【中田徹の沸騰アジア】インド自動車産業の現在と将来…インドセミナーに寄せて

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経済産業省『我が国ものづくり産業が直面する課題と展望』より抜粋
経済産業省『我が国ものづくり産業が直面する課題と展望』より抜粋 全 2 枚 拡大写真

2008年9月に起きたリーマンショックと世界経済危機の後、欧米などの先進国の経済成長が低迷する一方で、BRICsに代表される新興国の存在感が一気に膨らんだ。

最近ではBRICsの経済失速が顕在化しているが、中長期的な成長余力に疑問符が付いたわけではない(ただし、各国政府には対策が問われる)。そして自動車産業をみたとき、世界一の生産・販売大国にのし上がった中国が何と言っても目立つ存在だが、最大のポテンシャルを内に秘めるのが人口12億を抱えるインドだろう。インド自動車産業は今、その潜在性と高いコスト競争力を背景に世界から熱い注目を浴びている。

■自動車メーカーは投資を拡大

インド自動車(四輪)市場は2012年、前年比9.0%増の358.7万台に拡大した。全般的な景況感の悪化や金利高(インフレ抑制重視)などの懸念材料はあるが、SUVやコンパクトMPV、小型セダンなどの新車効果が追い風となり、4年連続で過去最高を更新。これによりドイツ市場を抜いて世界5位に浮上した。

需要拡大が続くなかで、現地系、外資系を問わず自動車各社がシェア獲得・拡大に向けて生産能力の整備、製品投入、販売・サービス網の拡充などを進めている。また、低廉な労働力などを背景に輸出拠点化を進める外資メーカーが増えている。

1983年に現地生産を始めたマルチスズキは、150万台の車両生産能力を持ち、スケールメリット(コスト競争力)と厚い製品ラインアップを武器に乗用車市場で40%近いシェアを握る。また、超低価格車『ナノ』で一躍有名になったタタモーターズは、乗用車市場では苦戦しているが、インド独特の廉価ミニトラックでは圧倒的なシェアを持つ。SUV最大手の現地系マヒンドラは、近年最も販売を伸ばしているブランドのひとつだ。最大の車両輸出メーカー現代自は、乗用車市場でマルチスズキに次ぐシェア2位を維持している。

トヨタ、ホンダ、日産、GM、フォード、VWなどは2009年頃から「売れるクルマ」を市場投入し、シェア獲得に本腰を入れるようになった。2006年に自動車産業政策AMP2016が発表され、全長4m以下の小型車に対する優遇策導入が市場拡大のきっかけとなったが、外資大手はこれに対応して『エティオス』、『ブリオ』、『マイクラ』、『ビート』、『フィーゴ』、『ポロ』といった70万円前後のインド戦略車を販売開始。多数のブランドが一挙に量販セグメントに参入しており、群雄割拠の様相をみせている。

■急速に変化する事業環境、日系苦戦の場面も

世界有数の自動車大国となったインド。その競争環境は厳しく、また目まぐるしく変化している。

10万ルピー(20万円弱)の超低価格車が走るインドは、世界でもっとも厳しいコスト競争が繰り広げられている国と言えるだろう。こうした中で、一部の日系サプライヤーについては従来からの取引関係を維持できず、インド現地系企業に受注を奪われるケースもある。例えば、現地工場を展開するトヨタ系内装部品メーカーはトヨタエティオスのシートを受注できず、コスト競争力に優るタタグループ企業に年間10万台以上の重要プロジェクトを奪われる結果となった。

また、最近俄かに需要が高まっているのがディーゼル車で、SUVを含む乗用車市場の5~6割を占める状態となっている。そして、ディーゼル車を巡っては日系の劣勢が懸念される。マルチスズキ、トヨタ、ホンダ、日産の4社の乗用車市場シェアは約50%だが、ディーゼルエンジン技術をベースに考えるとシェアは3割強にまで低下。マルチスズキのディーゼルエンジンはフィアットが開発したものだ。車体に付いているバッチベースではフィアットの市場シェアは1%にも満たないが、エンジンベースでは20%を超える。日系企業は見た目ほどインド市場成長の果実を享受できていないのかもしれない。

■成長ポテンシャルの背景

日系企業にとって、インドは決して容易な市場ではない。しかし、最も魅力的な市場のひとつでもある。

2015年、インドの1人当たりGDPは2000ドルを超えると見込まれるが、3000ドル程度で始まると言われるモータリゼーションに達する前に日本市場の規模(500万台前後)に並ぶことになりそうだ。そして2020年には1000万台に到達すると予測され、米中に次ぐ世界3位に躍進する可能性が高い。

この理由として、12億を超える人口規模と車両保有率の低さが挙げられる。インドの四輪車保有率は、急速に都市化が進むニューデリーなどでは100台/千人を超えるが、全国平均では20台/千人に留まり、ASEANや中国などの新興国と比較しても依然として低い(日本は約580台/千人)。若年層・労働人口の多いインド市場が内包する成長余力は膨大で、何年先になるかは分からないが、2000万台、3000万台に膨れ上ることも十分想定される。

コストプレッシャーの厳しさと成長機会への期待感が織り交ざるインド。こうした中で日系企業はどう戦うのか。当たり前だが、インド人顧客が求めるものを理解し、それを提供するということに尽きる。そして、地道な現地化がインド市場の成長によってもたらされる果実にたどり着くための鍵である。

◆セミナー詳細
日程:2013年2月25日(月)
時間:14時00分~17時00分(開場13時40分)
場所:ベルサール八重洲
対象:法人担当者限定
・インド進出をご検討中または進出している自動車関連企業の経営企画室海外事業部担当者や現地法人社員
・「自動車関連企業様向けインド派遣公開講座」の参加を検討する方
参加費:5000円(税込)
セミナー内容:
■第一部 基調講演
「インド自動車業界の現状と今後」フォーイン 中田徹氏
■第二部 パネルディスカッション
「インド自動車業界成功の秘訣や市場特性」ランジャン ワーシスト氏、アルーインド マネージングディレクター 岩名隼人氏
■第三部 質疑応答

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《中田徹》

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