新型となったスズキ『ワゴンR』のデザインは、初代から受け継がれてきた普遍性と、ニューモデルとしての新規性を両立させることが重視された。
その新規性について、スズキ四輪技術本部第一カーラインチーフデザイナーの村上俊一さんは、まず先代モデルは、(サイドビューで見た時の)ウェッジがとてもきつく、止まっていても動き出しそうな、ダイナミックなデザインだったと振り返る。それに対して新型は、「ベルトラインの後端を25mm下げ水平基調に戻し、安定感を重視したプロポーションにしました」。また、「ルーフのウェッジも後ろを(空力要件もあり)20mm程下げました。これにより、サイドビューの姿勢を、安定感重視の方向としたのです。同時に、フードや他のキャラクターラインも水平基調にしています」
次に、「フロントノーズのピーク(サイドから見て最も出ている部分の位置)を上げ、(先代のような)スラントノーズではなく、なるべく立てるようにしました。これで顔の塊り感を出し、フロントマスクの強さも出たと思います」。同時に左右方向のプランカーブも変化させている。
最後は、Cピラーに沿ったリアのサイドウインドウが、リアドアハンドル側に入るあたり(のCピラー部位)にボリュームを持たせ、テールランプ上部あたりをピーク(最も出ている部分)にしたという。「これでリアの倒れ込みをかなり抑えることが出来ました。つまり、フロントもリアも立ち、全長は同じでも、長さを感じさせるデザインにしたのです」と述べる。ここでも、「伸びやかで安定感のある方向を狙いました」
このように安定方向へシフトした理由について村上さんは、「先代が開発された時代はリーマンショック前で世の中の勢いもあり、全体的に上昇志向という空気がありました。しかし、新型はリーマンショック以降で、世の中の動き自体が、メンタルな部分でも少し保守的で、安定志向のような空気感があったと思うのです」とし、「やはり派手さや変わった感というモノよりも、良いモノ、飽きの来ないモノをじっくり長く使おうという志向が強まってきたと感じたのです。そこでデザインも、安定志向で、飽きない良いモノを創ろうとしました」。そして、「これは初代にも通じる部分で、そのスピリットや良い部分が少しでもこの5代目に込められたらという想いがずっとあったのです」と語った。