースは一旦停止が多いドイツ村の場内を2周し、その後に信号が数か所ある一般道を走るというもので、距離も合計で約8kmと短く、細かい検証はほとんどできなかったが、オンボードコンピュータ上の平均燃費はちょうど16km/リットルというものだった。

数値自体はそこまで悪いようにも見えないが、東京から試乗会場までの移動に使ったホンダの2リットル級ミニバン『ステップワゴン』が思いのほか燃費が良く、試乗会場周辺を走り回った平均燃費計の数値が17km/リットルを超えたのを目の当たりにすると、どうしても見劣りする。

エンジン開発担当者は「ターボはアイドリングストップを装備していない。それを考慮すると、JC08モード燃費19.4km/リットルは(スズキ、ダイハツなど)ライバルのトールワゴンのなかではトップ」と反論する。

それはある意味事実ではあるのだろうが、スズキ『パレットSWターボ(アイドリングストップ未装備、JC08モード燃費18.2km/リットル)』のK6A型3気筒エンジンが基本型のデビューから18年、ダイハツ『タントカスタムターボ(アイドリングストップ装備、JC08モード燃費22.2km/リットル)』のKF型が同様に7年経過していることを考慮すると、新規開発の次世代エンジンがアイドリングストップ未装備で20km/リットルを超えられず、実燃費でも明確なアドバンテージを示せないのは少々寂しい。前出のエンジン開発担当者は「新型エンジンの基本設計には自信がある。これからどんどん性能をアップさせていく」と意気込みを見せている。今後に期待したいところだ。

ほか、細かい欠点としては、小さい交差点の停止線付近に止まると、信号がルーフ前端に隠れて見えないというものがある。独創性豊かなエクステリアデザインの副産物のようなものだが、停止位置が悪いと体を前傾させて信号を見上げる必要がある。一方で、バックドアにはバンパーまできっちり見える凹面鏡の後方確認ミラーがついており、ルームミラーに映った後方確認ミラーの鏡像を見るだけで壁や駐車枠ギリギリに停められるという便利機能も。距離のつかみやすさはカーナビのバックモニターよりはるかに良好だった。

総じて、Nボックスプラスはツーリング性能の高さ、積載性の良さなど、魅力的なモデルに仕上がっていた。軽自動車を日常の足としてだけでなく、週末や長期休暇には行楽やロングドライブにも使いたいといったアクティブなユーザー層にとっては、特にうってつけと言えるだろう。

《井元康一郎》

井元康一郎

井元康一郎 鹿児島出身。大学卒業後、パイプオルガン奏者、高校教員、娯楽誌記者、経済誌記者などを経て独立。自動車、宇宙航空、電機、化学、映画、音楽、楽器などをフィールドに、取材・執筆活動を行っている。 著書に『プリウスvsインサイト』(小学館)、『レクサス─トヨタは世界的ブランドを打ち出せるのか』(プレジデント社)がある。

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