【インタビュー】EV普及は踊り場、ワイヤレス充電が敷居を下げる…三菱自動車

エコカー EV
三菱自動車 EVビジネス本部 上級エキスパート 和田憲一郎氏
三菱自動車 EVビジネス本部 上級エキスパート 和田憲一郎氏 全 6 枚 拡大写真

三菱自動車の電気自動車(EV)『i-MiEV』の発売から3年が経過した。i-MiEVの開発に携わったEVビジネス本部上級エキスパートの和田憲一郎氏は、EV市場全体が今、踊り場を迎えているものの、ワイヤレス充電が実用化されると一気にハードルが下がるとみている。

----:i-MiEVの発売から3年が経過しました、これまでの歩みからまずお聞かせください。

和田氏(以下:和田):私がi-MiEVの開発に携わったのは2005年の秋からです。その時にはすでに研究部門でEVの要素技術が作られて、試験車も出来つつありましたので、量産車にするプロジェクトの取りまとめを任されました。

EVの量産車は会社としても初めてのことなので、国内7つの電力会社と実証試験を行いましたし、残る3つの電力会社でも車を持ち込んで確認もしました。国内では実際に30万km走行しました。海外もアメリカの電力会社を始め、世界中に持ち運んで確認してもらって20万km、合計50万kmの実証試験をしました。

発売前までに、これほどの実証試験をやったのはこれまでに例がありません。しかも50万kmというのは社内の確認試験をやった後ですから、普通は短い期間でそこまでやることはできませんが、あえてそれをやった上で、発売させて頂きました。

それでも発売した時は非常に心配しましたね。ところが最初の段階から大きな不具合はほとんどなくて、車としてはうまくいった方じゃないかなと思っています。車に対するお客様からの評価では、非常に静かで環境に良くて加速性能も良いという半面、いくつかの課題も指摘を頂きました。まずは価格が高いということと、そしてやはり航続距離の問題が大きかったですね。

----:2011年にはi-MiEVの航続距離を180km(JC08モード)に伸ばした仕様と廉価グレードを設定しましたね。

和田:当初、航続距離160km(10・15モード)で発売しましたが、これは私どものガソリンエンジンの軽乗用車『i(アイ)』のお客様であれば、たいていは満足する距離だという考えで設定しました。

ところが実際にお買い求め頂くと、走りがスムーズで気持ち良いので、どんどん走りたくなります。しかも、ガソリン車のモード燃費に比べて、EVは特にエアコンやヒーターを作動させた時の削減率が大きい。そのため、お客様の予想よりも早く電池がなくなるということで、もう少し走れる距離を伸ばせないか、というご意見がかなりありました。

その一方で、EVは欲しいけど値段が高いので手が届かない。買い物や子供の送り迎えでちょっと走るだけなので、航続距離は短くても良いから価格を安くしてくれませんかという意見も多く頂きました。

これは悩みましたね、言っていることが真逆ですから。長くして欲しいという人もいれば、短くても良いから値段を下げてほしいと言う人もいる。しかし今の段階では両方を満足させることができない。そこで思い切って2つのグレードを出すことに決めました。

これは社内でも、かなりの議論がありましたが、容量が従来の16kWhに対して10.5kWhという7掛けに近い電池を造りました。電池の容量が減れば電池のコストも下がるわけですから、販売価格もぐっと落ちるということもあって出すことにしました。

----:実際の販売比率はどうなってますか。

和田:6対4くらいで航続距離が短い「Mグレード」が多いです。特にMグレードのお客様はEVの特性を良くご理解頂いた上でご購入頂いていますね。充電できる場所がどこにあるのか調べて、東の方に行く時は、ここで充電してとか頭の中でマッピングをしながら楽しんでるようです。

----:商用EVも商品化しました。

和田:軽商用バン『ミニキャブMiEV』も2つのグレードがあります。来年初頭にはEVトラックを発売しますし、『アウトランダー』をPHEV化したものも出します。i-MiEVから始まったEVのラインアップが徐々に増えているという状況です。

----:CHAdeMO協議会では日本国内の急速充電器の初期整備がほぼ完了し、次のフェーズに移る段階としていますが、EVそのものの普及はどういう段階にありますか。

和田:最初、勢い良く上がりましたが、今は踊り場にあるんじゃないかなと考えています。踊り場といっても真っ平らではなくて、若干のアップダウンがある。ダウンというのは決してEVがダメになってしまったという事ではなくて、ガソリン車で燃費の良いものが出てきたり、ガソリンの価格が下がるとEVよりもこっちが良いかなとか、いろいろな要因があります。いずれにしても今は大きな局面でいうと踊り場だと思っています。

これから先どうなるかというと、最終的にはEVやPHEVが伸びていくと思っています。いくら燃費が良くなったといっても石油系はどうしても不安定ですし、CO2の問題もある。その時にどうするのかといわれた時に手段がないと、掛け声だけでは済まないというところがあります。

なおかつEVでいえば、ある程度のインフラができて、そしてコストもこれから少しずつ下がっていく段階において、いよいよ出番が近いなという感じがしています。(急速)充電インフラも今では1300か所に設置されています。我々は2000か所を超えてくると、「どこにでもある」という風に一般のユーザーから見えるようになると思っています。

またi-MiEVは発売当初、車両価格460万円で始まりましたが、少しずつ下がりつつある。いわゆるブレークスルーポイント、インフラと車両価格のクロスポイントというものが、そう遠くない時期に、我々は2014~2015年とにらんでいますが、そういう時期が来ると思っています。

そうなるとEVを購入する層が、これまでの新規性を求める人たちから、アーリーマジョリティといわれている、一般的にバリューフォーマネーを重視する人たちにいよいよ移り始める。今は、ちょうどその端境期にあって、それがうまくできれば、EVが世の中に受け入れられると我々はみています。そこを上手く、助走を付けながら移行できるようにしていくことが我々の役目かなと思っています。

----:2012年4月に給電装置を発売しました。

和田:EVは充電して走る。ガソリンを入れるのと同じように電池に電気をためて走るという、私自身も開発に着手した2005年頃は、そういう概念でした。ところが根本的に考えが変わったのが去年の東日本大震災です。災害が起こると電気は簡単に途絶えてしまう。電気が来ないと携帯電話の充電ができなくなるし、信号も消えてしまう。

i-MiEVの「Gグレード」は電池容量が16kWhですので、一般の戸建ての1.5~2日分を賄えるだけの電気を蓄えているのです。そこで急きょ開発したのが『MiEV power BOX』でした。EVは個人もしくは企業などの所有物ですが、何かが起こった時に、EVが持っているエネルギーを被災地に持っていって使えるし、やり方によってはパブリック分野でもカバーできるような要素を備えています。

例えば、太陽光や風力などの再生可能なエネルギーを蓄電池にためて、それをEVに充電する。そのEVに乗ってビニールハウスのある所まで移動した上で、ハウスの中のファンを回したり天井の開閉などで使う電気をEVの電池で賄うといった実証実験を、宮城県岩沼市でやろうとしています。

----:米WiTricity社、IHIと共同でEVの非接触充電に関する研究開発に着手しました。

和田:今、EVユーザーの最大のネックは何かと考えた時に、携帯電話もそうですけど、充電しなければいけないということが大きい。充電するという意識を無くすことができれば、ユーザーにとって極めて利便性が高くなります。そのためにはワイヤーが無い方が良い。電力線のワイヤレスというものが微小電力から進み始めていますので、何とかこれを実用化に向けてできないものかと考え、共同で研究開発することで合意しました。

こういうことができれば、EVに充電するという煩わしさから解放される。それはとりも直さず、EVに乗り換えようと考えている人達へのハードルが一気に下がると私は思っています。

----:実用化のめどはどうですか。

和田:ワイヤレス化にはまだまだ課題があって、これは行政や国際的な標準化機関と一緒になりながらひとつひとつ詰めていかなければなりませんが、我々は5年以内に少量での実用化を狙っています。

和田氏は、10月30日、31日に開催されるEVバッテリーに関するカンファレンスイベント「PHEV/EV Infrastructure and Business Japan 2012」に登壇予定。EVの進化によるエネルギー変化をテーマに講演する。

■PHEV/EV Infrastructure and Business Japan 2012
会場:ヒルトン東京(新宿)
日程:10月30日~31日
http://www.evupdate.com/electricvehiclejapan/jp-index.php

《小松哲也》

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