理化学研究所などは、ブラックホールに落ち込む最後の1/100秒を解明したと発表した。
理化学研究所、京都大学、日本大学、東京大学は、代表的なブラックホール天体である「はくちょう座X-1」をX線観測衛星「すざく」で観測し、ブラックホールに高温ガスが落ち込む最後の100分の1秒に、10億度以上にまで急激に加熱され、高エネルギーX線を出すことを突き止めた。
ブラックホールの直接的な証明に一歩近づくことができた。
これは、理研仁科加速器研究センター玉川高エネルギー宇宙物理研究室の山田真也基礎科学特別研究員らを中心とした共同研究グループの成果。
ブラックホールは恒星とペアになって、お互いの周りをくっつかずにぐるぐる回り続けることがあり、それをブラックホール連星と呼ぶ。ブラックホール連星の周囲には、恒星からのガスが取り巻いており、それらはやがてブラックホールに吸い込まれていく。その際、ガスは高温になり、X線で明るく輝くと考えられている。
宇宙に本当にブラックホールがあるのかどうかは、長年の謎だったが、20世紀後半のX線天文学の発展により、少しずつ存在の手がかりが得られてきた。そのひとつに周囲からのガスがブラックホールに吸い込まれる時、X線の強度が激しく変化することがあげられる。ブラックホール近傍のガスは、高温で主にX線で明るく光るため、その明るさや色(波長)、それらの時間変化を調べることで、ブラックホール極近傍にあるガスの流れを「観測」することができる。
学術的にブラックホールの存在を疑う人はほとんどいないものの、厳密な存在証明は確立されていない。このため、X線で「観測」することにより、より確かな観測証拠を得ることが期待されていた。
共同研究グループは、X線観測衛星「すざく」を用いて、最も代表的なブラックホール連星「はくちょう座X-1」を観測した。ブラックホール天体からのX線強度は激しく変動しており、その強度変動曲線はいくつものピーク(ショット)をもつことが知られている。このピーク時に、ガスが塊となってブラックホールに落ちこむと考えられている。
山田研究員らは、感度に優れた硬X線検出器を用いて、ショットをいくつも重ね合わせてX線光子を集めるという独自の手法「重ね合わせショット解析」を適用することにより、初めてブラックホールにガスが落ち込む時のガスの温度変化を測定することに成功した。
この結果、ブラックホールにガスが落ち込む最後の100分の1秒という瞬間に、ガスが10億度以上まで急激に加熱されることを発見した。中性子星など表面がある天体の場合、数千万度の天体表面からの強い放射が落ち込むガスを効率よく冷やすため、ガス温度が急激に10億度にまで加熱されることは無い。急激に10億度に加熱されたということは、中心に表面の無い天体、つまりブラックホールがあることを意味する。
今後、共同研究グループは、次期X線観測衛星「ASTRO-H」と世界初の偏光衛星「GEMS」の開発・研究に取り組み、ブラックホールの徹底解明を目指す。
今回の成果は、米国の科学雑誌「The Astrophysical Journal Letters」オンライン版(4月8日付け)に掲載される。