ハイブリッド燃費、首位陥落見通しのトヨタ…再逆転のシナリオはいかに

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ホンダ フィットHV(プロトタイプ)
ホンダ フィットHV(プロトタイプ) 全 8 枚 拡大写真

JC08モード走行時の燃費が36.4km/リットルと、トヨタ自動車『アクア』の35.4km/リットルを抜いて燃費のトップランナーとなる見通しの次期ホンダ『フィットハイブリッド』。6月には同30km/リットルの『アコードハイブリッド』でトヨタ『カムリ』を抜き、ミドルクラスセダンの燃費トップを獲るなど、ホンダがハイブリッドカー攻勢を強めている。

焦燥の見られない豊田社長に対し、危機感漂う開発現場

97年に世界に先がけて量産ハイブリッドカー『プリウス』を発売して以来、ハイブリッドカー市場で圧倒的な支配力を維持してきたトヨタは、この攻勢をどう受け止めているのだろうか。豊田章男社長は「これまで500万台のハイブリッドカーを作ってきたなかで積んできた経験が我々にはある。燃費だけでなく、いろいろな面でいいクルマを作ることで頑張っていきたい」と、余裕を見せる。

これは何も負け惜しみとは限らない。トヨタのハイブリッドシステムTHS IIはすでに熟成の域に達しており、機械的な洗練度は素晴らしい。レクサス『IS』や『クラウン』に搭載された最新のシステムは、もはや動力分割機構や発電機のノイズはゼロ同然で、ホンダの新システムに対してもアドバンテージを維持している。また、エンジンとモーターのトルクを混ぜ合わせるという難しいチューニングについても、相当自然なものに仕立てられており、多くの人が良いと思えるレベルに近づきつつある。まさに一朝一夕には得られないノウハウのたまものと言える。

が、ハイブリッドカーを作る開発現場は、そんなアドバンテージとは裏腹に、ピリピリとした空気に包まれているという。

「ホンダさんは4年前にも『インサイト』で価格競争を仕掛けてきましたが、今回はその時とプレッシャーが全然違う。いろいろな技術情報から、ライバルのなかでホンダさんが最初にキャッチアップしてくるだろうとは予想していましたが、本気度は想像以上でした。気を引き締めてかからないと」

ハイブリッド技術の開発に携わるエンジニアのひとりはこのように語る。

“ミスターハイブリッド”を刺激した次期型フィットの登場

研究開発部門のなかでも一番エキサイトしているのは、初代プリウスの開発責任者で“ミスターハイブリッド”を自認する内山田竹志会長だ。これまでトヨタのハイブリッドカーが世界を席巻してきた一番の原動力は、何と言っても燃費性能の高さである。これまでもライバルがトヨタのハイブリッドを上回る燃費性能のクルマを出すことは時々あったが、すぐに圧倒的な差をつけて抜き返すことができていた。

が、今回ホンダが出してきた性能は、そのトヨタにとっても一蹴できるようなものではないという。内山田氏にとって、トヨタのハイブリッドは燃費性能でライバルを圧倒していて当然で、後れを取ることは到底我慢ならないことだ。屈辱を晴らすためにも圧倒的に抜き返せというわけだ。

トヨタは果たして、フィットハイブリッドやアコードハイブリッドを抜いて、ふたたびトップランナーのポジションに返り咲けるのか。

まずは装置搭載の余地があるアクアで巻き返しを

容易に対処できるとトヨタがみているのは、国内最高の燃費性能となるフィットハイブリッドのほうだ。アクアとフィットハイブリッドのJC08モード走行時燃費の差は1km/リットル。30km/リットル台後半という燃費の限界に近い領域での戦いではあるが、アクアにはフィットを上回るだけの伸びしろが残されている。

「もともとアクアは、高価な2モーター式ハイブリッドをコスト制約の厳しいコンパクトカーに積むということで、これをつかえば燃費性能を上げるのに役立つというデバイスをいろいろ我慢したんです。パワートレインの制御を変えて、さらに燃費を向上させる装置を加えれば、すぐに抜き返せると思います。細かいことは話せませんが、相手を0コンマ数km程度上回るのでは借りを返したことにはならない。それなりの数字を出すつもりでいます」(前出のトヨタのエンジニア)

ホンダの開発陣も、「トヨタさんが近々アクアをマイナーチェンジし、抜き返してくることは想定の範囲内」と言う。コスト重視の1モーターでも作り方によっては2モーターと互角に戦えることを示せれば、所期の目標は十分に達成したと考えているのだ。

期待される次世代ユニット開発…登場の時期は?

トヨタにとって難敵となりそうなのは、燃費の新トップランナーとなるフィットハイブリッドではなく、ミドルクラスナンバーワンの座をカムリハイブリッドから奪っていったアコードのほうだという。

「動力性能をはじめ、トヨタのハイブリッドシステムTHS IIが勝っている部分もまだまだありますが、こと燃費性能については、今のTHS IIでアコードハイブリッドを上回るのはかなり難しい。もちろんエンジンの排気量が違ったりといったこともありますが、ホンダさんのシステムが何より優れているのは電動部分のエネルギーロスの少なさ。本格的に対抗するには、次世代のシステムが必要かも」(トヨタのエンジニア)

トヨタは長年、エンジンと発電機、駆動用モーターの使い分けの自由度が高い、遊星ギアを用いた動力分割機構を使い続けてきたが、今日、その動力分割機構に大幅な改良を加えた次世代ユニットを開発中だ。今のシステムでは発電機と駆動用モーターが必ず両方回っていなければならず、熱損失や遊星ギア部分の抵抗が少なからずあった。

次世代機は駆動用モーターや発電機と動力分割機構の間にクラッチを設け、1個のモーターだけで走行可能という方式が有力。またバッテリーも使い慣れてきたニッケル水素電池から、今日ではプラグインハイブリッドカーや一部ミニバンにしか使われていないリチウムイオン電池をメインにする可能性もある。が、そのシステムの登場にはあと2年ほどかかるものとみられる。

「もちろん我々もノシをつけて借りを返すつもりですが、ホンダさんの2モーターシステムも量産が進めばコストは下がっていく。また、生産技術が進化すれば『シビック』クラスの2モーターも適正コストで作れるようになるかもしれない。タフな戦いになりますね」(トヨタのエンジニア)

ハイブリッドカーの燃費競争は当面、トヨタとホンダの戦いを頂点として繰り広げられることになるだろう。ミドルクラスで30km/リットル台、コンパクトでは40km/リットルが当面の目標ラインになるとみていい。クルマのエネルギー効率はどこまで上がっていくのか、その行方が注目される。

《井元康一郎》

井元康一郎

井元康一郎 鹿児島出身。大学卒業後、パイプオルガン奏者、高校教員、娯楽誌記者、経済誌記者などを経て独立。自動車、宇宙航空、電機、化学、映画、音楽、楽器などをフィールドに、取材・執筆活動を行っている。 著書に『プリウスvsインサイト』(小学館)、『レクサス─トヨタは世界的ブランドを打ち出せるのか』(プレジデント社)がある。

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