【池原照雄の単眼複眼】3年間工場新設を凍結するトヨタの狙い

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堤工場 プリウス生産ライン(資料画像)
堤工場 プリウス生産ライン(資料画像) 全 4 枚 拡大写真

販売増には既存設備を最大限活用する

トヨタ自動車が2013年度から3年間、国内外で車両工場の新設を原則凍結する。2012年は5年ぶりに世界販売が過去最多となり、足元では円高の修正で業績の急回復も進んでいる。08年秋のリーマン・ショック以降、度重なる苦境を経て攻勢に向かう13年ではあるものの、「出ずる」はしっかり制する。

工場新設の凍結方針は一部メディアで報じられていたが、2月5日の決算発表の際に、伊地知隆彦取締役専務役員が「トップのメッセージ」だとして、コンファームした。今年半ばに稼働予定のタイのゲートウェイ第2工場(年産能力7万台)など、すでに新設計画が進んでいるもの以外は新規投資せず「既存設備の最大限の活用や稼働面の工夫」(伊地知専務)で、販売増に対処する。

リーマン・ショックまでの急成長期の反省を生かし、能力増には「ケチケチ作戦」で臨む。トヨタは02年から07年まで毎年50万~60万台のペースで世界販売を拡大させてきた。グループの生産実績は01年の585万台が6年後の07年には950万台に急増した。その翌年に金融危機に見舞われたのだった。

残ったのは「円安メリット」だけだった

トヨタはこの急成長期にも年3000億円規模の原価低減を行ってきたが、投資増に伴って固定費も急拡大、「結局、(増益要因として)残ったのは円安メリットのみ」(伊地知専務)という収益体質になっていた。そこから、「固定費をコントロール」(同)しながら損益分岐点を下げる改善策を進め、足元では1ドル79円レベルでもトヨタ単体も黒字を確保できるようになった。

人も企業も急成長期には、自らの身の丈を冷静に測るのは難しい。07年に至るまで、トヨタも懸命に足元を固めようとしたが、世界での需要増への対処が優先されたのは否めない。05年10月の富士重工業との提携は、米GM(ゼネラルモーターズ)と富士重工の資本提携解消が引き金となったものの、兵たん線が伸びきるほど成長が加速していたトヨタには最適のパートナーが出現した形だった。

トヨタは07年春から富士重工の米国工場に『カムリ』を年10万台生産委託し、スピーディーな能力増を実現した。それ以前に筆者が驚かされたのは、06年初めから順次100人余に及ぶ富士重工の開発技術者がトヨタに派遣され、トヨタ車の開発に携わったことだった。これは後に共同開発するスポーツカー『86』、『BRZ』のことではなく、すでにスケジュール化されていたトヨタ車の開発工数の不足を補うための援軍だったのだ。

高岡工場“革新ライン”の反省

製造現場では、企業や業種を超えた応援派遣はあるが、自動車の開発部門では異例の措置だった。幸い、これを機に両社の信頼関係が醸成され、今日の良好な提携関係に発展しているが、当時は「成長機会」に対するトヨタの貪欲な執念を見る思いだった。

その頃のちょっと贅沢な工場投資としては、「革新ライン」の名のもとに07年夏に刷新・稼働した高岡工場(豊田市)第1ラインがある。高精度な計測装置によるライン内検査や、組み付け部品をあらかじめセットしてラインサイドに供給する方式などにより、高品質確保とトヨタでは最速のラインスピードを実現した。ただし、投資負担の大きいラインになったとの反省を残し、国内外への横展開も08年末に稼働したカナダ第2工場にとどまった。

大赤字に転落したなかで09年に就任した豊田章男社長は、11年3月に策定したグローバルビジョンで、リーマン・ショックのような経営環境の激変があっても連結営業利益率5%を安定的に確保できる企業体質の構築を掲げた。13年3月期はこの目標に届くものの、激変時への備えという点では幾ばくかの不安は残る。

しばらく工場新設は認めないという方針は、トヨタの体質改善がまだ盤石ではないということを社内に浸透させる効果も大きい。「もっといいクルマをつくろうよ」ということと同じくらい、単純明快なメッセージであるからだ。

《池原照雄》

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