トヨタ『ヴィッツ』によるワンメイクレース、「ネッツカップ ヴィッツレース」が開催13年目を迎えた。
1981年に始まった「スターレットワンメイクレース」を含めると、30年以上の歴史を持つこのレースには、歴史のなかで培われた文化や参加者達のオープンなマインドが根付いている。
11月17日、日本一の“ヴィッツ使い”を決定する「ヴィッツレース」グランドファイナル戦が開催された。ヴィッツレースの参加者が集まるテントでは、クラッシュしたマシンの復旧作業を行なうチームスタッフの姿があった。
この日クラッシュに見舞われてしまったのは、予選タイム7位のポジションを獲得した堀内秀也選手。「車をぶつけてしまったので、今晩は嫁さんに怒られてしまいます」と堀内選手は笑う。「僕は、車を買ったネッツトヨタ中部チームの一員として参戦しているので、車が壊れた時にもしっかりと修理をして頂けるようになっているんです」と説明してくれた。
ヴィッツレースへの参加をサポートするネッツ店は、全国に24存在する。堀内選手もネッツ店のサポートを受けてレースに参加した一人だ。チームスタッフによる懸命の復旧作業により、見事決勝レースにも参加。最終結果は、予選の7位から11位とポジションを落としてしまったが、レースを十分に楽しんだようだ。
堀内選手は「サーキットトライアルなどに参加していたのでヴィッツレースにも興味がありました。新型モデルが登場したことで“参加しよう”と決断して購入しました。参戦当初の成績は全然だったんですけど、夏頃からヴィッツレースに慣れてきました」と言うが「今回のレースはこれまでの中では最上位だったのですが、クラッシュしてしまい残念です」と、悔しい気持ちをにじませた。
しかし、参戦一年目にして予選7位と上々の成績を残した堀内選手。「僕がいるチームに2011年関西チャンピオンの神谷裕幸選手がいて、走りを教えてくれたり車のメンテナンスなどもしてもらって、チームのエースとして全員を引っ張ってくれています。やはり自分は会社員なので、レースに出続けることが今のところの目標ですが、いつかは年間表彰式の表彰台に上ってみたいですね」と意識は高い。
レースのサポートにとどまらず、自らチームを作って参加する販売店もある。ネッツトヨタ静浜はその一つだ。チーム代表の津島守さんは「新人研修もかねて、レースという楽しさの中でお客様のサポートをすることが、通常の業務にも役立つのではないかという狙いで参加しています」と話すが、チームスタッフの一人である杉田広規さんは、サポートだけでは飽き足らず自身でも車両を購入して参戦するようになった。
個人でも気軽に参加し、レースを楽しめるのがヴィッツレースの特徴であるが、チームとして参戦することでレースに対するモチベーションアップにも繋がっているようだ。
ネッツトヨタ仙台チームのエースとして参戦する小山昌子選手は、2011年シーズンのグランドファイナル戦を制した同レース上位ランカーの一人。小山選手は「上達のための一番の早道は、速い人に聞いてしまうことだと思います。速くなるためにどういうことをしたらいいとか、ライン取りなんかを教えてくれる人や雰囲気がこのヴィッツレースにはあります。これは、初めてレースを経験する人にとって、とても良いことだと思います」と話す。
今年の関西シリーズチャンピオン平岡塾長選手も「要は真似したらいいんです。上手い人の後ろを走ればラインは丸裸ですし、足りないものを自分でプラスすることで勝ててしまうので、僕は単純発想でやってます」と上達の秘訣を教えてくれた。
「今、僕はライン取りからセッティングまで、全ての情報やモノを隠さずに教えています。たとえ優勝争いするドライバー達であっても、車載映像が欲しいと言われれば送ります。正直言うと、今は僕をコテンパンに負かしてくれる選手が登場してくれることを望んでいます。そうすることで、関西シリーズのレベルを底上げしたいと思っていますし、これからレースを始めようと思っている若い人達も手助けしていけたらいいと思っています」と、平岡選手はチームのことにとどまらず、ヴィッツレース全体のことを考えている。
こう語った翌日、平岡選手は今シーズンのグランドファイナル戦を制し、日本一のヴィッツ使いの称号を得た。
ワンメイクレースは参戦車両やサーキットといったハード面だけを用意するだけでは完成しないようだ。販売店のサポート体制や参加する人達が作り出す雰囲気や文化、レースを牽引するエースの登場で常にレースを盛り上げるといった、参加者を飽きさせないソフト面の充実が、名前を変えながらもワンメイクレースとして30年以上の歴史を誇る「ヴィッツレース」が継続している理由なのかもしれない。